「いい雰囲気」の職員を育てていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #57】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第57回は、<「いい雰囲気」の職員を育てていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

職員室の「マルトリートメント」

川上康則氏の『教室マルトリートメント』(東洋館出版、2022)が大きな反響を呼んでいます。「教室マルトリートメント」は、教師から児童生徒への「違法ではないが適切ではない指導」を意味する川上氏の造語です。例えば、事情を踏まえない頭ごなしの叱責、子どもたちを萎縮させるほどの威圧的・高圧的な指導などのことです。

こうしたことは教室、つまり教師と児童生徒の間だけに起こっているのでしょうか。2022・23冬号の特集2の取材に向けて5年目以下の教員に「教師の仕事におけるあなたの悩みや困っていること」や「職場の同僚や管理職に望むこと」を尋ねました。すると「悩みや困っていること」の中に、児童生徒や保護者に関することに混じり、同僚や管理職に関することも見られました。特集の内容と重複する部分もありますがご容赦ください。例えば、次のようなものです。

「最近生徒が緩んでいるから締めよう、叱ろう、禁止しよう」とそれをしたら子どもが苦しくなるだろうということを、職員全員でやろうという雰囲気がある。
意見を言っても「上はこう言っている」「こうあるべきだ!」「足並みを揃えなくてはいけない」と言うばかりで取り合ってもらえない。
職員室で弱い立場にある教師に対して、強い態度や冷たい態度に出る教師がいて見ていて嫌だ。
多くの同僚(管理職を含む)に対して思うのはイライラをまき散らさないでほしい。機嫌が悪かったり、子どもに対して威圧的に関わったりしているのを見るだけで心が削られる。

話を聞いてもらえないなど回答者本人が理不尽な対応を受けている場合もあれば、パワハラや児童生徒に対する不適切な処遇を見ているのが不快だという意見が見られました。職員室内の直接的な「マルトリートメント」だけでなく、子どもへのそうした指導を見た教師が傷付く二次的な問題も起こっていることが窺えます。これらの意見は、どこの職員室でも多かれ少なかれ見られたことかもしれません。しかし、回答者の中にはこれらが理由の一つとなって辞職した者もいます。今の若手教師のメンタリティは、こうした職員室の姿を許容しなくなっているのかもしれません。

「腐ったリンゴの実験」より

「マルトリートメント」まがいの行為は、近年私の耳にもよく入るようになりました。学年会でベテラン女性教員に口を利いてもらえない、職場で副校長及びその仲間の教員から馬鹿にされる、ベテラン職員が職員室で書類を投げつけたりあからさまに大きなため息をついたりするなど、本当に学校で為されているのかと耳を疑いたくなる事例が聞こえてきます。そしてこれらの事例に共通しているのは、そうした行為が放置されているという事実です。このような人物がいたら、嵐が過ぎ去るのを待つが如く「耐える」しかないのでしょうか。運が悪かったと「諦める」しかないのでしょうか。コイル(2018)※1は、興味深い実験を紹介しています。

オーストラリアのサウスウェールズ大学で組織行動学を研究するウィル・フェルプスは、ニックという「チームのパフォーマンスを下げる」使命をもった男性をある企業のチームに送り込みました。フェルプスによるとチームに悪影響を及ぼすのは「性格が悪い人(攻撃的、反抗的)」「怠け者(労力を惜しむ)」「周りを暗くする人(愚痴や文句ばかり言っている)」だと言います。ニックは、プロジェクトチームに於いて3つ全てのタイプを演じ、メンバーがやる気に溢れているときに暗い顔で何も言わず下を向いたり、いい加減な仕事をしてプロジェクトをさっさと終わらせたりしました。すると多くのチームではニックを模倣する者が現れ、必ず30~40%はパフォーマンスを低下させました。

しかし、ジョナサンと呼ばれる男性がいるチームでは、ほとんどニックの影響を受けず活気も失わず、それに見合う結果も出しました。フェルプスによると、ニックが嫌みを言ったり暴言を吐いたりすると、ジョナサンはニックにあからさまに対抗したりはしませんが、笑顔を振りまきました。すると、ニックによって緊張した空気が変わり、和やかな雰囲気になりました。

フェルプスは何度も映像を見返してジョナサンの動きを分析しました。すると、ニックが不適切な行動をする度に、すぐにその毒を中和するような行動をとっていることがわかりました(以上、ダニエル・コイル『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』より※2)。コイル(前掲)によれば、成功しているチームのメンバーは、ある交流のパターンをもっていて、主なものを挙げると、

お互いの物理的距離が近い、よく輪になっている。
アイコンタクトが多い。
活気のある短いやりとりが多い。
チーム内の交流が盛ん。仲のいい小さなグループで固まらず、誰もがメンバーと会話をする。
ユーモアと笑いがある。

などが見られるといいます※3

管理職の皆さんにジョナサン役をやってほしいわけではありません。これらのイメージを参考にし、継続的な職員室の人間関係づくりに取り組んでいただきたいのです。いずれジョナサンのような人物が育ってくることに期待したいです。それが結果的にニックのような人物の出現を抑制すると思われます。「腐ったリンゴ」は最初から毒を放っているわけでも、そうしたいと思っているわけでもないでしょうから。

※1 ダニエル・コイル著、楠木建監訳、桜田直美訳『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(かんき出版、2018)
※2 前掲1
※3 前掲1

『総合教育技術』2022・23年冬号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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