若手の成長を若手だけの責任にしていませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #59】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第59回は、<若手の成長を若手だけの責任にしていませんか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

若手の育成を考えるフォーラム

今年の3月末の平日の夜、オンラインで「若手が伸びやかに成長する環境とは」をテーマにフォーラムが開かれました。

きっかけは、私が師と仰ぐ元小学校教員で、現在は大学で講師を務める橋本定男氏の問いかけでした。御年77を数える先生ですが、今も教育現場と太いパイプを持ち、教育委員会や教育団体の研修の担当をしています。ある日、先生が突然電話をかけてきて「あちこちで、学校の現状を聞くけど、若手の志は大丈夫なの?」と問いかけてきました。私は即答しました。「若手が問題ではありません、むしろ問題は受け入れる側の問題です」。「え~、そうなのかあ~?」と師匠は大きくつぶやきました。非凡な判断力と行動力をもつ師は、そこで持論を展開するのではなく、電話を切るや否やあちこちの行政、管理職等々、自分のネットワークに連絡をし、「どうやら、(赤坂の言っていることは)本当らしい」と納得し、本フォーラムを企画しました。

フォーラムの申し込みそのものは80人を少し超えたくらいでしたが、当日は、学校内の研修室らしき部屋から参加している若手グループがいくつかあったので、実際は100名以上の方が集まっていたことでしょう。この日、私は師匠の圧巻のコーディネート力を見せつけられました。こうしたデリケートな問題を扱うと、ほぼ行政関係者は出てくることはありません。しかし、師匠の人脈は行政の、しかもかなり立場が上の方も引っ張り出した上に、20代の若手教員、さらに、気鋭の研究者も巻き込んでいました。行政関係者、研究者、若手教員が、師匠の前では、学び手として対等な立場で発言していたことに感銘を受けました。若手と一言で言っても、「十人十色」、そしてそれを育てる側も「十人十色」です。しかし一方で、個別の話をしたらキリがありません。全体を把握した上で、個別を考えるべきだと思います。SNSなどでは、誰かがある問題を指摘すると「私は出来ています」「うちは大丈夫です」などと、個別の話を持ち出すやりとりをたまに目にします。問題の共有の段階で食い違っているのでは、議論になりません。

師匠はまず、行政関係者や管理職に俯瞰的な立場から問題を指摘させ、そして、個別のグッドプラクティスを紹介していました。若手育成は大変な流れの中にある、しかし、一方で個別に見ると、実に効果的に若手育成をしている学校もあることが、具体的な事例を通して理解できました。大勢の指導層の前で、小躍りするようなアクションを加えながら話す20代の教員たちに希望と共に羨望すら感じました。それぞれの発言者がホンネで話していることが伝わってきました。師匠の人柄か、醸し出す雰囲気か、みんなが安心して参加していました。77歳にしてこの求心力、まさに「もののけ」レベルだと思いました。

教師を育てることができて一人前

この日、いろいろな話が飛び交っていましたが、大きくまとめると、「若手の成長を若手のみの責任に帰するのは、そろそろやめませんか」ということだったと思います。発言者の話から、これからの若手育成のキーワードが出て来ました。本稿では以下の3つに絞ってお伝えします。

流動性メンター
循環型コミュニケーションによる学校・学年・部会経営
教師の力量形成に教師育成能力を組み込む

今の初任者研修は、管理職、学年主任、拠点校指導員から若手が一方的に「指導される」仕組みになっています。つまり、授業改善で、教師主導を是正し、子どもの主体性を引き出そうとしているにかかわらず、初任者研修は、かなりしっかりと指導者主導をやっているわけです。すなわち、仕組み自体が若手の意欲を奪うようになっているわけです。学校教育は学習者の意欲を育てるというカリキュラムになってきているのに、教師教育では未だに封建制度をやっているわけです。民主的な社会で育ってきた若手を上下関係で育てようということに無理があります。

また、制度が確立すればするほど、職員室内で若手育成の分業がなされ、若手にかかわる人、かかわらない人の分断が起こっています。当事者意識のない批判が若手に向けられるような職場が生まれてしまっています。職場の全員でなくていいから、学校内のあちこちにメンターがいる状況を作り出すことが大事です。既にそれを実現している学校の存在も事例報告から確認されました。若手育成をうまくやっている学校は、彼らを「出来ない人」のポジションに置いていません。若手は「未熟」かもしれませんが、出来ることが沢山あります。ICTは分かりやすい領域ですが、自由進度学習や協働学習などなど新しいことを勉強している若手は大勢います。これが階層型の組織だと、若手は情報を受け取るだけになります。若手からもアウトプットしてもらい、教員同士が互いに学び合う循環型の組織をつくることで学校はさらに活性化することでしょう。つまり、若手も誰かのメンターになるのです。流動性メンターと循環型コミュニケーションは一体となって実現されます。

私がもっとも強調したいのは、教師は子どもの教育のプロかもしれないが、教師育成には素人かもしれないという自覚が大事だということです。すばらしい若手育成のプロは現実にいますが、そういう人にあたることは、現時点では「希(まれ)」です。つまり出会い次第という極めて不安定な偶発的要因に依存しています。メンターのトレーニングが圧倒的に抜け落ちているのが今の学校教育界ではないでしょうか。あの大ヒットマンガアニメ『鬼滅の刃』に登場した鱗滝左近次のような「育て」のプロがあまりにも少ないわけです。教員研修にメンター力向上プログラム等を早急に導入し、年次研修などの悉皆研修にも組み込むべきだろうと思います。つまり、教師の力量として、授業力や生徒指導力のような子どもへの指導力だけでなく、教師教育力も組み込み、「同僚を育てることができて一人前」と見る風土を形成することが必要ではないでしょうか(子どもの指導しかできない人が、職員室で影響力をもってしまうことは根深い問題だと思います)。

閉会しても、居残りメンバーで議論はさらに続きました。


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会、共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。


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