学校に「やりがい」がありますか【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #17】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第17回は、<学校に「やりがい」がありますか>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

減少する教員希望者

6月8日に、東京都の教育委員会から発表された2018年度教員採用試験(2019年度採用)の応募状況で、東京都の教員採用試験の応募倍率が3.9倍となり、昨年度の5.7倍から大幅に減少したことが明らかとなりました。応募者総数は1万3461人で、昨年度より1804人減少しました。採用見込み者が増えた一方、応募者が減ったのが要因です。応募倍率はここ数年で最も低くなったとのことです。

文部科学省によれば、公立学校の教員採用選考試験の受験者は減少傾向にあります。平成29年度の受験者総数は、16万6068人で、前年度に比較して4387人(2.6%)減少しました。これまでの推移をみると、昭和54年度から平成4年度までは一貫して減少を続けていましたが、以後、平成17年度までほぼ連続して増加し、以後、横ばい傾向の後、平成22年度から再び増加しました。しかし、平成26年度以降は微減傾向にあり、昭和62年度と同程度の水準となっています(以上、文部科学省ホームページ「平成29年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」より)。

教員養成系の大学に勤める筆者にとっては、教職を目指す学生や院生が合格しやすくなりますから、少しほっとする気持ちがないわけではありませんが、元小学校教師としては複雑です。応募者が減った理由としては、ベテラン層の大量退職や景気回復による雇用状況の変化などが伝えられています。しかし、それは表向きの理由であることは多くの方がわかっているのではないでしょうか。

私が採用された1989年辺りは、バブルのピークに向かう最中で、一般企業への就職がかなり好調でした。教育学部出身者でも教師にならずに民間に入る人たちが少なからずいました。大学の友人たちは教育学部だったので、流石にそうは言いませんでしたが、高校時代の友人たちは「は?どうして教師?(理解できない)」と真顔で言っていました。平成4年度の受験者数、11万949人は、調査上の最低値です。その頃、教師という職業が選択されなかったのは、教師よりももっとよい条件の職業がたくさんあったからだと考えられます。しかし、現在の受験者の減少は、学校や教職の所謂「ブラック化」と関係しており、教職への「忌避」が起こっているのです。

夢を応援しているか

教師が多忙であることは以前から指摘されていました。研究論文を調べてみると、1993年くらいから教師の「バーンアウト」(燃え尽き)、1995年くらいから教師の「多忙感」をテーマにしたものが発表され始めています。1990年代は、学校5日制の導入によって短い時間に多くの業務をこなさなくてはならなくなったことに加え、いじめ、不登校、学級崩壊などの問題が顕在化し、そうした問題への対応によって教師のストレスが甚大になってきたことなどがその背景としてあったことでしょう。しかし、まだこの段階では、多忙感は教師の考え方や気の持ちようであり、それは個人的な対処でなんとかできるという論調も少なからずありました。

しかし、2000年に入ると、教室の気になる子の問題やクレーマー化した保護者の問題が、数多く指摘されるようになり、教師が子どもたち、保護者と情緒的なつながりを持つことが難しくなってきました。かつての教室には自由度がありました。クラス独自の活動や掲示物などによって、個性的な教室づくりが展開されました。しかし、今の教室はいかがでしょうか。刺激量の調整という名の下に、どの教室を覗いても同じような掲示物が同じような場所に貼られています。また、効率的な指導の名の下に、机上の筆入れやノートの配置までが決められ、全ての子どもたちが隅々まで同じように行動することが求められています。

自由度がなくなってきたのは、教室環境だけではありません。授業の方法も、自治体で展開のフォーマットが決められ、判で押したように同じような授業がどの学年でもどの教科、領域でも行われています。公立学校の役割や、気になる子や保護者のクレームへの配慮であることは、よくわかっているつもりです。何も「全て自由にせよ」とは申しません。教育活動の品質保証をするためには、「共通事項」を持つことは賛成であり、むしろそうすべきだと考えています。しかし、そうしたあちこち統制しようとする雰囲気が、過剰なまでの「縛り」を創り出し、学校や教師という仕事をどんどんつまらなくしているように見えます。スポーツ選手が、練習がハードだからといって、「ブラックだ」とそのスポーツを批判するでしょうか。彼らが憤っているのは、指導体制や協会の在り方です。教師は、多忙に音を上げているのではなく、多忙感にやる気を蝕まれているのです。

今、学校という職場、教師という職業から「奪われているもの」は時間ではなく、「やりがい」ではないでしょうか。読者の皆さんは、なぜ教師になったのでしょうか。恐らく教えることに魅力を感じたから、子どもが好きで彼らとつながりたいから、また、そうしたことを生き生きとやっていた恩師やモデルとなった人に憧れたからではないでしょうか。私が現在、指導させていただいている学生や院生も同じです。

人は自分の夢を応援してくれる人を信頼します。そして、信頼できる人がいる組織に協力し、貢献しようとするのです。「チーム学校」を実現するためには職員の協力が必要です。職員の協力なくして「チーム学校」はあり得ません。「職員のやりがいを奪っていないか」時々、振り返ってみてはいかがでしょうか。

『総合教育技術』2018年8月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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