本当の授業の意味は、質問しないと分からない【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑭】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
本当の授業の意味は、質問しないと分からない【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑭】

研究協議の場で質問が出てこない

私はこれまで規模の異なる多様な研究会に取材にうかがってきました。その時に、何度か研究協議の場で、質問がほとんど出てこず、授業づくりに関わった方だけで質疑が行われる場面を見たことがあります。もしかしたら、若い先生は発言が恥ずかしいのかもしれません。あるいは、ベテランの先生は授業を見て「分かったから」と思っておられるかもしれません。しかし、質問もなく本当の授業の姿が分かるということはないような気がするのです。今回は、そんなお話をしてみましょう。

授業名人の他地域での飛び込み授業で前日に何を行っていたか

以前、ある自治体の授業名人が、他地域の体育館で国語の授業を行うのを見学に行ったことがあります。この授業自体が取材の対象ではなく、たまたま別件でこの先生に取材のご依頼をしたところ、ちょうど間も無く他の自治体に招かれて授業を行うことになっているということをうかがったため、その日程に合わせて取材をお願いすることにしたのです。

ちなみにその授業は、地域の先生が研修で参加しやすいように休日に行うことになっているとのこと。そのため、子供たちは参加可能な子供たちに限られ、複数の学級の子供たちを寄せ集めて行うというのです。

「初めて出会う子供たち対象の授業ですよね」と尋ねると、「はい」と先生。

「それは、いくら先生でもやり辛くはないですか?」と問うと、「はい」と先生。

「どう準備されるのですか?」とうかがうと、「いきなり体育館で会うのでは、いくら何でも難しいので、前日に少しお時間をいただいて、子供たちと会うことにしました」とのこと。

そこで、当該地域の招聘担当の方にご依頼をし、前日の子供たちとのやりとりを見せていただくことにしたのです。(これ自体は取材ではなく個人的な勉強目的でした)

休日に一室に集められた20名弱の子供たちを前に、その授業名人の先生は挨拶をした後、一人一人に、「休日にわざわざ来てくれてありがとう」とお礼を言い、握手をしてから小さなお菓子の缶をプレゼントしていきます。

そして、自分は皆さんを前に緊張していて不安だけれども、皆さんも緊張しているでしるだろうと話します。「何か話しても、みんなが反応してくれないと、不安になるから…」と言って、先生の話や友達の話が分かったら意思表示をしようと伝え、「ああ。いいね。うん。えええ! おおお!」と相槌を打つための、コミュニケーションの「あいうえお」を練習しようと話す先生。

そして、実際に先生自身も笑顔を浮かべながら、「ああ。いいね。…」と子供たちと一緒に声を出していきます。それを何度か繰り返すうちに、自然に声が大きくなり、笑顔になっていく子供たち。

そうやって次第に打ち解け、部屋に安心感が漂ってきたところで、授業ではどんな意見でも出していいというルールを伝えていきます。そこからやっと翌日の授業の概要を説明し、内容についての簡単なレクチャーをしてその日は終わったのでした。

すばらしい授業の基は前日にあった

翌日は体育館の台上で授業をする先生と子供たち。作品を読んで、それぞれの意見を出していくのですが、それぞれの子供たちが前日に渡されたばかりの教材を深く読み込んでいたのでしょう。学齢を上回る深い意見がたくさん出され、「あああ」「おおおおお」と会場に参観の先生方の感嘆の声が響くのでした。

その声からして、飛び込み授業をしている他自治体の先生が、子供の深い読みを引き出していることに、ただただ驚いておられる様子。しかし、それを見ている私は、「この日の授業だけを見ていても、この授業の基となるものは分からないだろうなぁ。感心するばかりで質問も出てきていないし、前日の子供たちとのやりとりを見せてあげたらよいのに」と思ったのです。

研究協議の場で、しっかり質問しないと見えてこないことがある。
研究協議の場で、しっかり質問しないと見えてこないことがある。

前日の子供たちとのやりとりでは、まず信頼関係づくりを行い、その上で、「学びの場はどんな意見を出してもいいんだ」という、安心して自己開示をできるような場づくりに徹底して時間を割いておられたのは先の説明の通りです。

実際にその先生が、地元での授業中、ちょっとズレた読み違い、間違いとも言える子供の意見を皮切りに、多数の子供たちが教材文の叙述を基に多様な意見を出し合い、深め合っていく場面を見ました。その対話の後、先生は、「今日、Aさんがあの意見を出してくれたから、みんないろいろ考えて意見を出し、頭を使って勉強できたね。Aさんありがとう」と、間違った意見を出した子供を評価していました。

そういった安心できる場を作っているからこそ、対話が深まっていくのだと思います。体育館の台上では、それに類する場面がなかったために、きっと見ている先生方には、その授業ができる本当の理由は分からなかったのではないかと思います。

授業というものは、子供の姿を丁寧に見取っていけば、いろいろなことが分かるものだと思います。それでも分からないことがあるはずで、だからこそ研究協議の場でしっかり質問することが大切なのではないでしょうか。

【全国「授業実践レポート」取材こぼれ話】次回は、7月22日公開予定です。

執筆/矢ノ浦勝之

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