国語科「わたしはおねえさん」発問の極意#1〈教材分析と教材の特性〉

連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

筑波大学附属小学校教諭

白坂洋一
国語科 発問の極意 バナー

子どもたちが自ら学び考える授業にするための発問づくりを考える連載。今回は2年生の物語「わたしはおねえさん」(光村図書)を取り上げます。第1回として、教材分析と教材の特性を解説します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

あらすじ:「わたしはおねえさん」はこんなお話

物語「わたしはおねえさん」は、すみれちゃんがお花(コスモス)を描こうとした妹のかりんちゃんの気持ちを考えることによって、前よりもお姉さんになる話です。

すみれちゃんは歌をつくるのが好きで、2年生になってお姉さんとしての幸せを歌に表現します。そのすみれちゃんが、「えらいおねえさんは、朝のうちに宿題をするんだわ」と心の中で言って、宿題を始めようと机の上に教科書とノートを広げますが、机のすぐ横の窓から見える花壇に咲いているコスモスが気になってしまいます。そのコスモスにじょうろで水やりをしようと庭に出ているうちに、2歳になった妹のかりんちゃんが出しっぱなしのすみれちゃんのノートに鉛筆で何か(お花:コスモス)を描き始めます。

水やりから戻って来たすみれちゃんは描いている最中のかりんちゃんを見て驚きます。半分ぐらい泣きそうで、もう半分は怒りそうになりながらも、かりんちゃんが「お花」と答えたノートをじっとずっと見つめるうちに、ぐちゃぐちゃの絵がかわいく見えてきます。2人でたくさん笑って笑って、笑い終わると、「今度はねえねがお勉強するから、ちょっとどいてね」と言って椅子に座ります。すみれちゃんは筆箱から消しゴムを出してかりんちゃんが描いた絵を消しかけて、でも消すのをやめて、次のページを開くところで物語は終わります。

お姉さんであるすみれちゃんと、妹のかりんちゃんとの間で起こる出来事をもとに物語は展開されています。

では、この物語は、どのような教材なのでしょうか。教材分析シートをもとに解説を加えていきます。以下のシートを見てください。

 

<教材分析シート:「わたしはおねえさん」>

国語科「わたしはおねえさん」発問の極意#1 図

登場人物は、すみれちゃんとかりんちゃんです。2人は姉妹で、10月の日曜日の気持ちよく晴れた朝にすみれちゃんの部屋で起きた出来事が中心に描かれています。視点は三人称限定視点で、中心人物「すみれちゃん」に寄り添って物語られています。

この物語の読みどころは中心人物の変容点

物語「わたしはおねえさん」は、物語の冒頭の歌にも表れているようなお姉さんから、妹の考えをとらえた上でのお姉さんとなっていく、その変化の様子が描かれています。

題名に目を向けると、題名は「わたしはおねえさん」となっています。中心人物すみれちゃんが変容する出来事・エピソードが表現されていて、冒頭に歌としても描かれている「おねえさん」像が妹かりんちゃんとの出来事をきっかけとして、変化していきます。

この「おねえさん」像が大きく変化する場面が、この物語の読みどころとなります。それが、妹のかりんちゃんがノートにぐちゃぐちゃの絵を描いている場面です。すみれちゃんの葛藤が描かれている場面でもあります。例えば、

「すみれちゃんには、自分が、なきたいのかおこりたいのか分かりませんでした。」
「すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。」
「けしかけて、でもけすのをやめて、すみれちゃんは、つぎのページをひらきました。」

これらには、妹かりんちゃんの行動に対するすみれちゃんの思いのゆれ動きが表れています。

特に、「すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。」は、中心人物すみれちゃんの変容点(クライマックス)でもあります。変容点(クライマックス)は中心人物の大きな変容が描かれている1文で、この1文は中心人物の行動描写や心情描写、そして会話文を手がかりに見つけていくとよいです。

本文では、その後「あはは。」とすみれちゃんが笑い出し、そして「あはは。」とかりんちゃんも笑い出します。この「あはは。」と笑い出すまでに、すみれちゃんは、「じっと。ずっと。」ノートを見ながら何を考え、思いを巡らせていたのでしょうか。「すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。」にはすみれちゃんの行動のみが描かれ、心情が描かれていません。この1文から題名「わたしはおねえさん」にも関わる、すみれちゃんのお姉さんとしてのあり方を考えることができます。

すみれちゃんも読者も2年生

また着目したいのは、中心人物であるすみれちゃんは2年生であるという設定です。読者である子どもたちも2年生であることから、すみれちゃんの行動に感情移入しやすく、同化して読むことができる文章表現となっていると言えるでしょう。読者である2年生の子どもたちの中には、歌を作るのが好き、妹や弟がいるという児童もいるかもしれません。そのため、登場人物と自分を比べて読むことができます。

例えば、全文を一読後、「すみれちゃんのしたことで、心に残った言葉や文はありましたか? それはどこでしたか?」と問うことで、書き抜いた言葉を中心に感想を交流することができるでしょう。

また、自分と似ているところや違うところを考えることも有効です。1つの場面を取り上げて、「自分だったらどうしただろう?」と考えることを通して、同じ2年生である登場人物と自分とを比べながら読むのです。

さらに考えたいのは、結末部分です。「けしかけて、でもけすのをやめて、すみれちゃんは、つぎのページをひらきました。」とあります。「ここからどう思ったか? どんなことがわかるか?」と問いかけることによって、妹を思いやるすみれちゃんの心情に迫ることができると言えるでしょう。

物語を読む際、「この場面での中心人物の気持ちは?」と心情を問う授業を目にすることがあります。気持ちばかりを問うことによって、その根拠となる本文の位置づけが曖昧になってしまい、焦点化することができないまま授業が終わってしまうことがあります。

そのため、物語内の根拠となる本文を明確にした上で、「ここからどう思う?」と問うことによって、主観的に感じた意見や考えを話し合うことに展開するのが効果的です。

中心人物は、歌をつくるのが好き

教材分析の伏線にも挙げているように、すみれちゃんは歌をつくるのが好きな女の子です。物語には2つの歌が登場しています。1つは物語の冒頭にもある「わたしはおねえさんの歌」、もう1つは「コスモスの歌」です。しかし、その後に歌は描かれていません。本文には描かれていない最後の場面(宿題が終わった後)を取り上げ、題名にある「わたしはおねえさん」をテーマにした歌を作成するのも1つの方法です。

この物語の中心人物「すみれちゃん」は、シリーズとなっています。この物語での学習をきっかけに、読書へと広げることができます。

これらを踏まえ、最後に教材の特性をまとめておきます。

<教材の特性>
・中心人物の設定と読者の重なり(2年生)
・中心人物の変容点「じっと。ずっと。」
・「わたしはおねえさん」の歌

 

次回は、具体的に「単元計画づくり」と「発問」を取り上げていきます。

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