自然災害に負けない小学校になるため、考えよう、防災教育

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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教師の夏休み特集:研修活用・自己研鑽・過ごし方のヒント
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

9月1日は防災の日で、防災について考える日です。皆さんは、防災教育をどのように進めていますか? 恐らく、様々な災害を想定した避難訓練を年間指導計画に沿って進めていると思います。
しかし、避難訓練だけで、果たして十分と言えるでしょうか?
近年、毎夏の猛暑や大雨洪水はもちろんのこと、さまざまな自然災害が頻発しています。いつ子どもたちに災害がふりかかるか分からない状況です。
そこで、今回は、「子どもたちの命を自然災害からどう守るか」をテーマに考えてみましょう。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #07

被災地に立って

私の防災教育を考える機軸は、2011年に起きた東日本大震災で、多くの犠牲者を出した宮城県石巻市立大川小学校です。この大川小学校には、今までに夏休みを利用して3度、足を運んでいます。

「もし自分がこの大川小学校の校長なら…。もし亡くなった子どもたちが自分の学校の子どもたちなら…」

そう考えたことがきっかけでした。
そして、
「地震や自然災害が起きたとき、最終判断者の校長として、自分ならどう決断するだろうか?」
という、自分に対する問いかけへの答えを見つけるため、実際に大川小学校のグランドに立って考えたかったのです。

訪問を重ねるごとに、残された建物の劣化が緩やかに進み、その一方で犠牲になった子どもや住人の名前が刻まれた慰霊碑が新たに建つなど、景色の変化に時間の経過を感じます。

しかし、いくら時が過ぎようとも、
「やはり、あのとき、校舎の裏山に逃げれば助かったかもしれない」
「しかし、小さな子どもたちや地域のお年寄りもいた中で、その判断が果たしてできただろうか?」
と、変わらぬ痛恨の念を抱きます。
私は、やりどころのない悲しみと無念さを覚えながらも、この場ではただ、静かに手を合わせることしか出来ません。
二度と同じことを繰り返さないために。教職員一人ひとりの当事者意識を育て、子供たちに自然災害等についての予防教育を進めていくことが、残された者たちにできる、犠牲者へのせめてもの手向けだと考えるしかありません。そして、自分にできることをするしかありません。
「学校はどんなことがあっても、なんとしてでも子どもの命を守らねばならない」
と決意を新たにして、私は帰路につくのです。

「正常性バイアス」の罠にはまらないために

人間には「正常性バイアス」という認知特性があります。非日常的な事態が起こったとき、「何かの間違いだ」「自分だけは大丈夫だ」などと考えてしまいがちで、決定的な行動の遅れを生じさせてしまうことが往々にしてあるのです。だからこそ、大人も子どもも、日頃から災害に対する想像力を育てる訓練が必要です。災害時に自分で状況を判断し、どのように避難し、どう命を守るか? このように考えられる力のことを「災害イマジネーション力」と言います。

この力を育成するために、「目黒巻」と呼ばれる、東京大学教授・目黒公郎氏開発の防災思考ツールを活用することを強くお勧めします。

「目黒巻」で災害イマジネーション力を育てよう

以前私の小学校で、6年生が鎌倉・箱根へ修学旅行をする前に、「目黒巻」を活用して授業実践を行いました。
修学旅行時に、もしも地震に遭遇したら…。
「10月1日(水)晴れ。正午。東京湾北部を震源とする地震(M7.3)鎌倉市震度6強、地震発生後、30分後に津波が鎌倉市に到着」
という状況を設定して、目黒巻を作ることにしました。目黒巻ではこのように、具体的なシチュエーションを設定し、災害に直面した自分が、どのように感じ、考え、行動するのか…ということを具体的に教材に記入していきます。その具体性が、災害イマジネーションを育てることにつながるのです。

この授業では、子どもたちには分かりやすいよう「防災巻」という名称で目黒巻を導入しました。グループでワークショップを行い、どのように状況を判断するか、どんな避難行動がより安全かを共に考え、話し合いました。

目黒巻(防災巻)の記入例

防災巻を活用した防災授業の概要は以下の通りです。

 「防災巻」について知る。
 個人で修学旅行の班別行動を想定して、「わたしの『防災巻』」を作成する。
 個人で作成した「防災巻」をグループごとに見合い、疑問を感じたところなどに付箋を貼り、話し合いながら修正していく。
 個人の防災巻を踏まえ、「班別行動の防災巻」を相談しながら作成する。
 各班で作成した「防災巻」をみんなの前で発表し、情報交換・意見交換を行う。
 「防災巻」を作成しての感想を記入する。

この「防災巻」を活用した授業を終えた子どもたちは、感想を次のように記しました。

(Aさん)
埼玉にいると津波もないし地震も少ししかないので、『怖い。でもここにいるから大丈夫。』と他人事のように思っていたけれど、こんなことがあったらと真剣に身近に感じることができました。鎌倉に行っても今日学んだことを生かしたいです。

(Bさん)
最悪の状況を考えることは、少し辛い部分もあったけれど、これが、自分たちの命を守る行動につながるのだと分かりました。どのような行動をとるか対策を考えても、それに対して疑問が残る。その疑問に対しての対処は、当たり前の事ではあったがとても大切なことでした。

(Cさん)
防災巻を自分なりによく書けたと思ったのですが、友達から見るとたくさんの疑問が出てくるなと分かった。自分では、想像できなかった災害も、グループで話し合ったらたくさん見つかり、また、対処方法も見つかった。

(Dさん)
いろいろな避難ルートや対処法が考えられたが、やはり確実だと言えるものは何もなく、いつ何が起こるのか分からないと感じた。今回は12時だったが、海の付近へ行く時間帯に地震が来てしまったらと思うと、かなりゾクゾクした。たかが30分だが、地震があると、その30分以内の行動が生死を分けるのだと知った。

(Eさん)
もしも、こんな事(地震や津波)も考えずに本当に災害が起こってしまったら、大変なことになっていたと思います。なので、イマジネーション・トレーニングをして、とてもよかったと思います。

子どもたちは、災害をしっかり「自分ごと」として取り組むことができました。また、自分たち自身で災害を乗り越えなければならない、という自覚も芽生えたようです。

ある保護者からは、
「帰宅した子どもが、防災巻のことを真剣に話してくれました。地震を始めとする災害に関して、このような学習をすることで、子どもは真剣に地震などの災害を考えるようになりました」
と嬉しい報告もいただきました。

人は、イメージしていない災害状況に対して、適切な心がけや対処ができないものです。
地震だけではなく、洪水や台風、火災など、災害の種類も様々あれば、時刻や季節も様々でしょう。
それらを具体的にイメージできるように、自分を主人公とした物語の防災巻を作成してみます。
すると、心構えなしでいると大変な状況になることに気づき、悲劇を迎えないために必要な事前・直後・事後の対策は何なのかが見えてきます。
ぜひ、これを意識してください。ぜひ、みなさんも実践を検討してください。
何が起きても生き延びることのできる力を、子どもの中に育てていきましょう。

この学習後、修学旅行に出かけた子どもたちは、自分たちの力で鎌倉の街を見学できました。宿に戻った一人ひとりの顔は、安堵と達成感に溢れていました。

余談ですが、「だいふくあまい」という言葉をご存知ですか? 今や災害時の情報源としてSNSは欠かせないツールとなりましたが、フェイクや誤報の被害に遭うこともあります。
そこで、SNSの正しい使い方をまとめた行動指針が「だいふくあまい」なのです。

※「だいふく」は情報の確認の指針、「あまい」は行動の指針
だ(誰が言った?)い(いつ言った?)ふく(複数の人が言ってる?)
あ(安全を確認しよう)ま(間違った情報を発信しないで)い(位置情報を活用しよう)

防災意識をより浸透させるために

一つ提案があります。目黒巻(防災巻)を、子どもたちだけでなく保護者や地域の人たちを巻き込んで、共に学んでみてはどうでしょうか?
例えば、
「地域防災教育『防災巻』講座」「親子で作る『防災巻』教室」
などを企画してみてはどうでしょう?
小学生はまだ、家庭の保護者と一緒に過ごし、行動を共にする時間が長いです。例え子どもが防災教育によって正しい行動をしようとしても、保護者が理解していなければ仕方がありません。
さらに、保護者が所属している地域のコミュニティにまで訴求することで、災害時のイメージを広く共有化でき、連帯感が生まれます。それが、学校を核とした地域コミュニティを活性化させると思います。みんなが笑顔になります。

おわりに

夏休み、普段できないところに出かけてみると新しい発見があります。そして、それが2学期からの学校づくりに生かせたら、一石二鳥です。私は、今回ご紹介したような「自主研修夏の旅」がとても気に入っています。学びは、あちらこちらにあります。夏休みだから出かけることも可能です。あなたらしく笑顔で、のんびりしながら学び、学びながらのんびりしてください。

イラスト/坂齊諒一


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子どもたちの夏休み、魅力的にしていますか?【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #06】
保護者からの「いじめ」相談。どう対応する?【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #05】

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<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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