教師は組織人として訓練されているのか【赤坂真二 「チーム学校」への挑戦 #1】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第1回は、<教師は組織人として訓練されているのか>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

はじめに

私は、教職大学院の実務家教員です。小学校で19年勤務し、大学では10年目を迎えます。教職大学院では、現職教員の専門性を磨いたり、これから現場に出る学卒院生の実践力を高めるお手伝いをしたりする一方で、学校やいくつかの自治体の教育改善のアドバイザーを務めさせていただいています。2016年度は、約60の校内研修や教育委員会の研修にお邪魔させていただきました。そうした過程で管理職の皆様の相談役になったりしてきました。

しかし、私自身は管理職の経験はありません。そんな私がチーム学校を切り口に、スクールリーダーのリーダーシップについて連載を担当させていただくことは甚だ僭越ではあります。もしかしたら「なにもわかってない」故の生意気を申し上げることがあるかもしれません。それでも、外から見ているからこそ、皆様の参考になることが申し上げられたら幸いです。的外れだったらどうぞ読み流してください。忙しい皆様の「箸休め」的な読み物としてお読みいただければ大変光栄に思います。

チーム学校の背景

さて、釈迦に説法ではありますが、最初はここから始めたいと思います。チーム学校という言葉は、平成27年12月21日の中央教育審議会の答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善の方策について」(中教審第百八十五号)によって、脚光を浴びるようになったと解釈しています。学校にチームとしての姿を求める背景として、答申の中では、いくつかの視点が示されています。

まず、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて、主体的・対話的で深い学び(当時はアクティブ・ラーニング)の視点による授業改善及びカリキュラム・マネジメントを通して組織運営を改善するため。また、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)や様々な地域人材等との連携・協働を通して、保護者や地域の人々を巻き込み教育活動を充実させていくため。さらに、社会や経済の変化に伴い、子どもや家庭、地域社会も変容し、生徒指導や特別支援教育等に関わる課題が複雑化・多様化しており、学校や教員だけでは、十分に解決することができない実態の存在。そして何よりも、学校教育に対する期待が大きい分、他国に比べてわが国の教員は業務の幅が広く、労働時間も長いという問題への対応です。私は、最後の視点が最も大事だと考えています。

今の学校の「首の回らない」状況は、「〇〇教育」との付き合い方を見れば一目瞭然です。学校は隙間のない教育課程に、社会の要請に応じて様々な「〇〇教育」を取り込んできました。これらの「〇〇教育」が厄介なのは、すべてをやることは「子どものため」になり、したがって、「正しく」て「必要」なのです。そうした善に向かった凄まじいエネルギーは、教師の仕事の総量を増やし、そして、教師の仕事を個業化していきました。また、業務の効率化、迅速化が期待されたパソコンの導入も、効率が高まって隙間ができた分、そこに新たな業務をさらに詰め込むことでその分仕事が増えました。例えば、連絡文書を別の学校の先生に渡すときに、郵送や教育委員会の連絡ボックスを経由していた時代は、返事が来るまでに数日の猶予がありました。しかし、電子メールによって瞬時に返事が来るようになると、すぐさま、次の仕事をしなくてはならなくなりました。道具が便利になった分、さらに忙しくなったわけです。

哲学もビジョンもないまま、傷口に絆創膏を貼るような対応が、学校の業務のあちこちで重なり、業務がふくれあがったのではないでしょうか。多忙になればなるほど個業化の様相、つまり、一人でがんばる傾向を強めていった学校の仕事を、協働によって解決していくという方針は妥当だと思います。内部の協働が進まないまま、外部との連携がうまくいくとは思えません。

学校は本当にチームになれるのか

しかし、あちこちの学校現場を見てきて、理念が美しいだけに、その実現はかなり厳しいと感じることが多々あります。

管理職のみなさんが頭を痛めているのが、「動かないベテラン」の存在です。学校が変わらなくてはならないときに、存在感と影響力が大きいベテラン層が、協力をしないのです。新しいことをやろうとすると「そんなことをやっても意味があるのか」「誰がそんなことを言い出したのか」と「やらない理由」を探し出します。彼らは、経験年数が多い分、百戦錬磨であり、自分たちの主張を正当化するロジックは溢れるほど持っています。それと似たような存在に、「昔のエース」がいます。かつては、地元でそれぞれの専門で輝いていた人です。「国語の大家」「算数・数学の大家」などと祭り上げられるうちに、新しい挑戦をしなくなり、改革に後ろ向きで否定的な発言をします。過去の実績がありますから、彼らの発言を蔑ろにはできません。

困ったのはベテラン層だけではありません。「暴走する若手」もいます。採用試験の倍率が下がり、若手教師が職員室に増えました。優秀な人材を採用するには、ある程度の倍率が必要ですが、それが下がってくるとそれなりの人も採用されます。仕事を頼まれても「無理っす」と断ったり、子どもたちがうるさいと授業中にホイッスルを吹いたり、理解できない子がいると、生徒指導の会で「この子、人としてキライです」と言い放ったり。

大方の教師は、個人としては優秀です。しかし、組織人としての訓練がなされていないことが大きな問題なのです。

『総合教育技術』2017年4月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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