来期の教育課程に、導入を検討してみませんか? 個別最適な学び『自由進度学習』

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

3月は、来る新年度に向けて、様々な視点から次年度の計画を作成するための追い込みの時期と思います。皆さんは何を重点に置いて教育課程を編成しますか? 私が特に力点を置いてきたのが「授業改善」です。授業改善を組織全体で取り組むことによって、教員たちが変わり、子どもたちも生き生きし、学校全体に勢いが生まれるからです。このなかでも昨今注目を集めている、個別最適な学び『自由進度学習』の導入について少し考えてみましょう。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #19

楽しそうに勉強している子どもたち

子どもたちも教職員も楽しい取組を

授業改善で大切なこと。それは、子どもたち一人一人が「勉強が楽しく」「学習にしっかり参加でき」、結果「笑顔になる」ような取組であるということです。
ただ、管理職自身で授業を行うことはありませんから、教職員のモチベーションを上げ、皆が同じ方向を見つめて取り組んでいく必要があります。
教職員自身も、「面白い」「自分のものにしてみたい」「子どもが乗ってきた」と思える授業改善でありたいものです。
そのためには、まず教職員間で目指す授業づくりに向けて議論や雑談をすることです。本音を言える場を確保することが、教職員のモチベーションアップにとって重要ポイントです。管理職は細かいところまであれこれ口出しせず、校長・教頭・教務の三役で、温かく見守るような構えでいましょう。

個別最適な学び ─自由進度学習─

さて、授業改善という問題において、よく会議や雑談で話題になるのが、「算数学習における理解度の差や、つまずきポイント」のことです。算数は子どもたちの間で、最も理解に開きが生じる教科の一つです。この課題を何とかしたいとよく話題に上がります。
令和3年1月26日、文部科学省から出された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと, 協働的な学びの実現~(答申)」は大きなきっかけでした。この提言は特別な支援を必要とする子どもたちを含め、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実や創造性を育む学びの実現を目指した提言でした。これからの時代を見越した内容で全くもって共感しました。
本校では「協働的な学び」は「意見をつなぐ学び合い」としてすでに実践しており、そこに「個別最適な学び」を子どもの実態から求めていた時でした。「個別最適な学び」と「協働的な学び」が行き来する複線型の学び合いを目指していたのです。
GIGAスクール構想によって、全児童にタブレット端末が配られたのも大きな後押しでした。                                     GIGAスクール構想の良さは、タブレット端末で教室の全員がクラウドを活用できることです。その特徴は、
①作業している途中で教員も子どもも全員の思考途中を共有できる点
②後から追加や修正が簡単にできる点
③追加や修正の記録が簡単に残る点

ということです。特に注目すべきが、作業している途中で、教員が子ども一人一人の進度やつまずきを把握できることです。これまでは学級35人の子どもたちの学習進度を把握することが大きな課題でした。しかし、このクラウドを活用することで、子どもたちの学習進度の状況が一目瞭然になり、的確な支援ができるようになったのです。さらに設定によっては、途中経過の段階でも子ども同士も共有化できるのです。クローズドな学習過程がオープン学習になり、新しい時代の幕開けを感じました。ここに自由進度学習の授業が効果的にできる可能性を強く感じたのです。

フロントランナーを探せ

環境は整いました。方針も決まりました。後は、これを実行していくための具体的なプランづくりです。
そのためには、フロントランナー(先行実践者)から具体的な事例を学ぶことが最も重要です。知己を得ている様々な実践家に紹介してもらったり、SNSで呼びかけたり、あるいは直接伺うなどして候補を探しました。
そして、神奈川県愛川町立半原小学校に協力を得られることとなり、教務と一緒に参観することにしたのです。
「自由進度学習」というと算数のイメージですが、半原小では、国語、社会、理科などの教科でも取り組んでいました。廊下で1人黙々と取り組んでいる子どももいれば、グループで協働しながら課題に取り組んでいる子どもたちもいます。立ち歩きも自由です。この自由闊達な子どもたちの姿に微笑んでしまいました。
算数では、以下のような3年生の授業が非常に参考になりました。
それぞれの子どもたちは、Chromebookを前に置いています。

①担任のU先生から今日の課題である「かけ算 3けた×2けた」について説明がありました。スクリーンにスライドが映し出されて、全体で今日のねらいと流れが共有化されます。
②子どもたち一人一人は、U先生の今日のねらいに「個人目標」を追加していきます。<ここまでで5分>
③子どもたちのPCには、U先生が準備した教材「解き方のモデル⇒基礎問題・解き方・解答⇒応用問題」があります。
④解き方が分からなくなったら、いつでも既習学習に戻って確認でき、答え合わせで間違えると、アプリがつまずいた箇所まで誘導して復習できるようになっています。
⑤自席でPCと向き合っている子がいます。教卓で立って学んでいる子もいます。車座になって床に座り、学んでいる子どもたちもいます。また、近隣の空き教室に移動する子どもたちもいます。そこには1人学び、2人学び、3人学びがあり、学びの自由選択があります。
⑥U先生は、協働学習ツールのスクールタクト(schoolTakt)を活用し、子どもたち一人一人の学習状況を把握して、困っている子の支援に素早く動いています(これが最大のメリットです)。<ここまでで30分>
⑦授業終了の10分前には教室の自席に戻り、ふり返りを打ち込み始めます。
⑧U先生から「今日の取組過程」と「次時の学習予定」についての説明があって終わりました。(10分)

子どもたち一人一人が、今日の授業でやるべきことを理解しており、それぞれのやり方で能動的に取り組んでいました。その要点は次の5つにまとめることができると思います。

①先生と子どもたちの信頼関係が構築されていることが不可欠であること。
②先生が、子どもたちが自走できるように単元計画と教材を準備していること。
③「自由進度」だが、適宜先生が修正しつつ、子どもたちと学び合っていること。
④自分のペースで自由に学ぶスタイルを、子どもたちが理解し、納得していること。
⑤デジタルツールを駆使し、先生が子どもたち個々人への目配りを欠かしていないこと。適切な支援を即座に行っていること。

この先行実践を学べたことで、私の学校での導入に向けて勢いが出ました。教育課程編成委員会や、研修会を通して、教務は視察についての報告と効果を、動画に編集して説明してくれました。
新しい指導法を導入しようとする時には、一気に全校で取り組む方法と、1学年ずつ小規模で始める方法がありますが、今回は4年生の算数に焦点化し、果たして一人一人を伸ばすことができるか、まずは1年かけて効果をつかんでいこうということにしました。
4年生の2クラスの担任2名に加え、少人数指導担当1名の計3名を、4年生の算数指導に当てました。こうして、わが校における自由進度学習の「フロントランナー」が走り出したのです。

本校の自由進度学習の実際

次が、本校の基本的な自由進度学習の流れです。 

①導入は10分で、本時のねらい、内容を指導。
②タブレット端末に個人目標を記入して、ロイロノートに送信。
③本時の学習内容を全員でチェック(ここまでは教員の主導で進む)。
④展開は20~25分。3名の教員は各教室や空き教室に分かれて、個別に支援、指導、質疑応答。
⑤最後の10分で、本時のふり返りとまとめを行い、ロイロノートへ送信。

この流れを基軸にして、3名の教員で話し合い、修正を繰り返しながら1年間取り組んでいきました。
そして、実施した研修主任が1年後にまとめた成果を次に示します。

算数が好きになり、楽しみにする子どもが増えた。
将来の自主学習や受験勉強に向けて、自分なりの学習スタイルが見付かった。
家庭学習でも自由進度学習の方法を活用して勉強できるようになった。
自分の勉強法がうまくいき、意欲の向上が見られ、勉強が好きになった。
他教科でも転用できた。例えば、理科など。
担任不在でもプリントなどがあれば、自習として集中して実施できた。
この学習スタイルが学校での学びの方法として確立してきた。
情緒面での安定がほぼ全員に見られた。
日数が経つほど効果が上がった。自主性が高まるほど、効果も高まる傾向が見て取れた。
子どもによっては1時間で20枚以上のプリントを解けるようになるなど、大幅な点数アップが見られた。算数が苦手だった子も、有意的に解ける数枚が増えた。

この1年間の積み重ねの結果、教員たちは自らも「自由進度学習」で算数を実践したいという学びの意欲が湧き上がったようで、令和5年度からは3年生から6年生の全学級・全学年が「自由進度学習」に取り組んでいます。

おわりに

新しい教育課程をつくろうとする時や、特色ある教育をつくり出そうとする時、現状維持派と改革派に分かれての議論が、よく起こります。そして紛糾することも、しばしばではないかと思います。
管理職はこれからやってくる時代を見据え、子どもたちの現状を分析し、どんな力が求められるかを三役で共有しながら、いかに腹落ちさせるかが大事なポイントになってきます。
そのためには、管理職自らが新しい情報を集めること、アンテナの感度を高くすることが大事です。
また、他者から率先して学びを得ることも大切です。
こうした管理職の姿が、提案の本気度と説得力を高め、教職員全員に熱量が伝わっていきます。そして仲間も増えていきます。今回の私の取組では、この熱量を受け止めてくれた教務が強く賛同してくれ、教職員の合意形成に一役買ってくれました。
是非、皆さんの学校も新しい時代に応じた授業改善をつくり出してください。応援しています。

イラスト/坂齊諒一


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田畑栄一

<プロフィール>
前埼玉県公立小学校校長。
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)、『クラスが笑いに包まれる! 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)、『学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校国語科講師/一般社団法人「Lauqhter(ラクター)」教育コンサルタント/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティーなど。
最新の教育活動についてはこちら(他サイトが開きます)。


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