大学入試改革からも求められる指導と評価の一体化【田村学流 単元づくり・授業づくり#27】

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田村学流「単元づくり・授業づくり」
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評価と見とり方特集

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
大学入試改革からも求められる指導と評価の一体化【田村学流 単元づくり・授業づくり#27】

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

大学入試改革という点から指導と評価について考える

ここまで、指導と評価の一体化という視点で、その意義や具体的な実践方法について考えてきました。そこで、今回は少し違う角度で、大学入試という視点から、今、求められる指導と評価のあり方について考えてみたいと思います。

大学入試の改革と求められる力の変化

♯24で校種ごとに抱えている課題について触れたときに、中学校や高等学校では、高校入試や大学入試につながる評定のほうに目が向く傾向があると話しました。それは、子供自身や保護者の願いも考えると仕方ないところもあると思います。特に、これまでの入学試験がペーパーテストで測れるような知識のウェイトが大きかったため、中学校や高等学校では、学習の過程を重視しながら資質・能力の育成を図るような授業づくりになかなか転換しきれなかった部分はあったのだと思います。いわゆる出口論の問題で、先生方の意識改革もなかなか進まない部分があったわけです。

しかし、大学入試においても、総合型選抜のような、入学希望者の意志や意欲を考慮するものが増えてきており、そういった選抜で入学した子供たちのほうが、大学に入ってから確実に力を付けているという調査結果も示されてきています。例えば、東北大学や早稲田大学では、一般入試(一般選抜)で入学した学生と、AO入試(総合型選抜)や推薦入試(学校推薦型選抜)で入学した学生たちの、入学後のGPA(成績評価)について比較調査を行った結果を示しています。それによると、AO入試や推薦入試で入学した学生のほうがGPAが高いという結果が示されています。こうした調査結果によって、意志や意欲といった非認知的能力のほうが大きくクローズアップされ、大学入試においても重視されるようになってきたのです。

非認知能力に関わる評価規準の精度を上げ、授業を変える

目先の旧来のテストの結果だけを重視したり、テスト結果を上げるためだけの指導をしたりしても、子供たちが将来、社会に出てから活躍できないばかりか、入学試験さえも乗り越えられないかもしれない状況になりつつあるわけです。その意味において、「主体的に学習に取り組む態度」のような、非認知能力に関わる評価規準の精度が上がれば、そのような資質・能力の育成に向けた指導改善につながるわけですし、子供たちにも非認知能力が身に付くことは大いに期待できます。

今後の社会においても例えば、非認知能力の一つである「協働的に問題解決を図る」力が、一層重視されるようになるでしょう。そうすると、入学試験においても「協働的に問題解決を図る」ことのできる子供が評価されるようになっていくはずです。ここで求められている「協働的に問題解決を図る」力を身に付けていくには当然、学習のプロセスで「協働的に問題解決を図る」活動を用意しなければならないわけです。

「協働的に問題解決を図る」力は、協働的に問題解決を図る活動を通してこそ育まれるもの。
「協働的に問題解決を図る」力は、協働的に問題解決を図る活動を通してこそ育まれるもの。

具体的には、一つの目標に向かって異なる考えをもつ人たちがいる状況では、互いに考えを出し合い、意見を交換し、それぞれのよさを響き合わせていくことによって、ミッションを達成できたという体験が必要になるわけです。そのような活動を体験した本人も「やっぱり、みんなで協力することっていいよね」「多様な意見を出し合うことで、より最適な解に近付けるね」と協働の価値を実感し、大切なこととして自覚することで、資質・能力は確実に身に付いてくわけです。こうして身に付いた資質・能力は、総合型選抜などの入学試験のときに大いに活用・発揮されるはずです。

「主体的に学習に取り組む態度」に関する精度の高い評価規準設定の価値は、大学入試改革という視点からも容易に理解できるものなのです。指導と評価の一体化を図り、評価規準そのものも単元や授業のデザインもブラッシュアップし続けることが求められているのです。

「単元づくり・授業づくり」をふり返る【田村学流 単元づくり・授業づくり#最終回】はこちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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