学年で歩調を合わせることを求める、ベテラン先生への働きかけは? 前編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#15】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
学年で歩調を合わせることを求める、ベテラン先生への働きかけは? 前編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#15】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、自分なりの学級経営などを模索する先生が、旧来型で足並みを揃えようとする先輩にどう働きかけたらよいか、というご質問に対してお答えいただきます。

Q11 経験を重ね、自分のやりたい学級経営や方針が見えてきましたが、中学校ということもあり、ベテランの先生に学年で歩調を合わせるよう求められます。めざす子どもの姿を共有しないまま、指導内容や方法を同一に(それも旧来型に)揃えることを求められるので、より苦しさがあります。学年の中心になっている先生方にどのように働きかければよいのでしょうか。(中学校、30代)

受け入れてくれないベテランの先生を否定的に見るという発想はしない

 どんな職業であっても、自分の思いが組織の中で実現できないということはあると思います。とりわけ一定の経験を積んで、自分のやりたいことや教育の理想、こんな子供に育てたいという具体像が見えてくればくるほど、その理想と現実とのズレや矛盾を感じるようになることもあるでしょう。そのこと自体は、ある面から見れば、先生自身が一定程度力を付けてきたとか、少しずつ成熟してきたとか、力量が形成されてきた証と言ってもよいのだと思います。そうした、ご本人の成長自体はまず確認をしておきたいと思います。

一方で、先輩の先生が言っていることが、全部否定すべきものなのかどうかは、きちんと考えてみることが必要ではないでしょうか。ベテランの先生が、これまで積み上げてこられた経験に基づいて、「これはこうあるべきだ」と話されていることは、旧来型の手法ではあるかもしれませんが、悪気があって言っていることではないと思います。過去の経験に基づいた判断であるにせよ、目の前の子供たちにとってベストな選択はこちらだと思っておられるのでしょう。あるいは、ご本人の経験の中では、きっと好ましい結果を生み出してきた方法を示されているのだろうと思います。

ただ、どの業界でもあることですが、その先輩とご本人との間の世代間ギャップがあって、それによって違和感が生じているのではないかというように想像しながら、ご質問を読ませていただきました。

そうであるとして、何かをやりたいと思っている先生が、受け入れてくれないベテランの先生を否定的に見るとか、敵対的に捉えるという発想はしないほうがよいのではないかと思います。「あの人は自分の考えと違うと、何を言っても受け入れてくれない」「あの人は何でも私の言うことを否定する」と受け止めてしまうと、すべてが対立の構造に入ってしまうことになります。それは物事を生産的に進めることにはつながっていきません。

お若い先生ご自身は、もちろん子供のために良かれと思っておられるわけですし、ベテランの先生だって目の前の子供を良くしたいと考えておられることには変わらないと思います。この点が最初に共有できているかどうかが、重要なのではないかと思います。

もし互いにそう思っているのだという前提で改めて話を聞き、ベテランの先生の言葉一つ一つを精査してみると、中には「あれっ、それはどうかな?」と思うこともあるかもしれませんが、その一方で「なるほど自分は気付かなかったな」「そんな可能性もあったのか」と思うようなものの見方や発想があるかもしれません。

何事もそうですが、「自分とは違う考え方だから反対しているのだ」と思い込んでしまうようなことはあると思います。例えば、若い頃に親から何かを否定されたら、何もかも否定されているように聞こえてしまったことがあったのではないでしょうか。しかし、親はあなたのためを思って言ってくれていたわけだし、親ならではの経験を踏まえた考えがあったはずです。それは自分自身が親になって初めて分かることもあるのですから、ベテランの話もすべてを否定してかかるのではなく、「より良い子供を育てよう」という互いがめざしている点は一緒なのだ、ということを踏まえた上で、考えて直してみることが大事ではないでしょうか。それは迎合するとか、自分が何かめざしていることを諦めるということではなく、違う視点を取り入れていくことによって、より深い教育観に達することにつながるのだと思います。

対立ではなく、対話を通して異なる視点を取り入れることで、より深い教育観に達していくことが重要。

世代間のズレや溝をどんなふうにすり合わせるかが大事

そうは言いながらも、場合によっては世代による価値観や教育観の違いによって、ベテランの先生方が教育における新しい潮流を捉えきれていないということがあるかもしれません。もしそうであるとすれば、その世代間のズレや溝を、どんなふうにすり合わせたり、埋めたりしていけばよいかということが大事になってくると思います。

これを読んでおられる先生はそのような世代間に生じる価値観や教育観の溝を埋めたり、ズレをすり合わせたりするためにはどんな方法があると思いますか? ご自身が置かれた環境の中で、「あのベテランの先生方と教育観のズレが生じたときには、どうやって考えをすり合わせていけばよいのだろうか?」と考えてみてください。そこで考えられた方法は、おそらく先生方が置かれた環境(学校)の中で問題を解決するための方法の一つなのだろうと思います。ただ、どんな環境にあったとしても、教師という仕事を選んだ人たちの中で、必ず先のような問題を解決するために共通する方法があるのではないか、と私は思うのです。

ベテランの先生方とのすり合わせ方については、次回、詳しくお話をしていきますので、これを読まれた先生方もそれまでに一度考えてみてください。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、6月8日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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