中学校進学を考えるときに大切にしたい視点|12月【特別支援学級の学級経営】
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文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は中学校進学に向けて心得ておきたいことについてのお話です。
構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和
目次
登場人物
皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター
島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目
根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目
しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる
短期目標2:動物が入る作品づくりでは、同じテーマの友だちの作品と並べて展示することができる
るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる
短期目標2:会話の中で質問されて、はい、いいえの答えを返すことができる
ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる
短期目標2:タブレットで文字を書いたり入力したりすることができる
12月のとある日の教員室での会話
(根本先生)
12月は進路の書類を提出する時期ですね。ゆうかさんの保護者さんから、通常の学級、特別支援学級、特別支援学校のどこがよいのかと相談されています。
(島原先生)
保護者さんにとっては、迷われますよね。こちらから「この学校へ行ってください」と、言うわけにも行かないし……。
(皆川先生)
自治体によっては、進学先がほぼ決まっているようなところもあるらしいけど、うちは、保護者が最終選択するのよね。
目の前の中学校進学も大事な視点なんだけど、18歳をどう迎えるかのほうが大切なのかなって、私は考えてるのよ。
(島原先生)
そんな先までのことを考えているんですか!?
【POINT1】それぞれの考えられるメリット、デメリットを整理する
中学校の進学は、保護者さんにとって大きな岐路になることがあります。進学先となる学校の環境設備によっては、選択がない場合もあります。その場合は、自治体の教育委員会特別支援教育課などと協議、相談となることでしょう。私が勤めた学校でも、校区ではない遠い場所から、送迎車を用意して通学していた生徒もいました。これは、自治体によって可否の判断が違うと思われるので、担任や保護者の一存で決めにくいこともあります。
いくつかの選択ができるので、校区内の中学校の通常の学級、特別支援学級、または、校区内の特別支援学校、それぞれの良さやその子どもが通うにあたってのメリット、デメリットをそれぞれ挙げて、検討する必要があるでしょう。例えば、
・通学時間や通学の方法
・学習のスタイルやカリキュラム
・支援にかかわる方の数
などが考えられます。万が一、それぞれの特性により何かがあったときの対応できる環境(カームダウンルームなど)も必要かもしれません。
また、特別支援学校によっては、事前の見学などが必要なことがあります。学校からも問い合わせできるようにしておきましょう。最近では、私学も、特別支援学級を設置し、入学募集をしているところもあるので、アンテナを張っておくといいかもしれません。こういったことを整理してお伝えすることで、保護者の方も安心して進路選択ができることでしょう。
【POINT2】日本の高校卒業時にあたる18歳をどう迎えるかを視野に入れる
中学校進学ということが頭に強すぎて、その後、どのような進路をたどるのか不明瞭になっている保護者さんもいます。日々のことで精いっぱいで、そこまでなかなか……という気持ちは理解できますが、選択後の進路予想をしておくことはとても大切です。
例えば、中学校の通常の学級を選択した場合、高校受験は一般受験となるでしょう。中学校生活の3年間、個別の指導計画を元に、合理的配慮がなされていれば、受験時に配慮申請もできると思いますが、これは、入学時から伝えておく必要があります。
特別支援学校を選択した場合も、高等部への入学の際、試験のようなものはあるところが多いようです。ただし高等部との併設がある場合は、高等部への進学が難しいということは少ないようです。自治体によっては、人気のある特別支援学校があり、出願倍率が高くてなかなか入学できないところもあります。
そして高等部を卒業する18歳。大学や専門学校などに進学するのか、就職をするのかという選択になります。この18歳の時点でどうするのかを想像し逆算して、高校、中学の進学を考えた方が良い場合があります。
【POINT3】決めつけない、押しつけない。本人の意思に委ねて決定してもらう
担任の強い思いが湧いてくることは否めません。しかし決めるのは、ご家庭です。「こっちの方がいいだろう」と考えていても、違う選択をされる保護者さんもいます。それは、そのご家庭の都合や状態もあるので、こちらから決めつけた話や押しつけたりしないようにしましょう。
そして、「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」国際連合の「障害者の権利に関する条約」の合言葉通り、本人の意思も大切にしましょう。委ね、決定してもらうことになります。
情報収集は、僕も手伝うよ
ありがとう! 皆川先生、保護者との相談の時は同席をお願いしますね
もちろんよ。大事な話のときは、複数の教師で対応するのが基本よ
いかがですか。中学校進学は、管理職を中心としながら、余裕をもって進めたいですね。そして本人も保護者さんの不安が少しでも小さくなるように、取り組みたいものです。
イラスト/terumi