的確な見とりとフィードバック【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第13回】

連載
授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」
的確な見とりとフィードバック【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第13回】

今春から千葉県酒々井町教育委員会の指導主事となった吉田正先生は、昨年度末まで小学校の教員であり、千葉県の魅力ある授業づくりの達人(小学校・体育)にも認定されていました。その吉田先生は、どのようにして小学校教員として体育の道に進み、授業づくりや学級づくりの力を身に付けていったのでしょうか。

吉田正先生
吉田正先生

子供が成長しているだけでなく、私自身も成長できているような気がする

魅力ある授業づくりの達人だった吉田教諭時代の授業の様子。子供の実態に応じて的確な支援や声かけを行っている。

私はもともと、理科が得意で中学校の理科の教員になろうと思っており、大学も教育学部で理科を専攻していました。ただ、自分自身の学生時代の部活動経験があったこともあり、中学校で理科の教員をやりながら部活動でバレーボールの指導をしたいなと思っていたのです。

その考えが変わり、小学校の教員になろうと思うようになったきっかけは大学3年後期の教育実習でした。中学校の実習後、小学校へ実習に行ったのですが、そこで子供たちに関わっていくと何かができるようになる瞬間を見る機会がたくさんあって、とても魅力を感じたのです。

例えば、体育で逆上がりができるようになる瞬間とか、算数のかけ算の拡張を学習において問題が解決できて、それを友達にうまく説明でき、さらにそれを友達もちゃんと理解できた瞬間とか、いろいろな教科学習や生活場面でそのようなことがありました。そのときの「できた!」という子供の喜びの表現が輝いて見え、その瞬間を共有している私も喜びを分かち合えるわけです。その子が成長しているだけでなく、私自身も成長できているような気がしますよね。「この言葉がけが良かったのかな」とか「この働きかけが良かったのかな」というように、私自身にも学びがあるわけです。そこに最大の魅力を感じました。

それで小学校の教員へと舵を切り、翌年の夏には小学校志望で教員採用試験を受けることにしました。

「愛をささやけ!」「愛と情熱だよ!」

その翌春には千葉県佐倉市の中心部にある小学校に赴任することになりました。そこで教師としての第一歩を歩み始めるときにとても幸せだったのは、背中を追いかけたくなるような先輩がたくさんいたことです。そうした先輩に対する憧れから、どんどん真似をして学んでいきました。

その先輩たちの中でも特に憧れたのは、朝礼台の上に立って体育指導をしている体育主任のN先生でしたね。子供たちと一緒にグラウンドに出て、長縄跳びで3百何十回も跳んでいたりとか、地区の陸上大会に出れば出たで、たくさん賞を取っていたりとか、(大会に向けた)朝練習のときにも「N先生!」「N先生!」と、たくさんの子供たちが集まっていました。それがとてもカッコよかったのです。

そのN先生以外にも朝練習で子供たちに指導しているすてきな先輩がたくさんいて、ハードルがうまく跳べるようになった子、幅跳びで大ジャンプができるようになった子たちの笑顔があって、本当に先輩方がまぶしく見えましたね。ですから、私も「あんな先生になりたいな」と思い、体育主任をやらせてほしいという思いもあって、朝練習にも体育の授業にも力を入れてがんばっていました。

しかし、私の初任校は1学年4クラスあって、毎年若手が赴任してくるような学校だったのです。ですから1年先輩も2年先輩もおり、しかも当時、若手は専門教科の他に体育にも力を入れるのは当たり前という感じがあって、先輩方も皆、「体育主任をやりたい」と考えていたため、なかなか私には順番が回ってきそうもありません。そこで、まず自分のクラスの学級づくりや授業づくりはもちろんですが、加えて地域の陸上大会で行われる5種目の中の自分が担当した種目で、何とか入賞させてあげようとがんばりました。

ちなみに私は初年度、走り幅跳びをベテランのT先生と組んで担当していたのですが、「まず、正(吉田先生の名前)がメインでやってごらん」と言われたのです。もちろんいろいろ教えてもらいながら指導していたのですが、子供たちはそこそこには跳べるようになるものの、今一つ目に見える成果が出た感じがしません。そんなときに、その先輩が子供を呼んで耳元でコソコソとささやくと、子供の動きが大きく変わったのです。その子は後に地区大会で優勝したのですが、「先輩、何て言ったんですか?」と聞いたら、「正、愛をささやけ!」「愛と情熱だよ!」と冗談半分の答えが返ってきました。

そのように、同じ競技を担当しながらベテランのT先生とずっと話をしているうちに、「運動のコアとなる部分を理解しないで、末端だけ指導してもダメだよ」とか、「その子の運動をきちんと見とれるようになって、的確にフィードバックをしなさい」とか、さらには、「いくら良い指導をしたとしても、子供との関係が良くないとその指導は無意味になるから、子供との信頼関係を築きなさい」というようなことを教えてもらいました。ちなみに、このときに学んだ「的確な見とりとフィードバック」ということは後に、大学院へ長期研修に出させてもらったときの研究テーマにもつながっているのです(この内容については後述)。

運動のコアとなる部分を理解した上で、子供の姿を的確に見取って支援を行っている吉田教諭(現指導主事)。
運動のコアとなる部分を理解した上で、子供の姿を的確に見とって支援を行っている吉田教諭(現指導主事)。

そのベテランのT先生は後に校長先生になられた、とても優秀な先生で、本当にいろいろ教えてもらったのですが、先ほどの幅跳びのアドバイスは教えてくれませんでした。そこで、子供自身に「T先生に何て言われたの?」と聞いてみると、「『いつも通り思い切って踏み切るんだよ。イチ、ニ、サーンのタイミングで踏み切れ!』って言われました」と言うのです。それを聞いたときは、「何でそれで記録が伸びるんだろう?」と思ったのです。おそらくは、いろんな動きをいろいろ直したいところだったはずなのですが、それがそのとき、その子にとっての的確なタイミングでの的確な改善のアドバイスだったのでしょうね。そのように「子供の姿を見とって的確に指導できるようになりたいな」というのが、初任時から3年目くらいまでの私でした。

ちなみに走り幅跳びは「腕の引き上げ」「足の引き上げ」「踏み込み」の3つの力が大きな跳躍の源です。この3つがタイミングよく連動することで爆発的に跳べるわけで、例えば足を引き上げて強く踏み込んでも、手がついていないと今一つ距離が伸びません。その3つをうまく合わせていくために、助走の最後を「タタターン」と言ってイメージさせるのですが、そのようにリズムアップしていく動きが重要になります。そのときのベテランのT先生の「イチ、ニ、サーン」というアドバイスは、その子をリズムアップさせていくために、最後の3歩をイメージさせる(日頃の練習を思い出させる)最適なアドバイスだったのかなと、後になって運動のコアとなる部分を学んで思うようになっていきました。

今回は、吉田教諭が中学校の理科教師を志していたものの、教育実習を通して小学校の教師となり、小学校では次第に体育の指導に目覚めていった経緯を紹介していきました。次回は、さらに本格的に体育の指導について学んでいった経過や、そこで学び、身に付けたことなどを紹介していきます。

【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、6月15日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました