子どもたちの夏休み、魅力的にしていますか?

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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教師の夏休み特集:研修活用・自己研鑽・過ごし方のヒント
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

こんにちは。タバティです。皆さん、1学期、お疲れ様でした。これでひとまず、インターバルがおけますね。ゆっくり深呼吸をして休憩してください。たとえ勤務はあったとしても、授業や、子どもの姿がない学校は、日頃とは違う雰囲気でしょう。普段やりたくてもできないことをやれるときです。ご自分の時間として使える時間が多くなります。これからの日々を想起して、笑顔になってください。
そうそう。前回の記事での宿題「いじめの対義語は、なあに?」ですが、私が考える答えは「笑顔」です。いかがですか? 温かい笑い声が、いじめをなくし、子どもたちを元気にしていきます。
さあ、「レッツ スマイル 学校づくり」です。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #06

「夏休み」は魅力的になってますか?

さて、第4回の記事で、「夏休みの宿題をやめませんか」と提案しました。今回は、私の体験から少しその理由を深掘りしてみたいと思います。
「夏休み」という言葉には、人をワクワクさせる魅力がありますね。自由に解放される長期の休み、ということが感じられるからです。特に1か月以上休みになる子どもたちにとっては魅力的でしょう。
ところが現実的には、自由どころか「宿題」が重くのしかかっています。
皆さんは、夏休みの宿題をどう考え、どう対応されましたか?

自由な体験こそ夏休みの特権

夏の季節になると脳裏に浮かぶ小説の一場面があります。
ヘルマン・ヘッセ作「少年の日の思い出」の次の一節です。

今でも美しいチョウチョを見ると、折り折りあの熱情が身にしみて感じられる。そういう場合、ぼくはしばしのあいだ、子どもだけが感じることのできる、あのなんともいえぬ、むさぼるような、うっとりとした感じにおそわれる。少年のころ、はじめてキアゲハにしのびよった、あのとき味わった気持ちだ。また、そういった場合、ぼくはすぐに幼い日の無数の瞬間を思い浮かべるのだ。強くにおう乾いた荒野のやきつくような昼さがり、庭の中の涼しい朝、神秘的な森のはずれの夕方、ぼくはまるで宝をさがす人のように、網をもって待ちぶせていたものだ。そして美しいチョウを見つけると、特別に珍しいものでなくったってかまわない。日なたの花にとまって、色のついた羽を呼吸とともにあげさげしているのを見つけると、捕らえる喜びに生きもつまりそうになり、しだいにしのびよって、かがやいている色の斑点の一つ一つ、すきとおった羽の脈の一つ一つ、触覚の細いとび色の毛の一つ一つが見えてくると、その緊張と歓喜ときたら、なかった。そうした微妙な喜びと、激しい欲望の入りまじった気持ちは、その後、そうたびたび感じたことはなかった。

ヘルマン・ヘッセ 少年の日の思い出 高橋健二訳 「教科書名短編-少年時代」中央公論新社

この場面が、夏の少年時代の私の心情を的確に表現しています。
秋田県大館市で育った私は、小さいころから昆虫採集に夢中でした。
炎天下…と言っても、当時は最高で28℃くらいだったでしょうか。捕虫網と虫籠を持ち、ランニングシャツに短パンで、日がな一日シオカラトンボを追いかけ、時にオニヤンマやクロアゲハに出合うと、呼吸が止まるくらい興奮したことを覚えています。
体が火照れば近くに流れる川に飛び込んで冷まし、夏を満喫していました。
今では考えられないくらい長閑で自由でした。

こうして過ごした小学生時代の6年間、私は毎年「昆虫の標本」を制作して、理科の自由研究として出品していました。
低学年の頃は、お菓子の空箱などありあわせの標本箱でしたが、学年が上がるにつれ、見栄えを気にするようになりました。そこで建具屋を営む叔父に頼んで、木製の本格的な標本箱を作ってもらったこともあります。防腐処理をして、かさかさに乾燥したカブトムシ、クワガタ、シオカラトンボ、オニヤンマ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、アゲハチョウ、クロアゲハ…。一つ一つ、針を刺してきれいに並べていった昆虫たちは、そのほとんどがありふれたものでしたが、それは私にとって、大した問題ではありませんでした。
時間をかけて、緑の多い場所を何キロも、虫を求めて歩き回ります。
その感覚がたまらなく好きでした。
リンゴ園の中にはアブラゼミがいます。樹木が覆いかぶさって薄暗くなった木陰の下には、小さな湧水が流れており、ここはクロアゲハの通り道で、待っていれば必ず現れます。オレンジの大きな百合の花には、アゲハチョウがやってきます。
あちこち探し回る中で、自分なりに知恵を蓄え、そうして自分の手で捕まえたものには、何とも言えない愛おしさが感じられたのです。
この、好きなことを追求していく体験には、感情を揺さぶられるワクワクドキドキのドラマがありました。
しかし一方で、てんこ盛りの宿題がいつも頭の片隅から離れませんでした。
もし宿題が選択制だったり、総量がもっと少なかったりしたら、より多くの時間を大好きな昆虫採集の時間に使って、虫たちをゆっくりと追いかけまわし、標本づくりに夢中になれたのではないかと思うのです。それが、今でも勿体なく、とても残念に思うのです。

私の体験は、他人から見れば価値のないものかもしれません。時間の無駄と感じる人もいるでしょう。
しかし、私はこの思い出があるからこそ、ヘッセの作品に描かれた風景や作者の心情を、とても鮮明に脳裏に描くことができ、心の底から共感できました。
人生を生きていく上で、人と深く共感できること以上に、価値あることはあるでしょうか? そして共感する心は、実体験によってのみ培われるものだと思います。
あの頃、私の父母は、私のやりたいようにさせてくれていました。
遠くに旅行したり、特別な遊園地に行ったりすることも素敵ですが、私は好きなことをやれる時間がとても楽しかったのです。
私の心は、伸びやかに解放されていました。だから、ブルーの空も、大きな入道雲も、深緑の奥羽山脈も、透き通るような長木川も、乾いた白い砂利道も、全てが輝いて美しく見えていたのだと思います。
それが私にとっては、今貴重な財産、人間としての根っこになっていることを強く実感しています。

撮影/タバティ

大人の皆様へ

大人の皆様へ。特に、指導者の皆様へ。
子どもには、夏休みだからと言って別段特別なことをやらせなくても構わないと思います。ただ、「子どもの心をゆったりと解放して」ほしいのです。
普段できない、好きなことを夢中でやらせてください。子ども時代にどれだけ、豊かな時間が過ごせたか、自分で決めたこと(体験)ができたかによって、その後の人生が豊かになるかどうか、大きく影響するととらえています。
中学校からは、部活動が始まり、自分だけの時間が制約されます。人生の中で余裕をもって、ゆっくり考えたり、やりたいことができたりする期間は、小学校時代の夏休みだけといっても過言ではないのです。
本が好きな子どもには本を。物作りが好きな子には工作を。運動が好きな子には…、音楽が好きな子には…、やりたいことを徹底してやらせてほしいのです。
大人は、傍らで静かに見守ってやることが一番です。

皆さまも、心を解放して、笑顔で夏の時間を味わってください。教職はハードな感情労働です。この夏休みがあるからこそ、リフレッシュできるのです。ご自愛ください。

イラスト/坂齊諒一


前回記事はこちら
保護者からの「いじめ」相談。どう対応する?【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #05】

夏休みの宿題、やめませんか?! 【タバティのLet’sスマイル学校づくり #04】
夏休み前に、これだけはやろう【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #03】
教育は、今じゃない 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #02】
うまく回らないときこそ笑顔と対話で 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #01】

<プロフィール>
田畑栄一(タバティ)前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。


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