指導と評価の一体化から考えるルーブリックのシンプルな整理法【田村学流 単元づくり・授業づくり#25】

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田村学流「単元づくり・授業づくり」
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國學院大學人間開発学部教授

田村学
指導と評価の一体化から考えるルーブリックのシンプルな整理法【田村学流 単元づくり・授業づくり#25】

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

指導と評価の一体化からルーブリックを考える

これまで、指導と評価の一体化を軸に話を進めてきましたが、今回は、その指導と評価の一体化を行うために作られるルーブリックについて、少し考えてみたいと思います。

3階層のルーブリックにはあいまいなものもある

最近では、指導と評価の一体化を適切に行うための評価方法として、独自にルーブリックを作成している学校も少なくないと思います。もちろん、ルーブリックには一定の意味や価値があると考えますし、作成すること自体を否定するつもりはありません。ただし、実際に作成されたもののなかには、安易な形で言語化したものがあることも否定できません。

例えば、ごく簡単に言うと、「~に取り組んでいる」「~に進んで取り組んでいる」「~に非常に進んで取り組んでいる」というようなあいまいな表現で、3階層に分けているものもあるわけです。これでは、その教科、単元における「進んで」や「非常に進んで」は何なのかが具体的には分かりませんし、実際に精度の高い評価を行うことはできません。

評価指標としてのルーブリックに多様な内容を詰め込んで、多数の階層を作ることで、分かりやすくしようとしている評価指標が、かえって混乱を生じさせたり、負担を大きくしたりしている場合もあると思います。

「評価結果を(ABCの)3階層にしたいので、評価指標も3階層のルーブリックに書かなければいけない」とか、「階層がたくさんあるほうが正確な評価ができる」と考えるのではなく、評価規準はもっと簡便かつシンプルに整理をしていったほうがよいのではないでしょうか。

通常、全国の先生方が作成している評価規準は、Bの子供の姿を記すことによって、ABCの3階層のBとCの境目になるということは理解しやすいと思います。このBとCとの境目を示す評価規準の一文の中で、AとBの境目も見えるような記述として表現できれば、シンプルかつ実用的なものになるということです。

一文で3階層を分ける評価規準の記述方法

では一文で3階層のルーブリックの機能を果たす評価規準の作り方について考えていきましょう。

以前、評価のフォーマット等について♯14~♯17で説明をしたときに、「~について、~しながら、~している」というフォーマットをお示ししたと思います。そのフォーマットの「~しながら」の部分で、量や質の違いが分かるようにしていけばよいのではないかと考えています。具体的には、「~しながら」の部分で、「~したり、~したりしながら」というように書くということです。そうすれば、「~たり、~たり」の部分で複数を示すことができます。例えば、その両方が揃えばA、片方だけならB、両方とも揃っていなければCと判断していくわけです。

この「~たり、~たり」に当たる部分は、学習内容に応じて、2点だけでなく増やしていくことも可能です。例えば、「~と、~と、~の視点から複眼的に分析しながら」と書けば、異なる視点が三つ示せるわけです。そのすべての視点から分析できていればAで、二つあればB、そこに到達しなければC、などというように判断していくわけです。

このような方法であれば、あいまいな表現で複数の規準を示すよりも、分かりやすくシンプルにAとBとCの違いを峻別することが可能です。評価規準とは、「この単元、この時間で実現したい大事なものはこれ」ということを、シンプルに言語化して示したほうがよいだろうと私は考えています。

評価規準はあまり複雑にせず、シンプルにした方が、先生も的確に見取って評価しやすくなるはず。
評価規準はあまり複雑にせず、シンプルにしたほうが、先生も的確に見とって評価しやすくなるはず。

先にも触れましたが、多様な力を育てたいと思うあまり、場合によっては、ルーブリックに多様な視点を入れて文章化してしまい、かえって評価が複雑で難しくなってしまうこともあると思います。「この時間(この単元)はこれ」とシンプルに考えて確実に実施し、それを年間の何百時間かを通して、多様かつ豊かにしていったほうがよいと思うのです。

それは、モザイクアートの1枚1枚(1時間1時間)のピースは、シンプルかつクリアな単色(一つの力)なのだけれども、それが何百枚(何百時間)も集まると、とても豊かで美しいアート(資質・能力)になることととイメージすればよいのではないでしょうか。逆に言えば、1枚1枚を混色のものにすると、全体としても濁っていて、何だか分かりにくいというようなものになる場合があるということです。

一つ一つ(1時間1時間)の評価規準は、できるだけシンプルであったほうが、指導する側にとっても、学ぶ子供にとっても、分かりやすく価値のあるものになるのではないかと私は考えています。

指導と評価を行った後の指導改善について【田村学流 単元づくり・授業づくり#26】はこちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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