有名ベテラン教師がおすすめ!夏休みに若手教師が読むべき本はコレだ

特集
教師の夏休み特集:研修活用・自己研鑽・過ごし方のヒント
関連タグ
本を読む女性

日々、子供と向き合ったり、教材開発に追われていた若い先生にとって、夏休みは絶好の学びの時期。教員としてのスキルアップのため、さまざまな研修やこれまで手を付けられなかった本を読むことを計画している先生も多いことでしょう。

そこで、多様な知識と技術、経験を併せもつベテラン教員の多賀一郎先生、俵原正仁先生、藤木美智代先生の3人に、夏休みに若い先生方に読んでほしい3冊を紹介していただきました。

多賀一郎先生のおすすめ3冊

多賀一郎先生

【たが・いちろう】教育アドバイザー。前・追手門学院小学校講師。神戸大学附属住吉小学校を経て私立小学校に30年以上勤務。「親塾」を開いて保護者の相談に乗ったり、全国でのセミナーを通して教師を育てることにも力を注いでいる。 著書に『学校と一緒に安心して子どもを育てる本』(小学館)、『危機に立つSNS時代の教師たち―生き抜くために、知っていなければならないこと』(黎明書房)など多数。

【1】『きよしこ』重松 清(新潮社)

重松清「きよしこ」

重松さんは吃音があって、そのために幼い頃から苦労をしてきたようです。彼の作品の根底には、言えない思いを抱えた子供の気持ちに目を向けるというものがあります。しゃべることが苦手なために悔しい思いをしたこと、大切な事を結局口にできなかったことのある人たちにむけてのメッセージでもあります。

先生方の教室にきっと何人かはいる、こんな思いをもった子供のことを考え直す機会となる本だと思います。ものを言わないのは、決して思いがないからではないということを知るためにもこの本を読んでほしいと思います。

【2】『52ヘルツのクジラたち』町田その子(中央公論新社)

『52ヘルツのクジラたち』町田その子(中央公論新社)

1頭のクジラが発する、仲間のクジラたちの誰にも聞こえない52ヘルツの声。

そんな声を発している人間がいるのです。その声は、一部の人たちにしか届かないのだけれども、その声を聞きとった人間が声を発した相手に寄り添うことができたなら…。

自分の人生を家族に搾取されてきた女性が、母親に虐待、ネグレクトを受けてきた少年と出会って、少年の声を聞くのです。そこから進み始める愛の物語です。

今、ネグレクトなどがクローズアップされているこの時代に、教育者だからこそ耳を傾けなければならないことがあると感じさせられます。

【3】『AIの時代を生きる 未来をデザインする創造力と共感力』美馬のゆり(岩波ジュニア新書)

『AIの時代を生きる 未来をデザインする創造力と共感力』美馬のゆり(岩波ジュニア新書)

現場にタブレットが導入され、ICTの授業が各校で行われるようになりました。ICTは便利で、これまでの授業を大きく変えようとしています。AIの時代は確実に始まっているのです。しかし、我々はAIについてどれだけのことを知っているのでしょうか。

本書では、未来を考える手がかりやAIと「共感」についての考え方、AIの限界など、根本的なさまざまな課題について、実験や研究から述べています。AIは苦手だと感じている方にも、すっと入ってくる内容だと思います。ジュニア新書だけど、大人こそ読むべき本です。


俵原正仁先生のおすすめ3冊

俵原正仁先生

【たわらはら・まさひと】兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝!  全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

【1】『教室マルトリートメント』川上康則(東洋館出版社)

川上康則著「教室マルトリートメント」(東洋館出版)表紙

1学期を振り返ってください。次のような言葉を言ったことはありませんか?

「何回言われたら、分かるんですか?」「漢字の直しができないと、お楽しみ会はできません」「先生、前にも言ったよね」

著者である川上先生は、このような言葉を「毒語(子供の発達を阻害するネガティブ要素をもった言葉)」と名付けました。「あかん。何度も言っている」――そういう先生もいると思います。

でも、落ち込まなくて大丈夫。たぶん、そう思ったのはあなた一人ではありません。本書は、このような「子供たちの心を知らず知らずのうちに傷つけている不適切な指導(教室マルトリートメント)」を取り上げて、その対処法について述べています。2学期、一歩前進すれば、それでいいんです!

【2】『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』作:サトシン 絵:よしなが こうたく(講談社)

『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』作:サトシン 絵:よしなが こうたく(講談社)表紙

2学期の読み聞かせに超おすすめ。低学年から高学年までバカ受け間違いなし。人間の落としたアンマンをアリたちが力を合わせて自分たちの巣穴まで運ぶ……というあらすじをシンプルに紹介すると、どこに面白要素があるのかと思うかもしれませんが、表紙を見れば、私がおすすめした理由が即分かります。

おっさん顔のマッチョな主人公アリヤマ・アリロウの勇姿や過剰なまでに熱いアリたちの活劇は面白さ満点です。

なお、夏休みには学校の図書室にぜひ足を運んでください。この絵本以外にも、『おこだでませんように』(小学館)や『ごめんねともだち』(偕成社)など、読み聞かせしたくなるお宝がゴロゴロ見つかると思います。

【3】『自己肯定感という呪縛』榎本博明(青春出版社)

『自己肯定感という呪縛』榎本博明(青春出版社)表紙

教育現場でよく使われる「自己肯定感」という言葉。「自己肯定感が低いので、まずは、ほめて自信をもたせましょう」というような話はよく聞きますよね。でも、そもそも自己肯定感って高めなければいけないものなのでしょうか?

実力に比べて自己肯定感だけがやたら高いというのも周りの人にとっては迷惑な話です。この本の中には、「いや、それはちょっと違うやろ。わかってへんわ」とツッコミたくなるところ(ほめる教育に対する疑問など)もあるのですが、安易な「自己肯定感を高めなければならない信仰」について考えるためのいいきっかけになる1冊です。比較的時間に余裕がある夏休みに、じっくり読んで、じっくり考えて、2学期からの実践に生かしてください。


藤木美智代先生のおすすめ3冊

【ふじき・みちよ】千葉県公立小学校校長。学級経営&教材研究サークル「まなびや」会長。著書に『女性管理職という生き方ーなんて楽しい教頭職』(学事出版)、『おやこで話そう 7つの習慣 Kids 大切なことから今すぐ先に』(キングベアー出版)、共著に『女性教師だからこその教育がある!』(学事出版)。

【1】『子どもの心に光を灯す 日本の偉人の物語』白駒妃登美(致知出版社)

『子どもの心に光を灯す 日本の偉人の物語』白駒妃登美(致知出版社)表紙

国際化が叫ばれている昨今、海外に目を向ける前にまず日本の素晴らしさを子供たちに伝えたいと思います。

「日本の歴史や文化について理解を深めれば、きっと誰もが日本を好きになり、自分が日本人であることに誇りを持てるようになると思います」という著者白駒さんは、学校でも講演をして、子供たちに日本の先人の美徳ある生きざまを語っています。まえがきには「子供たちが豊かな感性で歴史をとらえることで、自分自身の可能性に気づく、その自尊心や使命感が太くて安定した根っことなり、そこから生きる力がみなぎる」とあります。

この本は、教科書には描ききれなかった15人の先人のエピソードが描かれています。この本を読み、次代を担う子供たちに日本の素晴らしさを語り継いでいきましょう。

【2】『日本の教師に伝えたいこと』大村はま(筑摩書房)

『日本の教師に伝えたいこと』大村はま(筑摩書房)表紙

国語の大家である大村はま先生は、「いきいきとした教室」を理想とし、52年間教壇に立ち続け、日本全国で講演活動もされた方です。一人一人が確実に成長し、一所懸命に生きている教室となるような国語の授業、日々の声かけ、教師の在り方、子供の心の捉え方等が教授される本です。

個々の学びを大切にし、それぞれの思いを話し合い活動で高めるという授業の考え方は、「主体的・対話的で深い学び」「個別最適化の学び」「協働的な学び」を予言したのではないかと思わされます。厳しくも温かな示唆がちりばめられており、読むたびに背筋を正されます。

「教師は、持ち前の知識でその日その日を過ごすことのできる危険な職業」という大村先生。だからこそ我々教師も学び続けなければならないのだと教えられます。

【3】『おいしくて泣くとき』森沢明夫(角川春樹事務所)

『おいしくて泣くとき』森沢明夫(角川春樹事務所)表紙

森沢明夫さんは、温かな人間関係模様を描きつつ、その中で人生において大事なことを心に刻んでくれる、そんな小説を書かれる小説家です。中でもこの小説は、貧困で虐待を受けている中学生が描かれており、教育に携わる我々にも考えることの多い作品です。

帯には、「きみの居場所は、ここにあるよ。子供食堂を舞台に、今年いちばん温かくて幸せな軌跡が起こる!」「無力な子供たちをとりまく大人たちの深い想い。『美味しい奇跡』を描いた希望の物語」と書かれています。

この小説の中に出てくる父が息子に語る言葉「人の幸せってのは、学歴や収入で決まるんじゃなくて、むしろ『自分の意思で判断しながら生きているかどうか』に左右されるんだって」にぐっときました。心を洗いたい方、ぜひお読みください!


教育書に限らず、幅広いジャンルの本を選んでいただきました。この記事が、みなさんの質の高い学びの一助になれれば幸いです。

取材・構成/長 昌之 写真/写真AC

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
教師の夏休み特集:研修活用・自己研鑽・過ごし方のヒント
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました