学級活動の歴史を学ぼう! その2【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】②
宮川八岐・元文部科学省視学官による「やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本」の連載2回目。今回は、前回の「学級会の誕生から教育課程化されるまで」に続いて、その後の改訂について概観します。「特別活動」がどのような道筋をたどって今日に至ったのか、興味深い歴史を学びましょう。
執筆/元文部科学省視学官・宮川八岐
目次
特別活動の不易と流行
学習指導要領が昭和33年の改訂で「特別教育活動および学校行事等」が必修化され、その特別教育活動の内容である「児童会活動」「学級会活動」「クラブ活動」を全国すべての学校で実施しなければならなくなりました。その後、学習指導要領の改訂においてどのような変遷過程を経て現在の形になったのか、いわゆる「不易と流行」という観点から振り返ってみましょう。
新たに設けられた「特別活動」から今日の「特別活動」まで
昭和43年の学習指導要領の改訂から今日の学習指導要領までをたどっていきましょう。
昭和43年の学習指導要領:「特別活動」への統合
今回の改訂で、小学校の教育課程を教科、道徳、特別活動としました。それまでの特別教育活動および学校行事等の内容が多岐にわたることから、「人間形成の上から重要な教育活動」を総合するとして新たに「特別活動」という領域を設け、その指導を充実するとして改訂されました。また、この改訂でその後の特別活動の指導原理とされる「望ましい集団活動を通して」という大目標が掲げられ、それまでの学校行事等の「等」を削除し、児童活動や学校行事以外の学級を中心として指導する教育活動を新たに「学級指導」としました。
したがって、今回の改訂では、特別活動は下図のように「児童活動」「学校行事」「学級指導」で構成されました。新たに設置された児童活動の内容は、児童会活動、学級会活動、クラブ活動であり、従来の特別教育活動の本質を受け継ぐもので 児童の自発的、自治的活動を通して自主性、社会性を養い、個性の伸長を図ることを目標とするものでした。
なお、今回の改訂で新たに「学級指導」が設置されましたが、内容としては、学校給食、保健指導、安全指導、学校図書館の利用指導、その他学級を中心とする指導が例示されました。しかし、特に時数は示されず、年間を通じて「適宜行うもの」とされました。
昭和52年の学習指導要領:「ゆとりある充実した学校生活の実現」の改訂
学習負担の適正化から、一部の教科の内容や時数の削減を図り、学校生活にゆとりを生み出そうという思い切った改訂でした。いわゆる「ゆとりの時間」を設けるなどにより、特別活動などへの取組がしやすくなり、児童の活動も活発化し、教員の研究会なども盛んになりました。
今回の改訂では、内容構成上の変化はないものの、小学校、中学校、高等学校の系統性が図られる工夫・改善がなされました。例えば、特別活動の小学校、中学校の目標が統一され、特別活動の授業時数が示されました。
また、学校行事では、勤労体験の体験学習を重視する立場から「勤労・生産的行事」が新設されました。「君が代」が「国歌」と改められたのも今回の改訂でした。
平成元年の学習指導要領:学級会活動と学級指導を統合し「学級活動」に
昭和42年改訂で新設された「学級指導」については、年間10~20時間程度、学級等の実態に応じて適宜実施するものとされていました。したがって、時間割表には示されませんでしたので、今回の改訂で教育課程審議会は、学級会活動も学級指導も学級担任が指導するものであるから、教育課程上は「学級活動」とし、前者を活動内容(1)「学級や学校の生活向上に関すること」、後者を活動内容(2)「日常の生活や学習への適応及び安全に関すること」として、どちらも学級担任が指導できるようにすることを答申しました。
その結果、学級会やその実践に取り組む児童の自発的、自治的な活動の時間は従前より減少することになり、例えば、「お誕生会をしよう」などの実践が全国的に少なくなりました。
一方、体験的な活動を一層重視する観点から、学校行事の遠足的行事が「遠足・集団宿泊的行事」に、勤労・生産的行事が「勤労生産・奉仕的行事」になりました。
平成10年の学習指導要領:学校週5日制への対応の改訂
今回の改訂は、学校週5日制の完全実施を目指す観点から、教科の指導内容の削減を図るとともに各教科の時数が一律に1割削減されました。その上で「総合的な学習の時間」を創設しています。
特別活動においては、学校行事は一層の精選に努めること、学級活動では、活動内容(2)の「不安や悩みの解消」と「意欲的な学習態度の形成」を統合して「希望や目標をもって生きる態度の形成」となりました。また、児童の自発的、自治的活動である学級活動の活動内容 (1)の充実化を求める観点から、内容例示に「組織づくり」を加え、学級内の組織づくりや運営に関する活動などの充実化を図るようにするとともに、「指導計画の作成と内容の取扱い」の中で、児童の自発的、自治的な活動が質的な充実を目指すことを求めて「効果的に」の文言が挿入され、「内容相互の関連を工夫すること」が加えられました。
平成20年の学習指導要領:学級活動に「低・中・高学年の内容」を加える
今回の改訂は、道徳的実践の充実への観点から、「全体目標」に「人間関係」「自己の生き方への自覚を深め」「自己を生かす能力を養う」が加えられ、学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事にそれぞれ目標が設定され、「ルールをつくって守る活動を充実すること」が求められました。
また、言語活動の充実への対応や発達の段階に応じた学級活動の話合い活動の充実への期待から、特に、学級活動の内容として「低・中・高学年の内容」が新たに加えられるとともに、勤労を重視する観点から、活動内容(2)に「清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解」が新たに例示されました。
平成29年の学習指導要領:学級活動(3)「キャリア形成と自己実現」の設定
今回の改訂では、教科等の「目標」の示し方が変わったことから長く特別活動の指導原理とされてきた「望ましい集団活動を通して」が目標から消えました。
一方、学級活動に「(3) 一人一人のキャリア形成と自己実現」が新たに設定されましたが、その具体的な内容のいくつかの課題は、従前の学級活動(2)に含まれていたものでした。
今回の特別活動の改訂については、全体目標や学級活動(2)(3)の設定等に関して学校や研究会等で実践上の疑問などが話題になっているようです。
まとめ
今回は、昭和33年改訂の学習指導要領で必修化された児童の自発的、自治的活動を中心に、特別活動がその後の改訂でどのように変遷して今日に至っているかを大まかに見てきました。なかでも昭和52年改訂が特別活動の充実にとって最も望ましい画期的な改訂だったことを忘れることはできません。
しかし、戦後80年にならんとする我が国の教育が目まぐるしく変化するなかで、特別活動も誕生から幾多の変遷を余儀なくされ、全国の先生方に意義の理解と指導充実への取組が徹底されてきたとは言えない状況のまま、今日に至っています。
次回からは、特に、児童による自発的、自治的活動を特質とする学級活動(1)話合い活動の指導の基礎・基本とその指導の成果や課題などについて、実践事例を通して解説したいと思います。
宮川八岐(ミヤカワ・ヤキ)
埼玉県公立学校教員、教頭、草加市教育委員会、草加市立氷川小学校長を経て、平成6年から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官(主に特別活動、生徒指導、学校図書館等)に。平成12年から同局視学官。平成16年度国立妙高少年自然の家所長、平成17~20年度まで日本体育大学教授、平成21~27年度まで國學院大學人間開発学部教授を務める。
構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ