夏休み、学校経営を振り返ってみましょう。居心地の良い職員室を作れてますか?

連載
タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり

前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

こんにちは。各地では猛暑、真夏日という言葉がテレビニュースから聞こえてきていますね。この季節の変化に体や気持ちはついていっていますか。まずは、ご自身の体調管理をしっかり行ってください。
夏休みを目前にして、ある新任教諭の悲しいニュースが報じられました。これはすべての管理職が正対すべき問題です。ぜひあなたも、新年度からここまでの学校経営を振り返ってみましょう。職員室の雰囲気づくりは、いかがでしたか?

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #23

イメージ写真

あなたの職場は大丈夫ですか?

2024年6月、こんなニュースが流れてきました。まだこんなことがあるのかと驚きました。
2019年に福岡県春日市で市立小学校の当時24歳だった新任教諭が自殺し、2021年に『公務災害』に認められていたそうです。2019年9月、春日市の市立小学校に勤めていた当時24歳の男性教諭が放課後に教室で首を吊った状態で見つかり、亡くなりました。
男性は2019年4月に採用されたばかりの新任教諭で、私物の中から遺書が見つかりました。
この男性の自殺については、『公務災害』が認定されていました。
調査によると、

▼時間外勤務が2か月連続で120時間を超えていた(4か月の平均でも100時間超)。
▼先輩教諭からの高圧的ともとれる厳しい叱責・指導を繰り返し受けていた。

と指摘されていて、『精神疾患を発症し自殺に至った』としています。
遺族は春日市と福岡県に賠償を求める訴えを福岡地方裁判所に起こす方針で、遺族は
『事実を認めて謝罪してほしい。こんな思いをする人は最後にしてほしい』
と話しているそうです。(NHK NEWS WEB 6月18日および朝日新聞DIGITAL6月18日の記事より引用)

慙愧に堪えないニュースです。
第一に、なぜ5年前の事件が今まで明るみに出なかったのでしょう。
そして第二に、24歳の若者が、わずか半年間の現場経験で自殺するまで追い詰められてしまう。そんな職場とは一体何なのでしょう。
子どもたちの未来を育むべき神聖なる場で、1人の教員が、自らの未来を自らの手で絶ってしまうとは。その心情を思うと胸が苦しくなります。子どもたちや親御さんの悲しみはいかばかりか。お悔やみを申し上げます。
そして、同じように悩んでいる教職員は、全国にたくさんいるのだろうなあと想像ができます。
あなたの職場は、大丈夫ですか。このような事態は2度と起こしてはならないし、管理職として真っ先に手を付けて改善すべき最重要課題です。

勤務時間外勤務状況の把握と寄り添う姿勢

この若き教員が置かれていた、大変に長い期間で100時間を超える残業、という労働環境では、疲労が蓄積され、冷静な判断ができなくなっていたことは明白です。
ここで気になるのは、管理職はこの時間外勤務の実態を把握していたのか、ということです。
まず、異常な勤務状態を認識し、何らかの働きかけをしていたら、このような事態は避けられたのではないかと思います。
多くの学校では、教職員たちの時間外勤務がデータ化されていると思います。
今一度、4月からのデータを見て、80時間を超えて残業している教職員がいたら、即面談してください。
そして、健康状態や分掌業務などで負担になっていること、悩んでいる事案等を対話の中で見付けていきましょう。
この対話でどれだけ相手が心の内を見せてくれるかは、管理職自らが相談しやすい関係性を日頃から作り上げておくことがポイントです。日々、笑顔で挨拶と労いを繰り返すことです。
問題解決に客観性をもたせるため、面談は管理職2人で行うことが望ましいと思います。
しかし、2対1の面談にプレッシャーを感じる人もいるかもしれません。管理職側は、傾聴と相手の状況に寄り添う姿勢を忘れないでください。
そして、対話の中で悩み事が特定でき、その場で解決できる内容であれば、本人の意向を踏まえながら解決案を管理職として示します。
例えば、負担になっている業務を他の教職員に割り振ったり、配置換えをしたり、学級の悩みなら教室にサポートに入ったり、保護者対応で困っていたりするなら管理職が引き受ける、などです。
ときに英断が必要になるかもしれませんが、管理職が前向きに取り組んでくれるという事実こそが大事です。必ず具体的な解決策につなげてください。
人は誰でも、悩み事を口にして共感を示されれば、心が少し軽くなって気持ちの整理ができます。そして、それで良しとする人も少なからずいます。
しかし、解決への道筋が見えないままでは、またしばらくすると負担感が増していきます。
決して先伸ばしして相談事を流さないことです。手遅れにならないよう対策を実行することが重要です。

職員室の人間関係は大丈夫?

「先輩教諭からの高圧的ともとれる厳しい叱責・指導を繰り返し受けていた」。
この「とれる」という表現からして、恐らく先輩教諭には高圧的な厳しい叱責・指導を繰り返していた自覚はなかったと思います。本人は良かれと思って、できていないところを指摘し、改善する方法や励ましをしていたのではないでしょうか。
しかしこのような結果となってしまい、本人も驚き、後悔と自責の念に悩まれていると思います。
いじめ防止対策推進法には、いじめとは「当該児童等と一定の人間関係のある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」とあります。
この法にのっとって考えれば、今回は『いじめ』から引き起こされた事件である、としか言いようがありません。

「職員室の白いテーブル」

こんな話を聞いたことがあります。
「ある学校では、職員室の中央に白いテーブルを置き、そこを団欒スペースとして使っていました。
教職員たちは仕事の合間にこのテーブルでお茶を飲みながら、日々の業務で困っていることや気になる生徒のことについて話し合っていました。
しかし、人事異動で新しくやってきた校長は、効率を重視するあまりこのスペースが無駄だと考え、白いテーブルを撤去しました。
その結果、教職員同士のコミュニケーションが減少し、風通しの悪い状態になりました。特に新任の先生にとっては、気軽に相談できる相手がいなくなってしまったことが問題となりました。
これまで初期に対応できていたいじめや不登校などの問題が、大きな問題になってからしか対応できなくなるなど、教育の質の低下につながりました」。
何気ない日常の会話から培われる人間関係。コミュニケーションの価値がここにあります。
教育は人を育てる仕事です。この「人」を子どもだけに絞るなら、職員室に白いテーブルは要らない、と考える人もいるでしょう。しかし、子どもを育てるのは、職員室にいる一人一人の教職員なのだと捉える管理職は、この白いテーブルのもつ価値を見抜いていたのです。

職員室には笑顔がありますか?

この春日市の小学校の職員室には、笑顔や笑い声があったのだろうかと考えてしまいます。職員室は温かい関係性が営まれる場です。例えば、

ホッと心穏やかに過ごせる場
子どもの良さを語り合える場
教材研究や授業準備が相談できる場
分掌業務を相談できる場
悩みを相談できる場
トラブルを相談できる場

こんな場なら、対話や会話が自然とわき上がり、笑顔や笑い声で溢れます。しかし、高圧的な指導や叱責があったら、職員室は針の筵です。笑い声を出せない抑圧された空間になってしまいます。こんな職員室で毎日過ごしていたら、教室で子どもの前に余裕をもって笑顔で立ち、授業ができなくなります。心理的安全性がみんなの笑顔を引き出すのです。
「笑顔は伝染する」という言葉があります。1人が笑うと3人が笑う。3人が笑うと9人が笑う。9人が笑うと27人が笑うという、3倍の連鎖が起きると言うことです。笑顔があっという間に集団に伝染し、広がっていくのです。楽しい職場になっていきます。
職員室には笑顔が大切です。時代は、働き改革で時間外勤務の短縮化に焦点化され、改善が図られてきています。しかし、働き改革のもう1つの大事な視点は、職場が笑顔で安心して居られる場であるかどうかです。ただ効率を優先する狭窄的な視点になると、温かい人間関係はできにくくなります。

職員室の笑顔が増える関係性づくり

居心地が良い職員室は、関係性をつなぐことがポイントです。5点の対策方法を紹介します。
①「1on1ミーティング」
管理職と教職員が定期的に話し合うことで進捗の把握やサポートを提供する方法です。自己評価シート面談などで活用される方法です。この際、配慮すべきは、笑顔で面談を行うことです。日頃の労いを行い、相手の良いところを3つ褒め、課題の指摘は1つにすることです。心理的安全性が担保されないと、かえって面談がマイナスに働きます。
②「メンター制度」
経験豊富な先輩教職員が後輩教職員に支援を行い、知識やスキルの伝達を促進することが目的です。ここで配慮しなくてはならないことは、後輩教職員の心を軽くしてあげることです。その心に寄り添う姿勢が大事です。悩みを共有しても安心できる関係性を保ち、解決に向けて共に動くことです。そして、最終的には自走できるようにサポートすることが大切です。若者の未来をつくる大切な仕事です。高飛車な態度では絶対に務まらない役割だと自覚する必要があります。
③「フリーアドレス制」
職員室の固定席をなくし、自由に座席を選べるようにすることで、異なる学年の人との交流を促進します。ある小学校では、管理職の机をなくしてしまいました。そこでは教頭先生がPCを抱えて空いている机を渡り歩き、職務をしているそうです。教職員は相談がしやすく、何気ない対話を楽しむことができます。温かいつながりが生まれると感じました。話のできる環境にいてこそ、安心して子どもたちの前に立つことができるのだろうと思います。
④「フリー時間の活用」
非公式な交流の場を設けることで、教職員間の親睦を深めることがねらいです。しばらくコロナ禍でできなかった「飲みニケーション」「コーヒー・ブレイク」で四方山話に花を咲かせてストレス解消するのも、いいかもしれませんね。
⑤「研修会・ワークショップ実施」
教職員のスキルアップやチームビルディングを目的としたイベントを通じて、コミュニケーションを促進します。ここで私がおすすめしたいのが、「教職員教育漫才大会」です。

教職員教育漫才大会

実際に教職員研修の一環で教育漫才研修を実施した小学校から感想をいただきましたので、紹介します。

最初に校長先生のメッセージから。
「大人漫才のテーマは『みんなで笑って、ストレス解消。そして、ますます仲良くなる!』です。
大人の実演に抱腹絶倒! さすが大阪人! 大人がやってみること! 大人が体感することで子どもの気持ちになることができます。笑いの殿堂! ここ大阪から、笑いで学校を変えましょう!『笑う学校には福来る』です」。

次に参加された教職員の皆さんの一部感想コメントを紹介します。

Aさん「教育の中で漫才を取り入れるなど、思ってもみなかったことなのですごく新鮮な感じがした。教育漫才を考えることは難しかったが、くじで決めたペアでお互いのことを知れたり、話が膨らんだりすることは良いなあと感じました。温かい笑いを生むことが場の雰囲気を変えるのだと感じた。盛り上げるスキルを学んでいきたい」
Bさん「子どもが温かい空気で過ごすためには、大人同士が繋がり、温かい空間にしなければならないと思いました。子どもたちにも、教育漫才を通して、笑いを良い空気に変えて人と人を繋ぎたいと思いました」
Cさん「教育漫才をすることに少し戸惑いはあったけど、失敗してもいい、という空気があって、よかった。教職員と考え、実践してみたい」
Dさん「一緒に教育漫才をすることで、相手のことをより知ることができたのがとてもよかったです。ネタを作る上で質問したり、自分の話をしたりするので仲良くなれた気がします。教育漫才をクラスでも試してみたいと思いました。今回いただいた教育漫才の型があれば、子どもたちも作りやすそうです」
Eさん「大きな不安もありましたが、実際にやってみると、お互いのことを以前よりも知る機会になったと思います。教育漫才を教室で行うことで子ども同士の理解が深まっていくのかなと思いました」
Fさん「人を楽しく笑わせるのは楽しいですね。子どもたちと接するときにも笑いを交えて関わっていきたいです」
Gさん「教育漫才のことは何も知らなかったので、指導者が面白おかしく何かをするスキルだと思っていたのですが、子どもたちにさせることを知りました。是非、子どもたちにやらせてみたいです。お互いのことが分かる。話し合う。練習を通して絆が深まる……たくさんの効果があると思いました」
Hさん「みんなが作り手であり、聞き手になったので、作る難しさも分かり、どんなふうに聞いてもらえたら嬉しいかも分かるようになるのだと思いました。初めてお会いした人とペアになりましたが、笑いを通してお互いのことが知れてよかったです。3段落ちの型がシンプルなので、子どもともやってみたいなと思いました」
Iさん「子どもたちの言葉が乱暴だなあ~、どうかしたいなあ~、と思っていたので、ぜひやってみようと思います」
Jさん「教育漫才をして、コンビのお互いのことが知れ、他のコンビのことも知れて楽しかったです。『温かい笑いの中』で、というのが一番よかったと思います」

皆さんに笑いの価値を伝えることができて、嬉しかったです。
当該校の校長先生は、教職員で教育漫才を体験して、教職員を明るく元気にしたいと語ってらっしゃいました。本当に教職員たちを大事にされています。この姿勢が、子どもたちをも笑顔にしていくことが容易に想像できます。私の心もポカポカです。

おわりに

教育は人を育てる仕事です。子ども優先で考え、学校経営をする管理職がほとんどでしょう。しかし、子どもを日々慈しみ育むのは教職員たちです。
その教職員が集う「職員室の温かい関係性」が一人一人の心に、教職員としてふさわしい心の豊かさを育みます。
教室マルトリートメント(虐待)という概念が広がるにつれ、教員の教室内での言動が、いかに子どもたちに影響しているかが可視化されてきました。
それと同時に職員室も同じように「職員室マルトリートメント」が行われていることを、今回の事件で改めて認識しました。この悲しい事件から学び、「笑顔溢れる職員室」に転換していかなくてはなりません。遺族の「事実を認めて謝罪してほしい。こんな思いをする人は最後にしてほしい」という言葉を私たちは真摯に受け止め、職員室を温かい場所に変えていくことが良き教育活動に直結していることを自覚し、居心地の良い職員室づくりに取り組んでいきましょう。


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田畑栄一

<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。


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