国語科「海の命」発問の極意#3〈単元展開の発問と終末の発問〉

連載
子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意

筑波大学附属小学校教諭

白坂洋一
国語科 発問の極意 バナー

第2回では物語「海の命(いのち)」をもとに、単元計画づくりと単元導入の発問〈きっかけ発問〉を取り上げました。今回は、単元展開の発問〈誘発発問と焦点化発問〉と終末の発問〈再構成発問〉を取り上げます。教材分析の観点から、発問とその意図を解説します。教材分析シートも併せてご覧ください。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

 

【誘発発問】「太一に、一番大きな影響を与えたのは誰か?」

物語「海の命(いのち)」は、海を舞台としながら、登場人物との関わりの中で太一の成長が描かれている物語です。この「太一に、一番大きな影響を与えたのは誰か?」という発問に、子どもたちはどう答えるでしょうか。

「ぼくは漁師になる。おとうといっしょに海に出るんだ」という太一の会話文から、あこがれの存在であったことがわかる「おとう」、弟子入りし、確かな技だけでなく、「千びきに一ぴきでいいんだ」と生き方を太一に教えた「与吉じいさ」、物語中にそれほど多く登場はしませんが、太一を心配する「母」、そして、太一が追い求めた存在である「瀬の主(クエ)」を挙げることでしょう。

ただ、ここで注目したいのは、教材分析シートの登場人物の部分を見ていただいても分かるように、瀬の主(クエ)は登場人物ではないということです。登場人物の定義には当てはまりませんが、読者である子どもたちは、瀬の主(クエ)を太一の成長に影響を与えた存在として取り上げることでしょう。

教師の側として、整理しておかなければならないのは、それぞれが以下のような役割(存在)であるということです。

:太一にとってあこがれであり、背中を追う存在 
与吉じいさ:確かな技と漁師としての生き方を教える存在
:太一を心配し見守る存在 
瀬の主(クエ):太一が追い求めるもの、「海の命」の象徴

「一番大きな影響を与えたのは誰か?」と聞いていますから、読者としての印象や感覚で答える場合も想定されます。そこで、本文にその根拠を求めるために、「どこからそう思ったの?」と、「どこ?」を問い返すとよいでしょう。場合によっては、学級全体で根拠をもとに考えさせたいという場合もあることでしょう。同じ意味での問い方になりますが、発問として次のように学級全体に投げかけるのも効果的です。

「太一がそれぞれの人物から影響を受けていたことが分かるのはどこですか?分かるところに線を引きましょう」

発問として学級全体に投げかけるわけですから、分かるところに線を引くという指示を出すことができます。上の発問では「分かるところに」としていますから、何行も線を引いてしまうことも想定できます。そのため「分かる一文に線を引きましょう」と条件を出して問うことで、本文を精査しながら読むことができます。それぞれの人物と太一との関係を明らかにしていくとよいでしょう。

印象や感覚だけでなく、根拠をもとに読み深めていくのに、「どこか?」を問うのは有効です。

【焦点化発問】「本当の一人前の漁師と村一番の漁師は同じか?」

物語の山場の場面で、太一は瀬の主(クエ)を目の前にして「この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれない」と考えます。結末では「村一番の漁師であり続けた」とあります。この2つは同じなのでしょうか?

物語「海の命」は、中心人物「太一」視点で描かれています。「太一」の視点で描かれているからこそ、瀬の主(クエ)と対峙したときの心の揺れ動きが描かれています。

一方で、太一の心情や行動で描かれていないところもあります。例えば、瀬の主(クエ)を目の前にした太一は「水の中でふっとほほえ」んで「クエに向かってもう一度えがおを作」ることは描かれています。しかし、そこで太一はどう思ったのかは、はっきりとは描かれていません。だからこそ、そこを発問することで、思いを巡らせることができるのです。子どもたちの実態に応じて使い分けたいものです。

例えば、次に示す授業のノートでは、「太一は一人前の漁師になれたのか」を発問しています。教師の側としては、こう発問することによって「瀬の主=父=海の命」と太一がとらえ、そこに〈海に生きる、海とともに生きる〉という価値を見いだしたことに、子どもたちが着目することをねらっていました。ノートに「海といっしょに生きられる漁師」とあるように〈海に生きる、海とともに生きる〉と重なる発言が子どもたちから出されました。

国語科「海の命」発問の極意#3〈誘発発問と焦点化発問、再構成発問〉 ノート例
子どものノート

【再構成発問】「海の命を主語にして物語のメッセージをまとめると?」

「海の命(いのち)」は、中心人物「太一」の成長とともに生き方が書かれています。心に残る一文をもとに自分の考えや体験を交えながら、まとめていきます。単元冒頭で〈きっかけ発問〉として「たった一文だけ残すとしたら?」を紹介しましたが、単元の終末で改めて発問してもよいでしょう。

題名「海の命(いのち)」は、主題に関連するものです。そのため、作者が描きたかったことと大きく関わってきます。題名の「海の命(いのち)」は、本文中に登場しているのでしょうか? 登場するのは、次の2か所となります。

「大魚はこの海の命だと思えた」
「千びきに一ぴきしかとらないのだから、海の命は全く変わらない」

例えば、実際の授業で上記の2か所を確認したうえで、次のように発問するのもよいでしょう。

この2つの「海の命」は同じでしょうか?
題名の「海の命」はどちらを表しているんだろう?

自分の考えをまとめる前に、学級全体で考えを交流してからまとめることで、書きやすい状況をつくることができるでしょう。 

第4回では、「海の命(いのち)」の授業について、別のアプローチでの実践を紹介します。子どもたちが問いをつくり、自分たちで立てた問いをもとに読み合い、問いを評価するという授業です。

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