うまく回らないときこそ笑顔と対話で

連載
タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり

前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

国語科教員として長年指導に携わり、10年間は校長職として学校経営に取り組んできた田畑栄一氏。とくに笑いのエッセンスを取り入れた「教育漫才」はテレビでも多数取り上げられましたので、ご存じの皆さんも多いかと思います。公務員としての任期を満了した現在も、講演や研修など様々な形で教育活動を精力的に行っている同氏が、学校づくりや教員生活へのヒントをご提供します。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #01

はじめに

こんにちは、タバティです。お元気ですか?
みなさん、新年度が始まってから2か月強が経ちました。学校の雰囲気はいかがですか?
集団で活動する学年行事や学校行事もあり、さらに蒸し暑い梅雨の季節に入り、何となく落ち着かない雰囲気になっている、というのが大方の学校の様子ではないかと思います。

笑顔は人を招く上機嫌の印

そしてこの時期、トラブルや悩みも多くなってくると思います。教員も子どもたちも、次第に環境に慣れてきて、「素の自分」が出始めるからです。それは歓迎すべきことではあるのですが、「素の自分」が出ることで衝突などが起きやすくなるため、学校経営もなかなかうまく回らないなぁ、と感じることも多くなるのではないでしょうか。
悩みが増えたとき、自信を失い、気持ちが沈みがちになります。そんなとき、あなたならモチベーションをどう保ちますか?

「うまく回らないときこそ笑顔と対話」です。

タバティの自称「最高の笑顔」

私の毎朝のルーティーンは、鏡で笑顔を確認するところから始まります。苦虫をかみつぶした顔になっていないか意識しています。悩みを抱えると下を向いて思考し始め、結果、苦虫になっていることが意外とあるからです。
これでは、誰も話しかけられません。そんなオーラが出ます。これはまずいです!
そこで、鏡の前で最高の笑顔をつくるのです。笑顔こそ人を招く上機嫌の印だからです。
朝出勤して、職員室に入る挨拶から始めます。もちろん、校門での挨拶も、上機嫌の笑顔で手を大きく振って、子どもたちを迎え入れます。笑顔こそ心理的安全性を生み、頑張ろうという学校全体のモチベーション土壌を育てるからです。そして、私自身も笑い返してくれる子どもたちから元気のエネルギーをもらっています。笑顔は学校に幸運を招くのです。

オツベルから学ぶ

宮沢賢治の「オツベルと象」という物語があります。オツベルは会社の経営者で、白象は新しくやってきた労働者です。オツベルは白象の特性を見出し、言葉巧みに使役します。働くことが大好きな白象は、言われたとおり誠実に働きます。しかし、やり手のオツベルはより大きな利益だけを追求するようになり、ひたすらこき使われた白象は気力も体力も落ちていきます。
そして、とうとう白象は、手紙で助けを求めます。その手紙を見た仲間の象たちは、団結して屋敷を襲います。巻き添えになりたくない他の雇われ人たちはいち早く白旗を揚げ、結果オツベルは一人で戦い、「ぺしゃんこ」にされてしまいます。
そして…。

「牢はどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん痩せて小屋を出た。
「まあ、よかったねやせたねえ。」みんなはしずかにそばにより、鎖と銅をはずしてやった。
「ああ、ありがとう。ほんとにぼくは助かったよ。」白象はさびしくわらってそう云った。

新編 銀河鉄道の夜 新潮社/1989年

と、物語は幕を下ろします。
友愛にあふれた仲間たちを前に、白象が寂しく笑ったのはなぜでしょう?
白象は、ただ助けてほしかっただけなのに、憤った仲間たちがオツベルの命までも奪ってしまった、という想定外の悲劇があったことは確かです。
それと同時に、愛していた仕事ができなくなったこと。そして、本当は頑張りを評価してもらいたかったのに、ただ自分は利用されただけだった、という悲しみも、白象の心にあったのではないでしょうか。
能天気なわたしは、もしもオツベルがいつも笑顔で白象を労(いたわ)っていたら、温かい対話を心がけていたら、物語はハッピー・エンドになっていただろうなあと想像してしまいます。

あなたもオツベルにならないように、様々な機会に教職員を温かい言葉で労(ねぎら)い、丁寧に対話を心がけることです。
教職員の働く喜びに相槌を打ち、うまくいかないことの悩みを傾聴し、共感しながら「ありがとう。おかげさま」と笑顔で労い、「大丈夫か。一緒にやろう」と支援の言葉を伝え、「そうなんだ。どうしたいの?」と承認し自己選択をさせる温かい対話を真摯に積み重ねることです。
すると、教職員たちは気持ちの上で安全性が担保され余裕が生まれ、子どもの前で笑顔になることができます。笑顔の先生の前で、子どもたちは安心して学ぶことができるのです。学校全体の学びのモチベーション土壌は、温かい笑顔と対話から生まれます。

ただ一方的に学校経営の理念を熱く語り、具体策を示して、
「これでうまくいくかも…!」
なんて思っても、そうは問屋が卸しません。
教職員にはそれぞれに思い描く教育論があり、子どもたち一人一人にも期待する先生像があり、保護者一人一人にも我が子を思う理想の学校像、地域の人たちにもそれぞれの「おらが学校像」があるからです。
語った言葉たちが浸透するには、相当の時間と行動が必要です。したがって、うまく回らなくても決して焦らないことです。

おわりに

最前線で頑張っているのは教職員たち、そして子どもたちです。うまく回っているときは、任せておいていいのです。困っているときに、話してみようかなあという雰囲気をつくっておくことが大事です。
そのためには、挨拶しやすい、話しやすい、相談しやすい上機嫌なあなたでいることです。それは、あなたの表情、つまり笑顔として表れます。
一人一人が、笑顔でいられる上機嫌な学校づくりは、実はあなたの笑顔と対話から始まるのです。
日頃から教職員や子どもたちから声をかけられるようになったら、校長室に遊びに来るようになったら、温かい笑顔あふれる学校に変容していきます。笑顔と対話こそが学校づくりの極意なのです。
さあ、レッツ! スマイル! でいきましょう。

イラスト/坂齊諒一


<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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