夏休みの宿題、やめませんか?!

連載
タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり

前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

小学生の夏休みの宿題って、意外と分量が多くありませんか? これじゃ、夏「休み」なのに、ちっとも休んじゃいられないような…。塾や習い事など、何かと忙しい子どもたちにとって、本当に必要なのでしょうか? そもそも夏休みの意義とは、一体なんなのでしょう?
今回は、10年の校長生活を経て、現在も様々な教育活動にチャレンジしているタバティと、そんな夏休み問題を考えてみませんか?

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #04

タバティこと田畑栄一です。暑いですね。
お元気ですか。大きな入道雲が現われ、天まで伸びるかのような向日葵の生命力が溢れる、とっておきの季節。夏休みがやってきます。学校での集団ルールから解放される夏休みは、「普段できないような冒険をし」、「あるいは、のんびり楽しむ時間」、そして「自分の良さを発見する機会」です。
そこには抑えきれないほどの「ワクワク感」が伴います。
先生たちも、夏休み休暇などを活用して、健康増進とリフレッシュができることと思います。感情労働者である教員は、心の休息、インターバルが必要です。研修もいいですが、まずは、ゆっくり休んでください。

こんなときどうしますか?

ところで、夏休みの子どもたちの「ワクワク感」の弊害になるのは、意外になかなか終わらない「学校からの宿題」なのではないかと捉えています。
夏休みは、子どもたちにとって、学校での集団活動をひととき忘れ、過ごし方を自由に選択できる時間です。空を眺めながら伸び伸びと心を開放し、「自分の良さを伸ばすこと」「自分が好きなこと」を追求できる時間です。
それなのに、どうして宿題で縛る必要があるのかなぁ? この夏、あなたは宿題を継続しますか? 減らしますか? やめますか?

そもそも宿題とは?

そもそも宿題は、量をこなすことではなく、「何か」ができるようになるためのものです。
なぜ、私が宿題のことを考えるようになったのか…それは、令和2年4月に異動したばかりのころ、つまり、新型コロナウイルス感染症が広がり始めたときです。保護者からの相談で最も多かったのが、「宿題を出してください。そうしないと遊んでばかりで…」という内容でした。
ハッとしました。
未知の恐怖で世界が混沌とする中、自分で考え、創意工夫して乗り越えることのできる子どもたちを育てていなかったことに気づかされたのです。ハンマーで脳天を叩かれたような思いでした。
これをきっかけに、翌年の令和3年4月には学校教育目標を「創造してたくましく生きる・自律・相互承認・表現」に変えました。
宿題について少し考えてみましょう。
学校がまだ教育のイニシアチブをとっていたころ…今から5、60年ほど前までは、学びのほとんどが学校を軸に動いていました。家庭に帰ってから何をすべきか、担任の先生が出す宿題が頼りにされていました。
しかし、時は流れ、子どもたちの放課後は大きく様変わりしました。塾での学び。習い事での学び。クラブでの学び。インターネットでの学び。学びの種類を子どもと家庭が選択できる時代になったのです。
にもかかわらず、いつまでも一律で「漢字ドリルを2ページやってきなさい」等、旧態依然とした宿題なのは、いかがなものでしょう。すでにマスターした子もいるかもしれません。他の習い事で、時間をかけられない子どももいるかもしれません。子どもや家庭のニーズから、どんどん乖離しているのではないでしょうか?
SNSで情報が飛び交う時代です。子どもが「なるほど」と納得できる効果的な宿題にしないと、不満が溜まっていきます。
多種多様な学びを寛容に承認することが、必要な時代になってきています。教育界は転換期を迎えていることは間違いないでしょう。
今は、せめて量的な価値観を取り払い、「できたら終了してよいです」といった、子ども自身が選択できる、質的な価値観を宿題に導入することが大事だと思います。

私はこれを踏まえて、令和4年度の夏休みには宿題の量を減らし、「子ども自身が、自分の適性に応じて選択できる方法」に切り替えました。それは例えば、こんなことです。

虫が好きな子は昆虫採集や観察。
自然が好きな子は星空観察。
調理が好きな子は料理創作。
裁縫が好きな子は洋服や手芸づくり。
絵が好きな子は絵画コンクールに挑戦。
読書が好きな子は、毎日の読書三昧。
文章を書くのが好きな子は、読書感想文や作文コンクールに挑戦。
体力をつけたい子は毎朝の運動。
タブレットのタイピングに挑戦。
ゲームが好きな子はプログラミングにチャレンジ。
塾や習い事への挑戦も自己選択で歓迎。
音楽の好きな子は音楽三昧。
車好きな子は、例えばSDGs対応の車について探究。
教育Youtuber“葉一(はいち)”さん の動画を見るのも、立派な学び。
心身が疲れている子はリフレッシュを兼ねてヨガ体操。
笑いが好きな子はネタづくり。
漫画家を目指す子は漫画製作。
親子でアウトドア体験。
家族で博物館見学。
親子で鉄道旅。

等あげれば切りがないです……。
自分の良さを発見できる時間、可能性を試す時間にしてほしいという思いからです。子ども時代に自分で決めて学んだり、思いっきり遊んだり、楽しく笑った子ほど、たくましく愉快に生きていけるのです。
保護者の願いもあると思いますので、保護者とお子さんで夏の計画を早めに相談しながら「ワクワク」を創り上げていくようなことも保証したいものです。

誰のためのコンクール作品

学校にはたくさんの作品コンクールの募集がきます。理科展、発明創意工夫展、読書感想文コンクール等…。そして、それらへの応募を、そのまま宿題にしている学校も、以前は多かったように思います。教育委員会など外部からの圧力? 同調圧力? もうやめませんか? 少なくとも、選択権は子どもに譲りましょう。
かつて勤務した学校でのことです。夏休み明けの9月、理科展が近づくと、学年から代表作品を1点出品するという暗黙のルールがあって、放課後に子どもたちと担任の先生たちが理科室へ集まり、共同で展示作品を作っていきます。
そして、子どもが帰った後、先生は見栄えをよくするために台紙に作品を張り付けたり、見出しを付けたりして心血を注ぎ込み、夜遅くまで時間をかけて展示用の作品を仕上げていきます。
それは、もはや先生たちの作品です。果たして、それは子どもたちの意欲や表現力を育てることに、つながっているのでしょうか? 見ていてつらくなりました。
「もう十分です。お疲れ様」としか言えない自分も情けなく、更に落ち込みました。
教育の本質からずれています。
皆さんにも、そんな経験はありませんか?

とっておきの夏休み プレゼン大会

宿題は、適性に応じて子ども自身が「選択」できる配慮をしてほしいと思います。
さる令和4年の2学期スタート時に、
「聞いてよ、聞いてよ! 夏休み、こんなことやったよ! ―私のとっておきの夏休み―」報告会
というイベントを、各クラス・学年で実施しました。
夏休みにやって面白かったことを、「とっておきの夏休み」として、言葉でのプレゼンテーションをはじめ、創り上げた作品を見せたり、ポスターセッションしたり、ロイロノートを活用したり、友達とコンビを組んだ教育漫才で披露したりと、気楽な形で報告をさせ合いたいと考えたからです。

2学期早々、1年生から6年生までが各クラスで、プレゼンテーション大会を行いました。一人一人が過ごした、「私だけのとっておきの夏」を紹介し、相互に認め合う関係を築いていきます。
そして後日、生活・総合的な学習の時間を横断的に使っての、大プレゼンテーション大会を開催しました。
1、2年生は、「とっておきの夏プレゼン大会」として合同で開催。子どもたち一人一人がプレゼン資料をロイロノートで作成し、友達の前で緊張しながらも発表しました。この経験が大切です! ロイロノートを気軽に使うための練習にもなります。

3~6年生は、学級でのプレゼン大会を経て、各クラスから選ばれた代表者2名ずつが体育館で「私のとっておきの夏」をプレゼンしました。予想以上の充実した内容に驚きました。とにかく「面白い!」「すごい!」「なるほど!」と感心しっぱなしでした。代表者は、ロイロノートを最大限に活用して、以下のような魅力的なテーマを堂々とプレゼンしてくれました。

3年生「家族と僕のとっておきの夏休み」
3年生「メダカ観察研究と夏休み」
4年生「僕の夏休み 倒立への挑戦」
4年生「夏休み頑張ったこと プログラミングと都道府県」
5年生「夏休み 家族とのとっておきの時間」
5年生「とっておきの時間 幼馴染との時間」
6年生「マリアナ海溝 最深部に落ちるとどうなる
6年生「夏休み、僕のカレー作り挑戦」

この日、お二人のお客様がお見えになりました。落語教育家の楽亭じゅげむさんと、お笑い芸人のかけるさん。教育漫才と、笑い溢れる学校づくりに興味をお持ちのお二人です。
じゅげむさんは、
「子どもたちは本当に聞く姿勢が素晴らしく、先生方が『今、話を聞こうね』と言わなくても、自分たちで『スッ』と聞く姿勢を整えていました。その姿勢には美しささえ感じます。
いろいろな学校で、笑いの教育を届ける身として思います。笑いの教育の力とは、誰かが『笑い』を披露するときのワクワク感で、自然と話に聞き入る姿勢になっていくこと。そして、人前に立つ側の気持ちを皆が共有しているので、拍手や笑い声も盛大になっていくこと。この小学校では、みんなが教育漫才で話者の側にも立つので、聞く側の姿勢が創られていくんだなぁという点に感動しました。
(中略)校長先生筆頭に、みんなの距離が近い。そして、その心が笑いでつながっていく。これが、『安心できる学校づくりだ』と感じ、心が震えました」
と感想を述べられました。

かけるさんは、
「まず何より驚いたのが、全員の拍手が素敵すぎる! プレゼンテーションが終わるたびに、『拍手』とか言わなくてもみんなが一斉に拍手をしていたのですが、『拍手にウマいヘタってあるんや?』って。心底、その音の大きさ、全員参加の状態に驚かされました。
(中略)きっと、全員が教育漫才を通して、自分も演者としてされて嬉しいこと、もらって嬉しいものを知っているからなのでしょう。
次に聞く力の高さ。これがですね。面白いことへの感度が高いからこそなせる技です。誰かが前で話を始めたときにスッ…と静かになる。それまで私語をしていた人も話をやめるし、すっと前を注目する。聞き逃さないからこそ、無駄な時間が減る。そして、こちらが問いかけると、手がぱぱぱぱーっと挙がり、参加したい子がたくさん! 面白いことを考えることが好きな子もたくさんでした」
と。

お二人とも、子どもたちが生き生きしている姿をほめてくださいました。
夏休み明けは、生活リズムが立て直せず、宿題が終わらず、マイナスな人間関係を引きずったりして、なんとなく憂鬱な雰囲気が漂っているというのが、多くの小学校で見かける風景なのではないでしょうか。それが一切ないのです。自分で好きなことをやり切った夏休み。それを仲間と、表現し合う喜びに満ちています。温かいのです。

おわりに

日本財団が令和元年11月に発表した第20回18歳の意識調査で、「自分を大人だと思う」等の重要質問6項目において、日本は参加9か国中最下位でした。教育界は大慌てです。このままじゃまずいと気付き始めたのです。
子どもたちの自己肯定感を高める教育が求められています。これはもちろん、急に変えることはできませんが、自分で決めて取り組んだ体験や、探究したことを表現することが自信となり、自己肯定感が少しずつ醸成されていくのだと思います。自己決定の経験が多ければ多いほど自己肯定感が育つのです。
私たちが教員研修で追い立てられる、わが身に置き換えてみれば、子どもの気持ちや、保護者の気持ちが容易に想像できるはずです。
さて、あなたは、今年子どもたちの夏休みの宿題をどうしますか?


落語教育家の楽亭じゅげむさん・お笑い芸人のかけるさんたちが活躍する、一般社団法人Laughter

イラスト/坂齊諒一


前回記事はこちら
夏休み前に、これだけはやろう【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #03】
教育は、今じゃない 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #02】
うまく回らないときこそ笑顔と対話で 【タバティのLet’sスマイル 学校づくり #01】

<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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