今月は次年度を安定して過ごすための準備月間|3月【特別支援学級の学級経営】
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文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は今年度最後を過ごす3月についてのお話です。
構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

目次
登場人物
皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター
島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目
根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目
しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる
短期目標2:動物が入る作品作りでは、同じテーマの友だちの作品と並べて展示することができる
短期目標3:5分間程度、同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる
るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる
短期目標2:会話の中で質問されて、はい、いいえの答えを返すことができる
短期目標3:「朝ごはんは何を食べたの?」などの簡単な質問を受け、同じ質問を返すことができる
ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる
短期目標2:タブレットで文字を書いたり入力したりすることができる
短期目標3:タブレットで毎日の連絡帳などを写真に撮ったり文字を書いたり入力したりすることができる
3月のとある日の教員室での会話
(島原先生)
今年度も残りわずかですね。残りの日々、春休み、何をしようかな。
(根本先生)
春休みのことを考えるのもいいけれど、ゆうかさんの調子がなんだか整わなくて……。体調を崩すこともあってね。忘れ物もちょっと増えている感じがします。
(島原先生)
そう言われると……るなさんも、ぼうっと静かに本を読んでいるのか、見ているだけなのか、はっきりしないときがあるな。
(皆川先生)
この時期は季節の変わり目があったり、次の学年への不安だったりから、体調の整わない子どもがいるのよね。意識しておくだけで、対応の仕方や子どもに接するときの心持ちが違ってくるね。
3月はあっという間に過ぎ去ってしまいます。でも、特別支援学級では大きなクラス替えもないので、この月が次年度を安定して過ごす準備月間と言えるかもしれません。
【POINT1】季節の変化により、子どもの状態も変わることを想定しておく
冬から春へと季節が変わるときには、急に暖かくなったり冷え込んだりを繰り返したり、何度かまとまった雨が降ることは、大人になると「そういうもの」と捉えることができます。
しかし、子どもたちは季節の変化を知識として知っていたとしても、体感し、習慣化するには、まだまだ人生経験として短いでしょう。未熟であるからこそ、周囲の大人が支え育んでいくことは、教育に携わる者として、備えておきたい感覚だと私は考えています。
そもそも論として、季節の変わり目に体調を崩しやすいのは大人も同じです。昼夜の温度差が激しくなる季節の変わり目は、自律神経のバランスを崩しやすいと言われています。その結果、体調不良の原因となるのです。
とくに春は気圧の変化によっても、自律神経のバランスを崩しやすい季節でもあります。気圧が上がったり下がったりすると、耳の奥にある内耳が敏感に感知するのです。これも個人差があるので、全く気にならない人もいれば、過敏な方もいます。大人でもこうなのですから、身体的にも未熟な子どもは、より一層大変なのかもしれません。
なんだか子どもがぼうっとしている。
いつもはすっと活動するのに、ちょっとゆっくりだなあ。
と感じるときは、間髪入れずに叱るのではなく、「どうしたのかな」「何かあったのかな」と背景要因を探るときに、もう1ポイント付け加えて、季節の変わり目を意識するといいかもしれません。
この環境の変化を教師が調整することは難しいので、受け入れるしかないと考えています。だからこそ、想定しておくことが大切です。
リラックスする手だてで有名なものは、呼吸を意識するリラクゼーションです。私が研修会で教えてもらったものの中に、「4・4・8法」というものがあります。これは
4秒間かけて、鼻から息を吸い、
4秒間、止めておいて、
8秒間かけて、鼻から息をゆっくりはく
方法です。呼吸法は、ほかにもたくさんあるので、子どもたちに合ったものを選んでみてください。
【POINT2】次の学年への不安から調子を崩すこともある
特別支援学級だけではなく通常の学級であっても、次年度への不安は子どもたちに起こり得ます。卒業学年にもなれば目の前に見えない進学先のことを思い、不安定になり学級が揺れることもしばしば。
もちろん、全く気にならない子どももいます。特別支援学級の子どもたちは、見通しがある程度見えることで落ち着きを見せたり、心の安定を保つことができたりすることがあります。調子のよいときを見計らって、隣接学年の子ども同士で記録写真などを用いて「こんなことをしたよ」とか「このような行事があるね」など、見通しをもつことのできる学習活動を取り入れることも有効な手だてかもしれません。
9月の記事のPOINT2にもつづった、見通しの視覚化をいっしょに作ってもいいかもしれません。たとえば、ある程度のカレンダーを壁面に作っておき、イラストは子どもが描いたものではなく、簡単なものにとどめておきます。
そして次年度がスタートしてからは、そのときの写真を貼ったり、描いた絵などを貼ったりすることで、大きな学級掲示にも使えそうです。
このような取組をするなかで次年度の見通しが見えてきて、不安が小さくなるかもしれません。でもこれは逆にも当てはまり、不安が大きくなってしまう場合もあるので、子どもの実態に合わせて取り組む必要があります。
【POINT3】成長はスパイラル曲線! 人生、山あり谷ありです
ゆうかさんの忘れ物、るなさんのおしゃべり、しゅんたさんのマイペースさはその瞬間で捉えると、いろいろな感情が湧くかもしれませんが、右肩上がりの成長なんて、ほぼ無いと言えるのではないでしょうか。圧を与える発言や動作、大人の都合で子どもたちを動かしてしまうような指示をしていなければ、「私が担任したときに、あの子は落ち込んで……」と考える必要はありません。成長はスパイラル曲線! 人生、山あり谷ありです。
先日、当時担任した6年生たちと26年ぶりに再会しました。短い時間でしたが、社会での活躍ぶりを聞いてとても驚きました。授業に集中しなかった子が会社を経営していたり、少し乱暴な発言を投げかけてきた子が、高校や大学の生徒にかかわる仕事をしていたりと、子どもたちの人生に少しだけかかわるのが教師ではありますが、頼もしさとうれしさと、そして自分もまだまだ頑張らないと! という気持ちを新たにしました。
だから、「学年の集大成の3月なのに!」と焦る必要は全くありません。次年度の先生へとバトンをつなげばいいのです。
(皆川先生)
島原先生、明日から3日間ほど雨が降るみたいよ。るなさんの調子を見ながら、「ぼうっとタイム」を入れて、自分の呼吸を意識する活動をしてみるのはどうかな。
(根本先生)
この間取り組んだ、“心と体のリラックスタイム”ですね。
(島原先生)
ですね! 早速明日の授業で取り入れてみようと思います。
いかがでしたか。年度末だからと気負ってしまっては子どもたちに良い影響がありません。季節の変わり目による体調変化なども考慮し、見通しをもたせた学級経営を心がけたいですね。年度最後の3月を笑顔いっぱいで終え、余裕をもってスタートできる新年度でありますように!
イラスト/terumi