国語科「わたしはおねえさん」発問の極意#4〈再構成発問と授業の展開例〉

連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

筑波大学附属小学校教諭

白坂洋一
国語科 発問の極意 バナー

3回では、物語「わたしはおねえさん」(光村図書2年下)をもとに、〈誘発発問〉と〈焦点化発問〉を取り上げました。第2回で紹介した〈きっかけ発問〉で書き出した短冊カードを出発点に誘発発問を展開していること、また、焦点化発問では、吹き出しや動作化を使って、中心人物の心情の変化をとらえる手立てを取り入れていることを紹介しました。

今回は、単元終末の発問について〈再構成発問〉を取り上げます。また、1時間を取り上げた授業の実際を紹介します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

 

中心人物すみれちゃんの変容を「歌づくり」で表現する

単元計画では、第三次で「感想文を書く」という言語活動を取り入れています。物語「わたしはおねえさん」の心に残った文をもとに自分の考えや体験を交えながら感想文を書くこと、そして、すみれちゃんシリーズへと読み広げ、心に残った文をもとに感想文を書くことを設定しています。

第二次において、物語「わたしはおねえさん」を読む上での再構成発問が

「すみれちゃんは、おべんきょうを終えた後、どんな新しい歌をつくったのでしょう?」

です。

第1回で、教材の特性の1つに〈「わたしはおねえさん」の歌〉を挙げています。中心人物のすみれちゃんは、歌をつくるのが好きな女の子です。物語中にも2つの歌が登場しています。例えば、コスモスの歌のように、自然と歌が出てくるというその様子からは、すみれちゃんは自分の思いや考えをすぐさま歌として表現できることが分かります。

しかし、本文中には、かりんちゃんとの出来事を表した歌は描かれていません。本文に描かれていない最後の場面(宿題が終わった後)を取り上げ、題名にある「わたしはおねえさん」をテーマにした歌を作成することによって、妹かりんちゃんとの出来事を通したすみれちゃんの変容を歌で表現することができます。描かれていないからこそ、2年生である読者の子どもたちはすみれちゃんに同化しながら、その変容を歌として表現していくのです。

歌づくりをする際には、題名と関わりをもたせていくとよいでしょう。題名には中心人物すみれちゃんが変容する出来事・エピソードが表現されています。妹のかりんちゃんとの出来事を通して、すみれちゃんは葛藤し、特に、「すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。」の1文には中心人物すみれちゃんの大きな変容が描かれています。この1文から題名「わたしはおねえさん」にも関わる、すみれちゃんのお姉さんとしてのあり方を考えることができます。

物語の冒頭には歌として「おねえさん」像が描かれていますが、妹かりんちゃんとの出来事によるすみれちゃんの変容を表すのに、冒頭の歌をアレンジしていくのも1つの方法です。

物語の結末に焦点化する

ここからは授業の展開を紹介します。今回紹介している再構成発問を扱った1時間を取り上げます。子どもたちがつくった歌も一緒に紹介していきます。

授業づくりにおいて、意識していることの1つに「焦点化」があります。例えば、物語のどの場面に焦点化するか、授業者が明確にもっていないと、何について話し合っているのかが学習者である子どもたちにも共有されないまま授業が流れてしまうことがあります。すると、子どもたちも発言はしているものの、自分の思いだけを語ることになり、議論がかみ合わないという現象が生まれてきます。

本時では、物語の最後の1文に焦点化して、次のように展開しました。

<けしかけて、でも けすのをやめて、すみれちゃんは、つぎのページをひらきました。>に焦点化した上で

Tここから、分かることはどんなことですか?
C消したいけど、消したくないっていうすみれちゃんの気持ちが分かる。
Tどういうこと?
Cノートをじっとずっと見ていて、ぐちゃぐちゃだったのがかわいく見えて、よく書けてるって思っただろうし、楽しい思い出になるかもな。だから残そうって思ったんだと思う。
C私は、すみれちゃんは、かりんちゃんががんばって書いてくれたのに消しちゃうとかりんちゃんも悲しい気持ちになっちゃうし、もしもそのかりんちゃんが悲しんでるのを見たすみれちゃんも悲しい気持ちになっちゃうと思って、あと思い出になるから未来にこの絵を見たら懐かしくなっていいかなあと思ったと思う。

 

教師による発問「ここから分かることはどんなことですか?」によって、結末の1文についてのそれぞれの解釈が出されています。共通の土台として、結末の1文に焦点化されていますから、読み手である子どもたちの解釈は多様に生まれます。

さらに、教師による問い返し「どういうこと?」によって、「消したいけど、消したくないっていうすみれちゃんの気持ちがわかる」について、さらに詳しく話していることが分かります。

この問い返しによって、ここでは同じ子が発言を続けていますが、Aさんの言ったことってどんなことだろう?」と、学級の他の子どもが語るように促すというのも1つの方法です。

 

Tすみれちゃんはかりんちゃんに「おべんきょうするから」って言って、いすに座ったんでしたよね。すみれちゃんは、おべんきょうを終えた後、どんな新しい歌をつくったのでしょう?
Cかりんちゃんがぐちゃぐちゃの絵を描いたことじゃない。
C:ぼくは、本当の「おねえさん」になったことだと思っていて、おねえさんのことを歌にしたんじゃないかなと思う。
T本当のおねえさんってどういうこと?
C題名が「わたしはおねえさん」ってなっていて、すみれちゃんは、かりんちゃんの絵を見て最初は怒りたくなっていたけれど、それを見ているうちに絵がかわいく見えてきていて、その絵を消さずに大事にしていることが最後からも分かるから。
C:Aさんが言ったように、テーマは「おねえさん」だと思っていて、題名も「わたしはおねえさん」ってなっているから、「おねえさん」のことを歌にしたんじゃないかと思う。
Tだったら、歌をつくるのが大好きなすみれちゃんは、かりんちゃんとの出来事を通して、どんな歌をつくったのか、今日は歌づくりをしていきますよ。
C:楽しそう!

 

教師による発問「どんな新しい歌をつくったのでしょう?」の後、すぐに歌づくりの活動には入らずに、「新しい歌」に対するそれぞれの考えを出すようにしていきました。すぐに歌づくりの活動に入ってしまうことによって、歌をすぐに書ける子となかなか書けずにいる子が生まれてしまうからです。

「どんな新しい歌をつくったのでしょう?」と教師の側で発問したからといって、子どもたちは一様に歌づくりに対するイメージをすぐに共有できません。子どもたちの考えを発言として拾い、さらに詳しく聞きたいときには「どういうこと?」と問い返しをすることによって、話題を広げていくようにしています。歌づくりという本時の方向性を、次第にさざ波のように学級全体に広げていくのです。学級として歌づくりに対するイメージが共有できた中で、歌づくりに入っていきました。

歌づくりの活動へ移行した際、気をつけたいポイントがあります。それは、活動の動き出しで目を離さないということです。例えば「歌づくりをしましょう」と活動へ入ることを促すと、ついつい、教師の側では次の板書の準備をしたり、貼りものなどを探したりしてしまい、子どもたちから目を離してしまうことがあります。私もそうだったのですが、この動き出しのタイミングで子どもたちが困っていることがあります。

例えば、次のような話し合いに見られるような困ったことが起きていることがあります。

「ねえ、これから何するの?」
「分からない」
「だれかに聞いてみてよ」

このように時として、指示が全体に共有されていないことがあります。そこで動き出しでは目を離さず、子どもたちの動きを注視しておくとよいでしょう。そうすることによって、困った子どもたちへの手立てを早い段階で行うことができるとともに、活動時間を十分に有効なものにすることができます。

また、子どもたちが活動する中で、机間指導をしながら助言することが求められます。助言は事前に準備することができず、子どもの状況に応じて、即座に対応していく必要があります。そこで、授業前に活動を想定した際には、子どもたちがどこで困るか、子どもたちからどんな質問が上がってきそうかをシミュレーションしておくとよいでしょう。授業前に、子どもたちの様子を思い描いた上で、活動中に机間指導をしていくことで、子どもたちへの助言の質も高まっていきます。

本時において、子どもたちは次のような歌づくりをしました。

子どものノート(A)
子どものノート(B)

Aの歌は物語「わたしはおねえさん」の冒頭にある歌をアレンジする形で表現しています。

前半では「かりんの」「やさしい二年生の」「朝早くにしゅくだいをおわらせる えらいおねえさん」としながらも、「かりんちゃんの絵 よーく見るとかわいいな」と中心人物の変容点(クライマックス)の「じっと。ずっと。」におけるすみれちゃんの変容を表しています。

Bの歌は妹かりんちゃんとの出来事にスポットを当てて表現していることが分かります。「でもじっとずっとみてみたら かわいい かわいい コスモスさん」と、ここでも中心人物の変容点(クライマックス)の1文が歌として表現されています。

第三次では心に残った文をもとに自分の考えや体験を交えながら、感想文を書いていきました。中心人物すみれちゃんも読者も同じ二年生であること、読みどころが中心人物の変容点「じっと。ずっと。」の部分であること、中心人物すみれちゃんは歌をつくるのが好きであるということ、この3点が単元計画づくりにおける柱となっていたからこそ、単元で4つの発問も機能したと考えています。

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