「校内に吹く風」を感じていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #64】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須です。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。

今回のテーマは「校内に吹く風」です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

硬い教室の冷たい先生

ある学校を訪れたときのことです。その日が初めての訪問の日でした。校長先生に連れられて2階に上がろうとすると、階上の教室から先生の怒鳴り声と同時くらいに子どもの悲鳴が聞こえました。その教室を覗いてみると、先生は怒っている様子もなく普通に授業をしていましたが、緊張した面持ちで授業を受けている子どもたちの中で、一人の子が泣きべそをかいていました。

また、ある学校では学級担任のほとんどが、20代と30代前半の若手といっていい先生方でした。始めはうすぼんやりでしたが、教室を回っているうちに、明確な違和感を覚えるようになりました。若い先生方だから校外からの参観者が来て緊張しているのだろう、くらいに思っていたのですが、どうも教室の雰囲気が硬いのです。その雰囲気の発生元を探っていると、どうやら先生の振る舞いにあるのではと思われました。先生の言葉が乱暴だということは全くありません。文字起こしをしたら、適切な言葉ばかりです。しかし、それを発する表情は硬く、声に柔らかさや温かさが欠けていました。先生の発言は、文字テキストとしては、とても丁寧で適切ですが、強張った表情で発せられる言葉は冷たさや鋭さすら感じさせました。そのような教室が一つや二つではないのです。いくつもの教室で、先生方が、硬い表情で温かみに欠ける声で、「丁寧な言葉」を発して授業をしていました。また、休憩時間になっても、子どもたちが先生に寄って行かないのです。私は正直言って「もったいないな」と思いました。若いときには、若いときにしかできない子どもとのかかわり方があるのに、彼ら彼女らはそれを自ら放棄しているように見えました。

小野(2023)は実践者の視点から、教室の秩序がなくなる要因は、「教師と子どもの関係の破綻」と言い、秩序をなくさせる教師のタイプとして、「高圧ガミガミ教師」「頼りにならないゆるゆる教師」近寄りがたいと思わせてしまう教師」を挙げます。「高圧ガミガミ教師」は、「ルールを守らせなくてはならない」というマインドに縛られていて、ルールを守らせることが主目的になっています。「頼りにならないゆるゆる教師」は、優柔不断で優しすぎ、叱ると子どもがかわいそうだと思っていたり、叱ると嫌われるのではと恐れていたりして指導すべきときに指導ができません。また、「近寄りがたいと思わせてしまう教師」は、見た目、圧力で指導しようとしたり、何かとこと細かに口出しをしたりして子どもとの距離をつくってしまいます(以上、小野、前掲より)

教師をどう捉えているかによって、子どもの規律を守ろうとする態度や学校生活への意欲が影響されることがこれまでの研究でわかっていますので、小野(前掲)の指摘は、妥当なものだと言えます(三島・宇野、2004)つまり、教師と子どもの信頼関係の未形成が、学級崩壊の引き金を引いてしまうわけです。教師は、よかれと思って子どもたちに強く指導したり、荒らしてはならないと思って、きりっとした表情と声で振る舞おうとしたりすることがあります。しかし、私から見れば、そうした先生方は、目的地に急ぐあまり急カーブを切ったり、スピードを出しすぎたりして危険な運転をしているドライバーのようです。二つ目の事例の学校には、校内研修でいろいろお伝えしましたが、最後に「次に私が来るまでに笑顔で授業をしておいてくださいね」とそこだけ強調して学校を後にしました。

最も効果的な指導行為

学習に対する効果的な要因を研究したハッティ(山森監訳、2018)は、学力に与える影響力の大きさを「効果量」と呼び、ほとんどの教師は正の効果量を示している、つまり、教師は有能であり学力に対してポジティブな効果をもたらしていると指摘します。そこで問題になるのは、教師によって学力に与える影響が異なることは事実であり、その差をもたらす要因は何かということです。ハッティ(前掲)が、その主な要因として挙げるのは、教師と子どもの関係性です。他者を尊重する教師の学級では、学習者は学習に集中して取り組み、自他を尊重し、反抗的な行動はほぼなく、教師主導の指導が少なく、学力が高いことを指摘しています。そして、他の研究を引いて、教師が子どもと良質な関係を構築し、高い教育効果をもつためには、子どもの立場に立って、子どものことを理解し、子どもにとって自己評価をしやすく、安心感をもち、関心を寄せられ気遣いを受けていると感じられるようなフィードバックを与えることが大事だと指摘しています(ハッティ、前掲)さらに、ハッティが高い教育効果をもつ指導行為として注目しているのが、このフィードバックです。

ハッティ(前掲)の支持するフィードバックの捉えは「学習者が自身の記憶に保持されている知識を確認し、またその知識に追記したり、上書きしたり、調整したり、再構築したりするために用いられる情報のこと」であり、「これらの対象となる知識には、領域知識、メタ認知的知識、自身に対する考え方、課題に対する考え方、認知的方略が含まれる」とのことです 。難しい言葉が並んでいますが、愛情に基づく共感的なフィードバックを受けることで、私たちは自分の取り組みに対する他者の視点を知り、進行方向を知ったり、遂行状況を知ったり、自分自身の在り方を知ったりすることで、それらを修正改善することができます。それは丁度、私たちが日々スマホ等で受信しているGPS信号のようなものです。

教師が日常的に子どもたちに行っている評価や声掛けのほとんどはフィードバックだと言えます。教師が、どんな表情でどんなトーンで、どんな言葉を発しているかもすべてフィードバックだと捉えることができます。文字テキストは丁寧だとしても、大きな声を出したり、険しい表情で話をしたり、不機嫌な様子でいたりすれば、それは子どもたちに常に「あなたは間違っている」と伝えることになるでしょう。もちろん、子どもの誤りを正すときはそれが必要な場合もあるでしょう。しかし、そうした時間の頻度が高かったら、子どもたちは、そこから逃げ出したくなるのではないでしょうか。笑顔でいること、温かな言葉をかけること、穏やかな振る舞いをすること、そうした教師の所作は子どもたちに「あなたはとても素敵だよ」「あなたの場所はここだよ」と伝えることになるでしょう。

私がかつて校内研修で、ある研究主任に「本気で学校を変えたかったら教師のフィードバックをテーマにしたらどうですか?」と進言したら、即座に「先生、発問や指示ならまだしも、フィードバックでは先生方の合意が得られません」と却下されました。フィードバックの重要性は現場ではあまり共有されていないのかもしれません。フィードバックは教室に吹く風です。温かならば、子どもたちはそこに集まります。管理職の皆様、授業中の校内を歩いてみて、どんな風が吹いているかを感じてみることで、今学校がするべきことが見えてくることもあるかもしれません。

ちなみに二つ目の事例の学校への二度目の訪問では、多くのクラスで先生方は笑顔で授業をしていました。そして、休み時間には先生と子どもがじゃれ合う姿が見られました。

<参考図書>
小野領一『Neo classroom 学級づくりの新時代』(東洋館出版社、2023)
  前掲ⅰ
  三島美砂・宇野宏幸「学級雰囲気に及ぼす教師の影響力」(教育心理学研究52巻4号、2004、p.414-425)
  ジョン・ハッティ、山森光陽監訳『教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(図書文化社、2018)
  前掲ⅳ
  前掲ⅳ
  前掲ⅳ


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会、共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。


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