学年で歩調を合わせることを求める、ベテラン先生への働きかけは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#16】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
学年で歩調を合わせることを求める、ベテラン先生への働きかけは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#16】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、先輩の先生との考え方の違いを感じている先生に対し、世代間の価値観や教育観のギャップを越えていくための、具体的な方法を説明していただきます。

Q11 経験を重ね、自分のやりたい学級経営や方針が見えてきましたが、中学校ということもあり、ベテランの先生に学年で歩調を合わせるよう求められます。めざす子供の姿を共有しないまま、指導内容や方法を同一に(それも旧来型に)揃えることを求められるので、より苦しさがあります。学年の中心になっている先生方にどのように働きかければよいのでしょうか。(中学校、30代)

子供の姿を中心に置くことで、世代による価値観や教育観のズレを埋める

 前回、「世代による価値観や教育観のズレや溝を埋めるための方法は何だと思いますか?」という問いを、先生方に投げてみました。その問いに対して考えられた方法の一つ一つは、それぞれの先生方が置かれた環境における問題解決のための方法の一つなのだと思います。ただ、どんな環境においても学校という職場、教師という仕事を選んだ先生方に共通する一つの解決方法があるのではないかと私は思っています。それは子供の姿を中心に置くということです。

今回、質問をされた先生もベテランの先生方も、子供たちがより良く育ってくれたり、今までになかったような表情を見せてくれたり、想像もしないような発言をしてくれたり…つまり資質・能力が育ってくれれば、納得できるし、「いいね」ということになると思うのです。もちろん、教師として「ああしたい」「こうしたい」という思いもあるとは思いますが、自分の授業や自分のクラスの中で、中学校の生徒一人一人が確かに成長し、確実な変容を実現できることが、多くの先生方を納得させる近道ではないかと思います。

特に教科研究がベースになる中学校のことですから、それぞれ専門教科の授業の中での工夫は自由にできるはずです。ですから、その授業を通し、「生徒がこんなに積極的に発言するのか」とか、「こんなに活発にディスカッションができるのか」とか、「授業をふり返って、こんなに論理的かつ長い文章を書くのか」とか、「多数の生徒が『先生の授業は楽しいよ』と言うのか」などといったことを実現し、その子供たちの姿を他の先生方に見ていただく場をつくっていけばよいのだと思います。そうすると、「なるほど、あの先生の考え方や教材研究や単元構成の仕方、授業の進め方はとても今の子供たちにフィットしていて、子供たちが伸び伸びと力を発揮しているな」という、他の先生方のコンセンサスを得ることにつながるのではないでしょうか。これが、教師という職業を選んだ人を納得させるために、最も力強い方法だと思います。

子供が真剣に学ぶ姿を通して伝えていくことが、教師を納得させるために最も力強い方法だと言える。
子供が真剣に学ぶ姿を通して伝えていくことが、教師を納得させるために最も力強い方法だと言える。

おそらく、どんなに「国の資料にはこう書かれています」と説明をしても、「あの有名な研究者がこう言っています」と説明をしても、経験や考え方の異なる先生を簡単に納得させることはできないでしょう。しかし、「あの学年の生徒がこんなに授業中に本気になっているのか」とか、「あの生徒たちがこんなに力を付けてきているのか」と、子供たちの姿を見せるほうが説得力が高いのだと思います。

ご自身のやりたいことが見えてきて、旧来型以外の多様なアプローチが見えているということですから、おそらく、そんな授業力や単元デザイン力をもち始めているのでしょう。ですから、そこに力を傾注することが結果的には全体を変えていくことにつながると思います。いきなり全体に働きかけて変えようとすると難しいのですが、全体は部分の集合体であり、部分の中に全体が凝縮されているわけですから、その部分である自分が受けもつ1時間の授業を、より良くしていこうとするエネルギーが全体を変えていくのではないかと思います。

学年部と教科部があり、それが縦横に編み込まれているのが中学校の組織ですから、「学年部で統一しよう」ということも一定程度あるとは思いますが、同時に教科ごとにそれぞれの先生が自身の固有性を発揮しながら授業づくりをしているところもあるでしょう。それが理科なら理科という個別の教科内だけでなく、数学や国語など教科を超えて広がっていくと、学校のパワーを高めることになると思います。例えば、「グループディスカッションを入れていこう。そのときにはICTを入れよう」ということになっていくと、1人が取り組むよりも、教科全体でやったほうが良いし、個別の教科だけでなく教科を超えて行ったほうが、子供の変容という意味でも効果が大きいでしょう。そのように子供を真ん中に置いて、効果、成果を通して語り、共有することだ大事だと思います。

個別の教科で取り組むだけでなく、教科を超えて取り組むべきことを共有していくことが大事。
個別の教科で取り組むだけでなく、教科を超えて取り組むべきことを共有していくことが大事。

子供たちの成長による喜びは、先生の年齢などが異なっていても共有できる

私は立場上、学校に招かれて講演をしたり、指導をしたりする機会があります。その機会に、「先生方を変えていきたいな」と思うときに意識しているのは、インパクトと手立てと手応えの順番でお話しすることです。この3つが揃うと、先生方は変わることができると考えています。

まずインパクトを与えるというのは、「やっぱり、これまで通りではダメなんじゃないか」というような思いをもってもらうことにつながるものです。それは例えば、「探究的な学習をしてきた生徒のほうが大学に入ってからも伸びていく」というようなデータだったり、「AIによって消える仕事」というような予測のエピソードだったりします。次に「授業を変えなければいけないな」と先生方が思ったときに、実際にそれを行為するためのアイテム(=手立て)が必要です。例えば、「これを使えれば授業を変えられますよ」というようなもので、それは思考ツールでもよいし、ICT機器かもしれませんが、そんな手立てを示すことで「実際にやってみよう」という気持ちになっていくことでしょう。さらに、手立てを示してそれが行為された後、「やったけれども、何が変わったのかな」と実践者自身が手応えをつかめなければ、繰り返し実践されることは期待薄になります。ですから、「子供たちが変わった!」という事実が手応えとして示されれば、もう一度、実践が回っていくわけですよね。

先に「子供の姿」と話しましたが、それは今の話で言えば、授業をする本人にとっては手応えということになります。それと同時に、これまでの実践の中でそのような「子供の姿」を実現してこなかった先生にとっては、インパクトになるわけです。そこで、「どうやれば子供たちはそのような姿になるんだろう」と思ったときに手立てが示されれば、それを実践してみようとなるでしょう。そこで、実際に「子供の姿」の変容を見ることができれば、大きな手応えとなって、それが2回、3回と繰り返され、常態化していくことになるでしょう。

やはり教師という仕事を選んだ人たちにとっての最大の魅力は、子供の姿の変化や変容(成長)だと思います。多くの職業の中で、教職を選ばれた方にとっては、休日や給与が増えることももちろん嬉しいでしょうけれども、何より嬉しいのは、「子供たちがこんなに変わった」という実感であり、「そんなに子供たちが変わるような授業ができた」という実感で、それが何よりのごほうびだと思います。私自身、教師以外の仕事はよく分かりませんが、それくらい充実感や達成感が得られる魅力的な仕事だと思っています。

教師が行う単元づくりや授業づくりというのは、その先生(と、その子供たち)にしかないオリジナリティのある芸術作品だと思います。それは、文学作品や絵画や音楽のような創造性があふれるものではないでしょうか。そして、その授業を実際に受けた子供たちが変容し、成長し、満足した姿を見たときに、クリエイターとしての喜びを得られるのではないかと思います。その子供たちの変容や成長による喜びという一点は、先生の年齢や専門教科、立場が異なっていても共有できるところではないでしょうか。

そうは言うものの、現実に実践していく上では悩ましいところもあると思います。世の中はもちろんのことですが、学校の中にも多様なタイプの人がいますし、のれんに腕押し状態で歯がゆい思いをすることもあるでしょう。価値観は人それぞれ異なるわけですから、子供の姿を見るだけですぐにすべての先生がその差異に気付き、自ら変わるということはなかなかあり得ないわけです。

ただし、学校の中には価値観を共有しづらい人もいる一方で、共有しやすい人もいるはずです。校内はもちろん学校外も含めてそういう人たちと少しずつ連携を取りつつ、そこだけで閉じた集団をつくってしまうのではなく、常に開かれた状態で子供の姿を中心に置きながら、地道に実践と対話を続けていくことが大事だと思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、6月15日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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