子どもの自信につなげるエラーレスの活動とは|10月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、行事などの事前学習で取り入れたいエラーレスの活動についてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

短期目標2:動物が入る作品づくりでは、同じテーマの友だちの作品と並べて展示することができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

短期目標2:会話の中で質問されて、はい、いいえの答えを返すことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

短期目標2:タブレットで文字を書いたり入力したりすることができる

10月のとある教員室での会話

(皆川先生)
さあ、いよいよ学芸会の練習の月になるわね。何をするのか決まったかな。

(島原先生)
るなさんは、劇のなかでセリフをひとつもらったんです。本人がやってみたいというので。でも言いたい気持ちが強すぎて、アドリブで話し出したりするんです。

(根本先生)
ゆうかさんも、セリフをもらったんですが、1人で話すのはなかなか難しくどうしようかなと……。

(皆川先生)
しゅんたさんは、大好きな虫のことについてのセリフをもらったんだけど、その虫についてかなり詳しい解説を始めてしまうので、交流担当の先生と相談して、その場合でも、そのままにしましょうということになったの。

【POINT1】失敗にするか、成功(課題クリア)にするかは、周囲の働きかけによる

これは、特別支援学級だけではなく、子どもたち全般に言えることなのですが、失敗経験を過剰に避けたいと考える子どもがいます。

9月の記事内にある
【POINT3】エラーレスで、行事や活動のなかでの不安要素を小さくする

で、お伝えしたように、エラーレスの活動を入れて成功体験を積ませます。つい「セリフをもらった」、「このように動くことが決まった」となると、それをそのまま練習させてしまいがちですが、踏みとどまって一歩手前の活動などで「できた」という達成感を子どもにつかませるといいでしょう。これらも行事や活動の事前学習として、自立活動のなかで取り組んでみてはいかがでしょうか。エラーレスの活動経験を活かして、実際のセリフ活動をスモールステップに分けて練習する学習を仕組むのです。

たとえば、「魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ」というセリフを

レベル1:「魔法は」
レベル2:「魔法は探し求めている時が」
レベル3:「魔法は探し求めている時が一番」
レベル4:「魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ」

の4段階にして、少しずつセリフを増やして覚えていきます。ワーキングメモリーの課題があるような子どもは、何かと結びつけるとセリフが覚えやすい場合もあるので、ちょっとしたポーズを取ったり、手を腰に当てたりした後にセリフを言うなど、あらかじめ決めておくのもよいでしょう。

もちろん子どもたちそれぞれの背景があるので、その子どもに合った方法で取り組みます。自立活動などで表現の方法を学習したときに、「そのポーズ、今度の劇に使えそうだね」などと話しながら、ポーズを取り入れることもいいですね。また、活動のすきま時間に、こそっと、「あれ、セリフの最初って、何だったっけ? 法律? 憲法?」などと、練習場面だけではなく、さりげなく確認することもいいかもしれません。でもこの刺激が強すぎると、その言葉を覚えてしまう場合があるので、子どもの実態に合わせて、様々な方法でアプローチしてみましょう。

ここで大切にしたいのは、セリフの一字一句間違えてはいけないというハードルを越えさせるのではなく、大きな意味の違いが無ければ認めることも必要でしょう。これは、特別支援学級の子どもだけではなくどの子どもにもいえることです。このように考えると、取り組ませる課題については、調整が必要ですが、周囲の大人たちが、それも成功だよと認めて働きかけていくことで、子どもたちはいきいきと活動します。

【POINT2】練習の回数は、その子どもに応じて決める

何度も練習を繰り返すことで、どんどん上手になる子どももいます。しかし、練習を積んでもなかなか成長や伸びを、本人や支援している大人も感じない期間が訪れることがあります。心理学で“プラトー現象”と呼ばれるものです。そのような時に、「気持ちが入っていない」「昨日と変わらないじゃない」などのような言葉をかけてしまうと、ぷつりと糸が切れたように、「もうやりたくありません」といった状態になってしまいます。短く簡潔に、褒めることだけでいい時期もあります。

このことについては、子どもの背景によって違いますが、本番の一発勝負が適した子どももいます。交流担任や最大の理解者である保護者と相談しながら進めていきましょう。

【POINT3】完成した舞台や当日歩く導線などを確認しておく

入学してくる新一年生の子どもたちが、式の前日に会場を見学している学校も多くあることでしょう。このことをふまえて、学芸会本番までに舞台や当日歩く導線の確認を、特別支援学級の子どもたちとしておきたいものです。

照明が落とされた真っ暗な会場内や舞台を歩くとなればなおさらです。「ここを先生といっしょに歩くからね」と言いながら、リハーサルをします。実際の活動の前、そして退場するところまでのリハーサルが必要だと考えています。

音が鳴るタイミング、大きさ、その場の明るさや暗さ、光のON・OFF、会場のマイクの音量、拍手の大きさなど、できる範囲でのリハーサルを子どもと共有するつもりで確認しておきたいものです。

そして、これを特別支援学級内だけではなく、学校全体で確認しておきます。最後に、この通りに活動できなかった場合の代案も用意しておくと、「しゅんたさんが出なかったから、なんか変な劇になった」などの声が出てしまうようなことを防げます。

もちろん大成功させることも大切ですが、何よりも本人が満足すること、できたと思えることが大切です。以前、学芸会後に「あんなだったら、もっと練習させたのに、なぜ言ってくれなかったのですか」と、保護者の方から言われたことがあります。でも本人は、「がんばった」と笑顔。この笑顔が大切なんだと考えています。それぞれの行事は、一生で一回しかないけれども、人生の中で、様々な表現をする場面は、無限にあります。失敗と見えることも成功だと感じることも、その子どもの発達過程においてみれば、立派な経験値なのです。

アドリブが出たとしても、次につながるように、子どもたちや交流の先生と相談しておこうっと!

もしセリフがうまく言えなかったらを考えて、複数の子どもと話せる役でもいいかな。

私は、リハーサルに重点をおくわよ。みんなの成長が見られる日にしましょうね。


いかがでしたか。配慮することは、きっと、どこまでも終わりということがないことでしょう。保護者にも、練習を頑張っている姿のみではなく、思っていたようにいかなかったときのことも話しておきましょう。そうすることで、万が一、練習通りいかなくても、そこまでの頑張りを褒めることができることでしょう。もちろん参加がすべてではありません。参加できなかったとしても、少しずつ子どもは成長をしているので、伸びを見つけて伝えられるといいですね。

イラスト/terumi

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