新学期に増える不登校・登校渋りは、管理職が先頭に立って対応しよう

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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

夏休みが終わってからの時期は、長引く暑さから体調を崩したり、先生や友達との関係が上手くいかなかったりして、登校渋りや教室渋りが起きやすい時期でもあります。そういったときにあなたはどうしますか。今回のテーマは、「登校渋りが起きた時、どう対応するか」を考えてみたいと思います。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #10

不登校・登校渋り・教室渋りを「組織で役割を分散化」して対応

最初に赴任した小学校で衝撃的に驚いたのは、登校渋りや教室に行けない子どもたちが2桁に届くほどいたことです。それまで中学校勤務が長かった私にとって初めての小学校です。
「小学校の段階から『教室に行きたくない』とは、よほどのことでは?」と、正直驚きました。
そこで着任早々、不登校・登校渋りや、障害を持っていて配慮を必要とする子どもの保護者に自ら電話をし、二者面談を開始したのです。
10組以上の保護者それぞれ個別に時間を取り、それぞれの事情や思いを傾聴しました。4月いっぱいかかりました。そして、この面談によって、学校の課題や保護者の本音が明らかとなり、学校経営方針の柱、つまり、本校が今後進むべき道が見えてきました。

私は、いじめと不登校対応は、何を置いても手を付けるべき、校長の最優先事項だと考えています。
「学校の主人公」である子どもが、自らその主役の舞台から去ろうとしているのです。よほどの理由がなければ、そうはならないでしょう。
ですから、この事実を知ったら、真っ先に管理職が、その子どもと保護者のもとに駆けつけるべきです。
ここで最も配慮すべきこと。それは、子どもを無理やり登校させることではありません。まずは保護者と相談し、子ども本人の意向を確実に把握して、本人自らが選択・自己決定することを尊重します。

「学校には行くべきもの」というのが、子どもや保護者にとっては当たり前の概念だと思います。
しかしそんな概念より、あなたの心や身体のほうが大事です。それを守るためなら、学校に来なくてもいいんですよ、と伝える説得力を誰よりも持ち、親子が安心してその言葉を受け止められる人は、管理職をおいて他にはありません。
また、担任は授業や分掌業務があり、実際家庭と連絡を取ることができるのは授業終了以降の夕方になります。小学校担任は基本的に全教科を受けもち、学級事務等を一人で行なわなければならないため、拘束時間が長くて空き時間もほとんどないのが現状です。不登校・登校渋りの対応までするのは、あまりに心理的負担が大きいのではないでしょうか。
子どもや保護者への対応は、真っ先に管理職が行うこととし、それ以後の対応については担任や担当だけでなく、学校全体で「組織で役割を分散化」し、様々な人が様々な立場で「少しずつ関わる」ようにしました。
これで職員一人一人の負担感が減るとともに、問題を共有して解決していく「チーム学校」という連帯感が生まれ、皆の心に余裕が生まれます。
この職員室の環境の変化が、てきめんに学校全体へと及んでいきました。不登校・登校渋りが、どんどん減少していったのです。
本校での教育相談は、午前中は担任以外の「職員室チーム」、午後は「担任チーム」という、二段階方式で動きます。下記に紹介する事例は、事実に基づきながらのフィクションです。

いじめから登校渋りに

6年生女子のAさん。6月頃から、学級の女子との関係でトラブルが起き、何度か欠席や遅刻をすることがありました。担任や学年担当が、解決に向けた子ども同士の話し合いの場を作り、関係修復の兆しが見えたところで1学期が終了しました。

ところが夏休みに入ったとたん、保護者からの入電で「女子4人からLINEでひどい言葉を浴びせられたり、Aぬきでクラスの子たちが楽しそうにしている写真が送られて来たりした。本人はもう学校に行かないと言っている……」と相談があったのです。

実は夏休み前に、SNSやネットにおける情報モラルを教える教室も行っていました。その直後であったにも関わらず起きたトラブルです。怒りを覚えると同時に教育の難しさを改めて実感し、悔しさを覚えました。

担任に事情を確認し、Aさんを含め5人の子どもと、その保護者にも来校してもらい、事実確認と話し合いの場を設定しました。4人の子どもと保護者たちはいじめがあったことを認め、謝罪をしました。形の上では解決したように見えていたのですが、Aさんの心は癒やされることなく、翌日保護者から再度電話があり、転校したいと言っている、とのこと。夏休みでしたので家庭訪問や電話、面談を繰り返し励まし支え続けました。

そして迎えた2学期ですが、次第に遅刻することが多くなり、また登校を渋るようになりました。良い交友関係を作れないことで、気が億劫になっている状況です。

そこで、職員室チームの中でも、特にAさんと関係性が上手く作れていた主幹や事務主任が迎えに行くこととし、校長室、事務室、保健室から復帰させるようにしました。職員室チームはAさんの心情に寄り添い、Aさんの話を聞いたり、本を読ませたり、宿題をさせたり、緩やかにおおらかに「あなたの学校です。遠慮することはないよ。学校に来るだけで嬉しい。」と笑顔の対応を心がけました。
いじめで不安を抱える子どものケースでは、教室復帰を急いではいけません。教室に入っても安心感がないと、結局小さな事柄でもいじめと感じてしまい、教室に行かなくなります。心理的安全性を担保することが重要です。

また同時に、学級での受け入れ態勢を整えることも大事です。担任は構成的グループエンカウンターや、いじめ撲滅に関する道徳・学活を実施して、学級作りに努めました。

こうした努力によりAさんも徐々に落ち着き、教科によっては教室に行ったり、一旦教室を退出して、校長室や事務室で心を整えてから教室に戻るようになりました。
10月に行われた修学旅行でも、旅行中に友達のことで相談がありましたが、最後まで友達と過ごすことができました。

ところが、11月になろうとしていたある朝のこと、「学校に行きたくない」と言っていると、保護者から連絡がありました。
教頭が迎えに行ったのですが、断固登校を拒否する姿勢であったため、諦めて戻ってきました。

すぐに主幹と私で、家庭訪問に出向きました。しかし態度が頑なです。じっくりと話しかけました。
「明日から木、金と出張が続き、週末を合わせると4日間も会えなくなる。その間、Aさんのことが心配で堪らないなあ……」と心情を訴えました。
すると、「給食まで校長室なら」と、気持ちが動き始めました。

学校に着くと校長室で本を読んだり、雑談したりしていましたが、やがて気持ちが楽になったのか、
「実は、昨日の陸上競技大会で、5年生の〇〇に体形のことを言われ、それが嫌で学校に来たくなかったのです」
といじめがあったことを吐露してくれました。

すぐに5年学年主任と担任に連絡し、子どもに事実を確認してもらいました。校長室で話し合い、5年生自らが謝罪をしました。Aさんは気持ちが軽くなったようです。その後、サッカーに誘うと、体育館でボールを蹴って遊びました。11月には市内サッカー大会が予定されており、Aさんは秘かに選手を目指していたからです。

帰り際、「今日、学校に来て良かったです。気が晴れました。ありがとうございます」と微笑んで帰っていきました。これを機にAさんは班で登校するようになり、サッカー大会の選手を目指して練習に取り組みました。結果代表に選ばれサッカー大会に出場することができました。新しい友達もでき、校長室にはたまに顔を見せるくらいになっていきました。
そして、「落ち着いたらお礼の手紙を書きます」と笑顔で卒業していきました。

不登校・登校渋り・教室渋り解消のポイント
子どもが、学校や教室に戻りたくなるヒントを考えてみます。

 保護者との面談を通して、「不登校対策・教育相談体制」を整え、最優先課題として掲げたことで職員の意識改革を促すことができたと考えています。同時に全ての子どもに対して、おおらかに受け入れるという理念が浸透し、学校全体が子どもを温かく迎える雰囲気になりました。
子どもは学校に受け入れられているかを敏感に感じ、安心感をもったときに、初めて動きます。学習規律や集団重視の学校づくりだけでなく、寛容さとのバランスある教育が大事なのです。

 子どもからの訴えは、可能な限りその日に解決するように努めました。午前中は、朝の電話連絡や家庭訪問を「職員室チーム」で行い、子どもを迎えに行ったりします。そして放課後には、「担任チーム」が電話や家庭訪問をするという「二段階方式の教育相談体制」で子どもを支えたことが、保護者や担任の心理的負担を減らし、子どもとの信頼改善に結びついたように考えています。

 週一回勤務の教育相談員が不在のときは、校長室を子どもに開放し、いつでも出入りできるようにしました。子どもが相談しに来たり、心を落ち着かせるための逃げ場にしたりするためです。
また、それぞれの子どもが信頼関係を結べる大人は、他学年の担任であったり、保健教諭や校務の職員であったり様々です。保健室、職員室、事務室など、子どもたちに開放する場を広げていきました。その日の心理状況で居場所を選択できることも子どもの心を軽くしたようです。

 子どもの中には強い個性から、集団規律や画一的な指導を極端に嫌う子どもがいます。特別支援学級など、子どもたちに配慮した教育実践として、「特別支援学級等の特性のある子どもたちを学校のセンターに置いた学校づくり」を進めました。同じように通常学級にも、スペシャルな配慮を必要とする子どもが存在します。温かいサポートを必要とする子どもを早期に発見し、スペシャルに適切な対応をしてきたことが、不登校等の改善につながったと考えています。

 学校に行きたくなる「安心・安全」な雰囲気・空気を作り上げることが大事です。コミュ二ケーション力の向上や温かい人間関係の円滑化をめざすことです。私は平成27年度から温かく笑い合える新しい教育方法として「教育漫才」を続けてきました。温かい笑いを学校の真ん中に置き、温かいほっこりした学校の創造をめざしてきました。確実にいじめやトラブルが減少します。

おわりに 

登校渋りや欠席する子がサインを大人に出していることに気づかず、突然出現するようなことがあります。子どもの成長過程において友達関係、先生との関係、学校の雰囲気に対する不適応感や、家庭内トラブル等で「学校に行きたくない」と考える心理状態は誰もが持つものです。

そのとき、学校の職員一人一人が保護者と連携し、初期段階で「即今着手・一気呵成・組織対応」といった的確な対応をすることによって、不登校や登校渋りはたいてい改善します。
「学校の主人公」が悩んでいるときに、温かい思いと笑顔で寄り添い続けることが大切なのです。

イラスト/坂齊諒一


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<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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