国語科「海の命」発問の極意#1〈教材分析と教材の特性〉

連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

筑波大学附属小学校教諭

白坂洋一
国語科 発問の極意 バナー

子どもたちが自ら学び考える授業にするための発問づくりを考える連載。今回は、6年生の物語「海の命(いのち)」を取り上げます。立松和平さんによるこの物語は、光村図書と東京書籍で取り上げられています。どちらの挿絵も伊勢英子さんによるものです。違いとしては、題名の「命(いのち)」の表記を挙げることができます。今回は、第1回目として、「海の命(いのち)」の教材分析と教材の特性について解説します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

 

中心人物、太一の成長が描かれている「海の命(いのち)」

物語「海の命(いのち)」は、漁師として生きる太一の成長譚です。書き出しには「父もその父も、その先ずっと顔も知らない父親たちが住んでいた海に、太一もまた住んでいた」とあるように、「海」が舞台となっています。つまり、海を舞台としながら、登場人物とのかかわりの中で太一の成長が描かれていると言えるでしょう。

では、次に示す教材分析シートをもとに、「海の命(いのち)」がどのような物語なのか詳しく見ていくことにします。

国語科「海の命」発問の極意#1〈教材分析と教材の特性〉 教材分析シート
教材分析シート:「海の命(いのち)」

登場人物は「太一(中心人物)」「おとう」「与吉じいさ」「母」です。

「おとう」はクエ(瀬の主)との戦いで命を落としてしまいます。子どものころの太一の会話文「ぼくは漁師になる。おとうといっしょに海に出るんだ」からは、「おとう」の存在は、幼い太一にとってあこがれの存在であることが分かります。また、「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」からは、漁師としての太一にとって、最後まで大きな背中を追う存在だと言えるでしょう。

「与吉じいさ」は、弟子入りした太一に漁師としての確かな技と生き方について教えてくれた人物と言えます。おとうの「海のめぐみだからなあ」と自慢することもなく言う言葉、そして、与吉じいさの「千びきに一ぴきでいいんだ。千びきいるうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていけるよ。」の独り言のように語る言葉には、2人の漁師としての生き方が表れていると言えます。

「母」の登場はわずかですが、その存在は欠かせません。母の「おまえが、おとうの死んだ瀬にもぐると、いつ言いだすかと思うと、わたしはおそろしくて夜もねむれないよ。おまえの心の中が見えるようで。」には、太一を心配する思いが表れています。また、物語の結末では、母は穏やかで満ち足りた美しいおばあさんとして描かれています。

登場人物の定義には当てはまりませんが、「瀬の主(クエ)」は太一の成長に大きな影響を与えています。太一が追い求めた魚であり、「海の命」の象徴として描かれています。冒頭で描かれるクエ(瀬の主)は「光る緑色の目」として描かれています。おとうが死んだ瀬の場面で描かれるクエ(瀬の主)は「青い目」、「ひとみは黒い真珠のよう」であると描かれています。出合ったクエ(瀬の主)は冒頭のクエと同じなのか、ここでははっきりと描かれていません。

題名「海の命(いのち)」は、主題に関連したものだと言えるでしょう。本文中に「海の命(いのち)」が出てくるのは、以下に示す2カ所だけです。

・大魚はこの海の命だと思えた
・千びきに一ぴきしかとらないのだから、海の命は全く変わらない

題名とこの本文とを関連させて発問することもできそうです。

一番の読みどころは?

この物語の一番の読みどころは、太一が瀬の主(クエ)と対峙する山場の場面だと言えるでしょう。物語が太一の視点で描かれているからこそ、この場面では中心人物、太一の心情のゆれ動きがこと細かに描写されています。「この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれない」と「泣きそうになりながら」も、太一は「水の中でふっとほほえ」んで「クエに向かってもう一度えがおを作」ります。

中心人物の変容点(クライマックス)となる一文は、次の通りです。

水の中で太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくを出した。

瀬の主と対峙した太一は、「鼻づらに向かってもりをつき出」しますが、クエは動こうとしません。クライマックスの一文には、太一の葛藤、心情の変化が描かれ、そこに、〈海に生きる、海とともに生きる〉という価値を見いだします。だから、太一は瀬の主を殺すことなく、瀬の主に向かって微笑むことさえできました。ここに中心人物、太一の変容が集約されています。

それは、全く動こうとはせず、おだやかな目で太一を見ている瀬の主の姿と、大物をしとめても決して自慢することもなく、「海に帰っていった」父の姿とが重なって、「瀬の主=父=海の命」と太一がとらえたことによると言えるでしょう。

<海に生きる、海とともに生きる>という価値を見いだし、「村一番の漁師であり続けた」太一の生き方そのものが、この物語で描かれていると言えます。また、物語の結末部分で着目したいのは、「太一は村一番の漁師であり続けた」という表現です。「村一番の漁師であった」のではなく、「あり続けた」には、太一がクエ(瀬の主)と対峙したことで見いだしたことを意識しながら、その後も漁師を続けたことが見いだされます。物語「海の命(いのち)」で着目したい教材の特性は次の3点です。

・中心人物「太一」の成長と登場人物とのかかわり
・山場における中心人物「太一」の変容と意味づけ
・題名「海のいのち」に込められた象徴性

次回からは、具体的に単元計画づくりと発問を取り上げていきます。

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