編著書『探究モードへの挑戦』刊行特別インタビュー【田村学流 単元づくり・授業づくり#00】

連載
田村学流「単元づくり・授業づくり」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
編著書刊行特別インタビュー【田村学流 単元づくり・授業づくり#00】

毎週、連載をしていただいている田村学教授(國學院大學)が、9月に編著者として、『探究モードへの挑戦 高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』(人言洞)を上梓されました。同書は、今後の教育を担う先生方にぜひ考えていただきたい重要な視点を提示しています。そこで今回は、連載特別編として、同著書の意図や内容についてインタビューをします。

『探究モードへの挑戦 高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』(人言洞刊・税込3300円)

生涯にわたる探究モードへの転換が求められる時代

 イギリスのリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏が『LIFE SHIFTー100年時代の人生戦略』を著して以降、「人生100年時代」と言われ、生涯学習の重要性が強調されてきました。しかし、田村先生の編著書『探究モードへの挑戦』では、さらに一歩先へ進み、生涯学習を旧来型の学習ではなく、探究のモードへと質的転換を図ることが重要だと言っておられると思います。ぜひ、この書籍を編著なさった意図をお聞かせください。

A まさに、この著書の最大のキーワードは探究です。「人生100年時代」は、生涯にわたって探究し続ける時代だと私たち(6名の著者)は考えています。これまで、旧来の教育の枠組みの中で、不確かであやふやな知識を受け身で取り入れたとしても、それは現代社会を生き抜くうえで、あまり有効ではないということがはっきりしてきています。

とりわけ、コロナウイルスのパンデミックとか、ロシアのウクライナ侵攻のような状況を考えれば、絶対の正解はないということは明らかです。むしろ、常に変容し続ける社会のなかで、最適解や納得解を探し求めなければならないということは誰しも納得するところだと思います。

おそらく、人はこれまでも人生の中で常に探究し続けていたはずなのです。それが、より顕著になってきたという社会状況に対する認識が大前提としてあります。そう考えたとき、学びのあり方はこれまでのような習得というモードではなく、いかに自分で課題を設定し、自分で考え、判断し、自分で行動していくかという探究にモードチェンジしていかなければならないのだというのが、私たちの考えるところです。

田村学教授

 探究の必要性は、田村先生も改訂に関わられた現行の学習指導要領でも重要性が示されていますが、それは学校教育だけでなく、人生にわたって必要だということでしょうか。

A はい。学校教育だけの話ではなく、社会教育でもそうですし、働く人の企業教育などについても同様なことが起きています。その意味において、生涯にわたって探究し続けることが求められるということですね。

それは、SDGs、つまり持続可能な社会の構築と非常に強く結びつくところです。ですから、その接点を明確にしながら、探究の重要性を提言していこうというのが本書のねらいです。

学齢期だけでなく、100年スケールの視点が必要

 この記事を読んでくださるのは、学齢期の子供たちの教育に携わる先生方ですが、先生方もそのような社会状況を意識しつつ、教育に携わる必要があるわけですね。

A これまでは、学校教育の出口が一つのゴールでした。例えば、中学校や高校なら受験をくぐり抜けて、いかに高校や大学へ進学するかというところに一つのゴールがあったわけです。しかし、人生100年という視点で見れば、15歳や18歳が一つのゴールではなく、長い人生の中で、そのときどきを考えていくことが必要になるわけです。

加えて、社会状況はとても難しく、複雑な問題が身の回りに起きてきて簡単には解決できない状況にあります。さらに言えば、社会をより持続可能なものとして形成する方向で、そうした難問の問題解決を図ることが必要です。

それは一人だけで解決できることではないので、個々(子供たち一人ひとり)が自立することと共に、より協働的に問題解決に取り組んでいけるようにならなければ、社会は成り立たない状況にあると思います。つまり、多様な問題を探究的に解決していくためには、社会の形成者である一人ひとりが自立しなければならないし、同時に周辺の人々との協働も求められるわけです。そのような、より成熟した社会に向けて、一人ひとりが成熟していかなければならないわけです。

 そのような視点を、学校の先生方にも持っていただきたいというわけですね。

A はい。時間軸的に言えば、より長いスケールで考えていかなければならないでしょうし、学齢期だけでなく「生涯にわたって」という視点が必要でしょう。空間的に言うならば、学校という閉ざされた場所だけではなく、もっと家庭や地域社会まで視野に入れることが求められると思います。

これまで先生方が携わるのは、学校という閉ざされた空間の…小学校とか、中学校という限定された空間の…そこで過ぎる時間の中という範囲に限定されていたわけです。その狭い空間の中の限られた時間の中で、いかに効率的に教えるかが考えられていたわけです。

しかし、先のような社会状況を考えれば、これからの教育はそういうわけにはいかないと思います。子供たちが人として、いかに学び続け、探究し続けていくかということを考えていくことが求められます。そうなると、人が学ぶということ、探究するということはどういうことかということの理解が、先生方に求められるのだと思います。

探究モードの必要性を、学校教育、社会、世界などの切り口で解説

 そのような視点を読者の方々にもっていただくために、この書籍『探究モードへの挑戦』はどのように構成されているのでしょうか。

A まず序章では、私と共に編著をしてくださった佐藤真久さん(東京都市大学教授)が、SDGsの時代の中での教育改革や多様な人材育成、地域における人づくりなどの中で、探究が求められているという、大きな社会状況や社会認識といった背景について説明をしてくださっています。

第1章では、私が先にお話ししたような現代社会の複雑さに向き合うためには、自立と協働を共存させていくような、探究的な学びが必要だということを説明しています。加えて、そのような学びを構築していくうえで、学校教育の中で総合的な学習の時間の担う役割の重要性についてもお話ししています。

第2章では、合田哲雄さん(内閣府審議官、学習指導要領改訂時の文部科学省教育課程課長)が、学習指導要領の改訂の経緯など、近年の教育改革について解説しながら、探究の意義や価値について説明してくださっています。

第3章では、浅野大介さん(経済産業省教育産業室室長)が、大きく社会が変わるなかで社会で求められるのはどのような人材かということについて触れながら、社会に出ても探究的な学びが求められていることについて説明してくださっています。

第4章では、田渕六郎さん(上智大学教授)が、地域社会をテーマに地域における協働性について触れ、そこに住む一人ひとりが自らの人生を探究し、協働し続けることで、社会としては縮小傾向にあっても、豊かで幸福な地域社会を構築できるといったことについて説明してくださっています。

第5章では、白井俊さん(文部科学省、現在、独立行政法人大学入試センター)が、OECDにおける探究の考え方をテーマにお話しをしてくださっており、国際社会においても、探究の必要があることを説明してくださっています。

第6章では、再び佐藤真久さんがユネスコと人づくりというテーマで、SDGsやESDなど、持続可能な社会の実現においても、探究が必要であることを説明してくださっています。佐藤先生はさらに最終章でも、これまでのお話を総括してくださっています。

(注:執筆者の役職名などは執筆当時のものです)

少子高齢化の時代だからこそ、人づくりが重要

 最後に、これを読んでくださっている学校の先生方に向けて、メッセージをお願いいたします。

A 私たち教育に携わるものは、近視眼的な視野ではなく、もっと大きく教育がめざすものは何かというところを押さえておかなければいけないと思います。ただ、よい大学に入ればいいとか、よい会社に入ればいいというのではなく、一人ひとりの学び手がどれだけ自立して、どれだけ多様な人と協働的に暮らしていけるかを考えていくことが必要です。

そして…いつもお話をしていることなのですが…究極的には、「自分が社会を創り上げていく当事者だ」という意識をもってもらわなければなりません。ところが、日本の子供たちにはそのような意識が低い傾向があり、それが例えば、選挙の投票率の低さのようなことにも反映されていると思うのです。結局、学校で学んだ結果、何が大事かと言えば、社会に積極的に参画していく、自立的かつ協働的な人となることだと思うのですが、それが十分にしきれていないのではないかと思います。

そのような「そもそも教育がどうして必要なのか」という本質的な問いに向き合っていくためにも、先生方は、もう少し長い時間ともう少し広い視野で教育を捉えていくことが必要だと思います。そこには、極めて今日的な時代認識や社会背景の認識が必要となります。SDGsやVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字をとった言葉)や、多様なテクノロジーの変化などに直面せざるを得ないといった社会状況ですね。そうした背景を踏まえて、明日の社会を担う子供たちを育てることが必要です。だからこそ、学校という重要な学びのスタートを担う先生方には、「そもそも教育が…」という本質的な問いについて少し立ち止まって考えていただき、大きな時代の変革を自覚していくことが大事なのだと思います。

この本を読むことで、そうした自覚をしていただければすばらしいことだと思っています。

繰り返しになりますが、日本社会は少子高齢化になり縮小傾向にあるわけで、過去の右肩上がりの時代における成功体験だけでやっていけるわけではありません。そうなってきたときに、これまで以上に社会を担う一人ひとりの存在は大きくなっていくわけです。そうなればなるほど、日本における人づくりの重要度は増すわけですし、学校や教育の果たす役割もさらに高まるだろうと思います。

その高まる役割とは、過去のような均一な人材を多数育成することではなく、一人ひとりがしっかり問題解決ができるとか、それぞれの地域で自分の能力を発揮できるといった人材を育成することだと思います。そのような人づくりのスタートとなる学校教育の段階で、先生方がどのような意識をもって取り組んでくださるかというのは、非常に重要なことだと思います。

そのような教師としての矜持をもっていただくうえで、この書籍が一つのきっかけになればありがたいと考えています。


『探究モードへの挑戦 高度化・自律化をめざすSDGs時代の人づくり』
(人言洞
刊・税込3300円)


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執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之、撮影/横田紋子

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