「二分の一成人式」節目の年の活動アイデア|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

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沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
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国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

「ダンシング掃除」や「勝手に観光大使」などのユニークな方法で子供たちの「やる気」を引き出すカリスマ教師「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生。

今回は「二分の一成人式」について、ぬまっち流の考えや、10歳という節目の年の活動アイデアについて聞いてみました。

ぬまっち連載
撮影/下重修

節目の年としての活動は大事だが、セレモニーである必要はない

ボクが勤務している小学校では、「二分の一成人式」という行事は行っていない。そして、現在はこの「二分の一成人式」について、いろいろな議論があることは知っている。

ボクの個人的な見解としては、「10歳を節目の年」と捉えることは問題ないと思うし、節目の年ならではの活動をするということに対しても賛成だ。ただし、それが必ずしも「二分の一成人式」でないといけないとは思わない。

もし、「二分の一成人式」の目的が、「10歳を節目の年と捉え、子供たちにこれから大人に近づいていくという自覚をもたせ、精神的成長を促すもの」であるとするならば、形式的なセレモニーをする必要はなく、「10歳になったから、大人の力を借りずにこんなことができるようになった」と自信をもたせる活動をしたほうがよいと思っている。

自主・自立的な活動を通して、校外で活躍する経験をさせる

ボクは4年生の担任になると、自立の一歩として、「保護者の力を借りずに、家庭や学校外で活躍する」という経験をさせることにしている

例えば、都立病院や近隣の幼稚園・保育園で子供たちがダンスショーを開催し、「憧れの4年生になる」というプロジェクトにトライしたことがある。

子供たちは一生懸命このプロジェクトを盛り上げようと、自分たちで様々な工夫を凝らした。そして自分たちが本気で踊ることで、「『この学校の4年生はすごいな。私もあの学校に入りたいな』と思う人を増やし、自分たちのファンをつくる!」と鼻息荒く活動に取り組んでいた(笑)。

クラスメイトの中で総理大臣を決め、文科省など各省庁をつくり、子供主体で学級運営をさせる「内閣活動」をしたこともある。

また、勝手に観光大使」というプロジェクトも、4年生にはお薦めの活動だ。

「勝手に観光大使」は、社会科で都道府県の特色を勉強する際、自分で好きな都道府県を選び、「勝手」にそこの「観光大使」に就任し、その土地の良さをPRするというもの。

子供たちは観光大使になり切ってその土地について調べ上げ、パワーポイントを駆使しながらかなりレベルの高い資料を作ってくれるので、できあがった資料は各都道府県に郵送している。そしてほとんどの都道府県からお礼の返事やコメントをいただいている。
ある年の4年生では、東京都について徹底的に調べ、プレゼンテーション力も鍛え上げて、実際に東京都庁に出向いて観光施策についてプレゼンテーションを行った。

この活動の大きな目的は、大人になる一つのステップとして、自分たちの自由な発想や自立的な活動を通して、世の中に対して何か行動を起こすことができたという経験を積ませること

とくに、校内完結ではなく、学校外に出て、「自分たちの力で世間に何らかの影響を与えられたぜ!」という経験をさせることがポイントだと思っている。

今後の人生に対する見通しや、心がまえをもたせる話をする

10歳になった子供たちには、人生について、ちょっと厳しい話もするようにしている。

例えば、「人生で一番楽しい10年間が終わってしまったな」と言ったりする

ボクが「君たちのこれまでの10年間は、比較的自由に何でもできたよね」と言うと、子供たちは「できない」「できなかった」などと文句を言う。

そこで「君たちはそう思うかもしれないけれど、生まれてから最初の3年くらいはご飯を食べて、寝ているだけでほめられていたんだよ。そしてその後も、ちょっと叱られることはあっても、比較的自由に過ごせる数年間を過ごしたはずだ。小学校に上がってからは、習い事や宿題が増えてきついなと思うこともあるかもしれないけれど、実際ここから先は、もっともっときつい数年間が待っている。 いままでは言ってみれば「なんでもやってもらえる10年」だったね。でも ここから先の10年は、チャレンジの10年だ。どんなに嫌なことでも、絶対に自分でやらなければならない場面がたくさん出てくる」などと話す。
大人への一歩として、チャレンジすることを学ぶことも必要だと思うからだ。

そして「10歳を越えたらチャレンジしかない10年。30歳を越えたらちょっと落ち着いてくる。そして40歳越えると、今のボクの歳になる。頭はシャキッとしているけれど、身体は変な衰えを感じるよ(笑)」 などと、ボクの場合は自分の経験も話しながら、子供たちに今後の人生の見通しをもたせるようにしている。

大事なのは、活動の目的を明確にし、子供を一人の人間として尊重すること

「二分の一成人式」についてはさまざまな議論があるけれど、恐らく、「二分の一成人式」というネーミングが一人歩きしてしまっていて、本来の目的が見えにくくなっているんじゃないかな?

この現象は「組体操」と一緒かもしれない。

もしその活動でしか、本来の目的が達成できないのならやればよいと思うけれど、本当にその活動でなければならないのかについては、もっと客観視する必要があると思う。

組体操をする目的が「達成感を味わわせる」なのであれば、組体操とは別の活動で達成感を味わうことができるのではないだろうか、と考えてみることもできるはずだ。

「二分の一成人式」についても、「成人に向かわせるための心がまえをつくる」という目的があるのであれば、まずは、「これまでの10年間は、大人に何かをしてもらわないと何もできなかった。でもこれからの10年は、自分で何でもできるようになっていく10年間だ」という意識付けをして、そのためにどんな経験が役に立つのか考えることが重要なんじゃないかな。

そして活動させるときに最も大切なことは、周囲の大人が子供を一人の人間として見て、尊重してあげることなのだと思う。

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沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/

取材・構成・文/出浦文絵

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