学級活動(2)(3)の「4段階展開法」の指導とは【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】⑧

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やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本
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宮川八岐

宮川八岐・元文部科学省視学官による「やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本」の連載8回目。今回は、学級活動(2)・(3)の指導の特質及び基本的な指導のあり方について、みなさんと一緒に考えていきましょう。

執筆/元文部科学省視学官・宮川八岐

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「学級活動(1)及び(2)・(3)の特質」の再確認から!

学級活動は学級活動(1)だけでなく、学級活動(2)・(3)も含む構造になっています。そこで、今回は〈学級会の「3つの柱」と「3段階討議法」とは【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】⑤〉で特集した学級活動(1)の学級会の指導と学級活動(2)・(3)の指導との特質上の違いを比較して、両者のねらいや指導のあり方を再確認しましょう。

次の比較表は、学習指導要領における学級活動の変遷を踏まえた特質上の違いを大づかみで捉えたものです。

比較表

次に各項目について説明します。

1.学級活動の内容を「A」と「B」とにしていることについて

現在の学習指導要領で言えば、学級活動の内容は、学級活動(1)(2)(3)の3つの内容になっています。それをここではあえて「A」と「B」で示していますが、「A」は、平成元年改訂以前の「学級会活動」の内容であり、「B」は、平成元年改訂以前の「学級指導」の内容です。平成元年改訂以降「A」が学級活動(1)となり、「B」は、平成29年改訂までの学級活動(2)と平成29年改訂による学級活動(3)になります。学級活動(3)は、平成29年改訂により(2)の内容の一部が新たな捉え方で設定されたものです。つまり、(2)と(3)はかつての生徒指導充実の内容としての学級指導であり、基盤的な指導過程はほぼ同一のものとして大づかみに「B」としているということです。

2.「①授業内容」について

学級活動(1)の授業は、生活上の諸問題のなかから児童が問題を見いだして「議題」とし、それを解決するために話し合うのが基本的な内容です。それに対して、学級活動(2)・(3)の授業は、学校(教師)が作成した年間指導計画に位置付けてある指導内容を「題材」とし、資料などを用いて話し合い、個々の児童が自ら取り組む実践課題を児童が自己(意思)決定することを目指して行われるものです。

現実的には、これまで都道府県によっては小学校の、あるいは多くの中学校などで上述した峻別がなされておらず、すべてを題材としている実践が見られ、その是非が研究会などでよく問題になることがありました。

3.「②問題の性質」について

「議題」と「題材」との違いと深く関わりがありますが、学級会で取り上げられる議題は、学級の全員で生活上の問題についてともに解決方法を考え、全員で解決を目指す「共同の問題」であり、学級活動(2)・(3)の題材は、日常生活などにおいて学級の誰もが現在及びやがて直面しうる問題(課題)を「共通の問題」と言って学級活動の指導の特質を明確にするうえで使い分けをしてきました。

昭和33年の学習指導要領で学級会活動〈現行の学級活動(1)〉が必修になり、昭和42年改訂で学級指導〈現行の学級活動(2)・(3)〉が教育課程化された時点から基本的な考え方は現在も変わっていません。

4.「③話合いの形」について

③を「話合いの形」としていますが、別言すれば「話合いのねらい・方法」ということです。本時の話合いの形態的な違いの比較を端的に表現したかったのです。

学級活動(1)の話合いは、いわゆる学級会と称して行われる、集団としての実践目標を決める集団活動です。その話合いの活動は、学級の児童全員で議題を選定し、全員で決定した議題について、その解決・実現を目指して学級の総意としての集団目標を集団決定することを特質とします。従って、学級活動(1)の特質をまとめると「集団討議による集団目標の集団決定の話合い」ということになります。

それに対して学級活動(2)・(3)の話合いは、児童一人一人に身に付けさせたい各種の課題、例えば、基本的な生活習慣の形成、よりよい人間関係の形成、心身ともに健康で安全な生活態度の形成など、学習指導要領に示されている内容を踏まえた学校の年間指導計画に示してある題材について、教師の指導を中心に話合い(集団思考)を行う集団活動です。その授業においては、どの児童にも共通の課題(目標)ではあるものの、基本的には児童一人一人が自分に合った実践目標(個人目標)を自己決定するための話合いを行うことが特質とされています。したがって、学級活動(2)・(3)の特質をまとめると「集団思考による個人目標の自己決定の話合い」ということになります。

5.「④授業の進行」について

これまでの説明で、学級活動(1)の授業と、(2)・(3)の授業の特質上の違いが明確になったと思います。これまでの説明のなかでも述べている「授業の進行」を誰がするのかの違いについても特筆します。

まず、学級活動(1)学級会の進行の中心は「児童による計画委員会」が行うということです。学級内に「計画委員会」を組織し、議題集めから選定、学級会の進行、事後の活動に向けた一連の活動を担います。これが児童の自発的、自治的活動を通して自治的能力を育てる教育課程なのです。

それに対して、学級活動(2)・(3)の授業は、「教師」が行うということです。(4)で「学習指導要領に示されている内容を踏まえた学校の年間指導計画に示してある題材について、教師の指導を中心に話合い(集団思考)を行う集団活動」と述べましたが、学級担任が授業展開の計画を立て、必要な資料を用意して授業を行います。その授業展開においては児童の経験や意見、疑問点などを取り上げ、児童の話合いを生かし、指導内容によっては体験的な活動を取り入れるなどします。

また、必要に応じて養護教諭や司書教諭などをはじめとするゲストティーチャーとの協力授業を行うことも効果的です。また、場合によっては、資料の準備や問題の把握の段階などの資料提示などで計画委員会を生かすことも考えられます。

計画委員が発表写真
「調べたこと」を計画委員が発表する。

6.「⑤実践」について

これまでの説明から「実践」に関わる両者の違いは明らかで、学級活動(1)学級会の実践は、集団討議をして集団目標(「何を」「どう行うか」「役割の分担」まで)を集団決定して「集団実践」することを特質としています。

それに対して学級活動(2)・(3)の実践は、授業において自己決定(意思決定)した個人目標の「個人実践」を目指すことが特質になります。

つまり、学級会は学級生活を豊かにする共同の問題を全員が役割を分担して集団実践を目指す話合いをするのですから、個人の問題を議題として話し合うことは望ましくありません。一方、学級活動(2)・(3)の授業は、児童一人一人が自分に合った目標を自己決定することなく、生活指導に関わる問題を集団目標の指導で終始するようでは、児童の主体的な実践的態度を育成することはできません。前者は、「自治的能力の育成を目指す授業」であり、後者は、「自己指導能力の育成(生徒指導)の授業」であるということの再確認が必要です。

学級活動(2)・(3)の授業展開のポイント!

学級活動(2)・(3)は、学習指導要領の平成元年改訂以前の学級指導の内容であり、その授業の指導過程の基本は、生徒指導の機能を生かした、いわば「4段階展開法」の授業展開を基本として実践されています。その各段階ごとの「押さえどころ」や「資料」について述べましょう。

1.問題の把握(つかむ)

⭕️指導内容に係る<現状>あるいは<やがて当面しうる問題(課題)>を提示し、児童に「えっ」という問題意識を高めます。

⭕️その問題(学級、学年、学校などの実態)をグラフや絵・映像などの資料で提示し、気付いたことを発表させます。事前にアンケートをとって資料化するなど工夫します。

教師がアンケート結果を説明(3年生の資料)
教師がアンケート結果を説明(3年生の資料)。
資料
児童たちに見せる資料

2. 原因の追求(さぐる)

⭕️提示した問題の原因、背景などを小グループなどで話し合ったことを短冊に書かせ発表させるようにします。

⭕️短冊の内容を分類していくつかの問題(課題)に整理し、教師からも「こういうことはどうなの?」などと提示します。

小グループでの話合い
小グループ(生活班)での話合い。
教師が紙芝居の資料で説明
教師が紙芝居の資料で説明(低学年)。

3.解決策(みつける)

⭕️いくつかの問題(課題)ごとに児童の予想や経験などを具体的に取り上げ、どうしたら改善したり防止したりできるかを話し合い、 解決策を見いだすようにします。

⭕️問題(課題)によっては、学級全体での意見交流やグループの話合い、また、体験(行ってみる)の場やゲストティーチャーなどとの協力授業を取り入れるなど、様々な解決策への理解を深めるように工夫します。この段階に十分時間をとるようにすることが指導充実のポイントです。

「ほうきの使い方」(小グループで)
「ほうきの使い方」(小グループで)。
「食材選び」(やってみる活動)
「食材選び」(やってみる活動)。
小グループの話合い
小グループ(課題別)の話合い。
養護教諭とのT・Tの授業
養護教諭とのT・Tの授業。

4. 個人目標の 自己決定(きめる)

⭕️様々な解決策のなかから、児童自らこれからの実践目標を自己決定します。<意思決定>とも言われるように、児童一人一人が 自分なりによく考えてめあて実現の見通しを立てることができるようにします。この段階で「めあてカード」に記入することになります。

⭕️題材や時間配分によっては、各自が個人目標をめあてカードに記入し終わった後に何人かを指名して、めあてを発表させることも考えられます。そうしたことも踏まえて自己決定しためあてを修正することがあってもよいでしょう。

めあてを紹介し合って(ペアの活動)
めあてを紹介し合って(ペアの活動)。
「めあてカード」へ個人目標の記入
「めあてカード」に個人目標を記入。

学級活動(2)・(3)の指導充実の課題

昭和40年代の学習指導要領の改訂から、現在の学級活動(2)・(3)の前身である学級指導の効果的な指導のあり方として、言わば「4段階指導法」〈①問題の把握、②原因の追求、③解決策、④個人目標の自己(意思)決定〉が、生徒指導の機能を生かした指導の工夫として広く実践されてきました。

ここで、前述の「授業展開のポイント」の説明で押さえていることも含め、本授業の指導充実(指導案作成時)の課題として、これまで研修会などでお話ししてきたなかから6項目紹介します。

1.「年間指導計画」に位置付けられている題材の授業

学級活動(2)・(3)で取り上げる題材は、日常の指導の補充・深化・統合の意図をもった授業として実施されるものです。したがって、学校として取り上げる題材は、発達の段階に応じた重点的かつ学年系統的な内容を設定しておくことが必要です。それが年間指導計画になります。指導内容や資料などについては学級担任の思い付きや日常において指導できるものではなく、特別活動部などで十分検討し、指導の評価等を踏まえて改善を図っていくことが大切です。しかも、可能な限り同一題材については、学年、全校で同じ時期に指導することが効果を上げるとされています。

2.適切な「資料の活用」

学級活動(1)の指導充実の鍵は、「議題の適否」にあり、学級活動(2)・(3)の授業充実の鍵は「資料の善し悪し」であると言われます。資料を読み、資料で考え、資料で話し合うのが学級活動(2)・(3)の授業なのです。その資料は、学年会で作成します。基本的にはどの学級もほぼ同一の資料を活用します。しかも、発達の段階を踏まえた資料(内容)であることが必要です。例えば、1年生の資料として棒グラフなどは適切ではなく、絵などを活用します。

3.「話合い」の場の設定

学級活動(1)の学級会の話合いは、集団目標を集団決定し、集団実践を目指す集団討議です。したがって、「自分もよくみんなもよいこと」について児童が互いの思いや願いなどを統合して合意形成を図る話合いを目指します。

それに対して学級活動(2)・(3)の話合いは、題材のねらいの実現に迫るために集団思考をし、基本的には、児童一人一人が自ら主体的に取り組む実践目標を自己(意思)決定できるようにするための話合いを目指します。その話合いは、問題(資料)についての学級全体での意見交流、意図的指名による意見発表とつながりのある話合い、小グループによる話合いなど、授業展開の場面にふさわしい話合いを組み合わせるといった工夫をします。問題や情報などの捉え方、経験や体験の交流、解決策の様々な工夫など、教師の意図的指導を中心に話合いが行われるようにします。

4.「やってみる場」の設定

学級活動(2)・(3)の題材の授業のねらいの多くは、学習したことの即時・即効を目指すものです。例えば、当番の指導で、適切な掃き掃除の仕方を理屈で学習し、モデル的に誰かがするだけでは誰もがすぐに実践できるものにはなりません。そこで小グループになってモデルのやり方を全員が「やってみる場」を設定することです。認め合ったり助言し合ったりという機会を授業のなかに設定することが大切です。そのことで、その日の掃除当番の仕事が変わることになるのです。

5.「豊富な解決策」を

4段階展開法のなかで、特に時間をかけたいのが「解決策」に関わる指導の段階です。児童の気付きや情報の交流に関わる活動、やってみる活動、教師や専門的な立場からの指導などに時間をかけ、様々な解決策について学び合えるようにすることが大切です。次の段階において、そのなかから児童一人一人が自分に合ったこれからの実践課題を見いだせるようにするためです。そのためにも、問題の把握などの段階で教師のおしゃべりが長くなったり、資料提示に凝りすぎて時間配分が適切でなかったりすることがないようにしなければなりません。

6.「ティーム ティーチング」などの活用

前述の「授業のポイント」の<解決策>のなかでも述べているように、問題(課題)によっては、学級全体での意見交流やグループの話合いだけでなく、校内外の専門的な立場の方、つまりゲストティーチャーなどとの協力授業を取り入れるようにします。

特に、解決策の段階での専門的な立場の方などとの協力授業は、児童の実践への問題意識や実践意欲を高めるうえで有効です。ただ、その場合、授業全体の組み立てや資料づくり、時間などについては学級担任が依頼の範囲などを明確にして事前に打ち合わせをして詰めておくことが肝要です。

まとめ

今回は、特に学級活動(2)・(3)の授業の特質や指導のあり方や留意すべき点を大づかみに説明しました。しかも、児童の自治的能力の育成を目指す学級活動(1)の指導と児童一人一人の自己指導能力の育成を目指す学級活動(2)・(3)の指導をできるだけ対比的に捉える視点で述べました。

特に、学級活動(2)・(3)の指導については、都道府県市町村の教育委員会からの指導指針などを踏まえて適宜年間指導計画の改善を図りながら、学校、学年の組織的協働態勢のもとに指導充実を目指していただきたいと思います。

次回は、教科書のないこの領域についての理解を図るための研修をどうしたらよいかについて、実際の事例を紹介しながら、一緒に考える機会にしたいと思います。

宮川八岐(ミヤカワ・ヤキ)

宮川先生イラスト

埼玉県公立学校教員、教頭、草加市教育委員会、草加市立氷川小学校校長を経て、平成6年から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官(主に特別活動、生徒指導、学校図書館等)に。平成12年から同局視学官。平成16年度国立妙高少年自然の家所長、平成17~20年度まで日本体育大学教授、平成21~27年度まで國學院大學人間開発学部教授を務める。

構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

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