国語科「海の命」④発問の極意#15〈子どもが問いを立てる授業〉
第3回では物語「海の命(いのち)」をもとに、単元展開の発問〈誘発発問と焦点化発問〉と終末の発問〈再構成発問〉について解説しました。
今回は、学習者である子どもたちが問いをつくり、自分たちで立てた問いをもとに読み合い、問いを評価するという授業展開を紹介します。これを「リフレクション型国語科授業」として、「子どもの論理」で創る国語授業研究会で提案しています。今回は単元の概要をご紹介します。
執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一
目次
問いづくり1回目:「海の命とは何か?」
問いづくり1回目では、子どもたちから8つの問いが上がってきました。みんなで話し合いたい問いをつくろうという目的のもと、グループで話し合い、問いを1つずつ出していきます。そこから次の時間に読み合いたい問いを1つに絞っていきます。
問いづくりの実践はこれまでにもありました。ここで大切にしていることは、問いの検討です。
まず、「まとめることができる問いはないか」という観点で見ていきました。問いの分類です。「これとこれは同じことを求めているから、まとめてもいいんじゃないか」と問いが絞られてきます。
次に、問いの順序や包含関係に目が向けられていきました。「これから先に考えていったほうがいいんじゃないかな?」「この問いは、この問いに含まれるんじゃないか?」という意見が出されます。問いを検討する中で、子どもたちは学習の見通しを立てていきます。そして、次の2つに絞られてきました。それが、
「どうして太一は、クエをつかなかったのか?」
「海の命とは何か?」
です。
前回までの記事を読んでいただいた方の中には、気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、「焦点化発問」と「再構成発問」の内容と重なります。子どもたちが自分たちで問いを立てるということもあって、「教師のねらいと子どもの問いが一致するんですか?」と、質問をいただくことがあります。結論から言うと、一致します。このことはこれまで紹介してきた物語「ごんぎつね」での実践も含めて、他の教材でも同様で、教師のねらいと一致していきます。
子どもたちが自分たちで問いをつくったからと言って、それが検討されない限りは、「問いをつくった」という事実しか残りません。しかし、「複数ある問いの中から1つに選ぶ」というように、問いを検討する場面をつくることに意味があると考えています。
1回目の問いの検討では、「海の命とは何か?」に決定しました。次の時間は、自分たちで立てた問いをもとにした読み合いです。
読み合いでは、学習形態を子どもたち自らが選択するようにしています。つまり、本時の問いについて、1人で考えたいか、2人組や4人組のグループで考えたいか、を自分で決定するのです。
その際、教室を4つのエリアに分けて、机を移動するようにしています。そこで話し合ったことは、考えが共有できるようにホワイトボードやタブレットなどにまとめています。
全体交流では、それぞれの学習形態で読み合ったことをプレゼンテーションしていきます。読み合いでの様子をまとめたのが上の板書です。
ここで話題になったのは、①物語は太一目線(太一の視点)で描かれていること、②太一は、「クエ(大魚)=おとう=海の命」と思うことによって、瀬の主を殺さないで済んだこと、③与吉じいさの「千びきに一ぴき」の教えがあったから、太一は海の命、命のつながりを大切にできたこと、④海の命は自然への敬意であるということ、が話題になりました。
子どもたちからは「本当の一人前の漁師」と「村一番の漁師」については話題として挙がってきたものの、この2つの言葉と言葉の関係性には目を向けていなかったため、「本当の一人前の漁師と村一番の漁師って同じなのかな?」と問いかけました。
そこに目を向けていなかったことに気付いた子どもたちも多く、次の時間の問いは、「本当の一人前の漁師と村一番の漁師」について話し合うことが決まりました。
問いづくり2回目:「太一にとっての本当の一人前の漁師とは何か?」
次の時間では、問いの方向性としては決まっていたものの、はっきりと問いの形にしていなかったため、問いをつくることから始めました。ここでの問いづくりの条件は次の2つです。
・本文から外れない
・――は、………か?(問いの形にする)
検討のうえ、「太一にとっての本当の一人前の漁師とは何か?」に決まりました。下に示すのが、読み合いでの板書です。
この授業で一番の話題になったのが、クライマックス場面の太一の心情でした。〈水の中でふっとほほえみ〉という部分で太一が何を思い、心が揺らいだのか、その解釈が話し合われました。大魚をとるか、とらないか、その判断を太一は試されたのではないか、そこで前回の話題にもなった「クエ(大魚)=おとう=海の命」ということを太一が見いだしたのではないかという話題になりました。
「問い日記」で学びを自覚化する
問いの評価では、「問い日記」を中心的な言語活動として用いています。これは「問い」と「日記」の機能を掛け合わせてつくった言語活動です。次の3つの観点で構成されています。
①問いの評価(問いはよかったか、その理由)
②読みの方略の価値付け(問いで新しい発見はどんなことだったか、学べたこと)
③自己の思いの表現(次はどんな問いで考えたいか)
「問い日記」が感想と大きく異なるのは、①問いの評価と②読みの方略の価値付けが入っているという点です。子どもたち自らが立てた問い、そして読み合いでの授業をふり返ることを通して、学びの自覚化が働いていきます。学習内容の定着だけでなく、学習意欲の高まりも期待できますし、学んだことを身体化し、味わい直す場をつくり出すことができます。
最後に、「海の命」での、1人の児童の「問い日記」を紹介します。
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