2学期の学校経営のポイント

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

いよいよ2学期です。1学期は、教育活動を基軸に据えた学校経営に手応えを感じることができましたか? うまく回ったところと、なかなか思い通りに回らなかったところがあると思います。「なぜうまくいったのか?」「なぜうまくいかなかったのか?」俯瞰的に分析してみてください。もちろん1学期の学校経営方針を継続することは大事ですが、課題に正対して改善策を考え、勇気をもって軌道修正しながら、2学期からの学校経営を推進していきましょう。

あなたは、2学期の学校経営方針で何をポイントにし、それをどう浸透させますか。今回は「2学期の学校経営方針」について考えてみましょう。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #08

⑴ 2学期の学校経営方針を行う理由と価値

私は、少なくとも年に3回、教員たちに学校経営理念を伝えて協議する場をもちます。4月当初の職員会議、2学期のスタート前、3学期のスタート前が、私のプレゼン・タイムです。
日々の業務に追われる教員は、理念をつい失念してしまうこともあるでしょう。
また、学校経営方針について、校長とは異なる考え方の教職員もいると思います。それはそれでいいのです。価値観や考え方の違う人間同士だからこそ、刺激し合い、学び合えるからです。積極的に議論し合って、全員で理念の再確認をし、その浸透を図るわけです。
経験上、ここを曖昧にすると、学校がうまく回らなくなります。この学校経営理念の協議が、学校を活性化させる基本だと思います。

学校経営方針を伝える会議では30分ほどのプレゼンテーション資料を作成して、1学期の良かったところと課題点を明確にしながら、2学期の学校経営方針を提案します。その際、理念を浸透させるキーワードになる言葉を厳選します。さらに子どもたちの写真も入れ込みます。なぜなら、子どもたちの姿が教育活動の全てを語るといっても過言ではないからです。百聞は一見に如かずで、説得性が増して伝わります。

2学期の始業式での校長講話(私は「校長の15分授業」として行っていました)や毎月の朝礼時には、この資料で厳選された言葉や写真を適宜使って、子どもたちにも語り伝えます。全校児童と教職員が集まる場で丁寧に繰り返し語ることにより、教職員だけでなく子どもたちにも学校経営方針が緩やかに浸透していくのです。

⑵「登校渋りが出たら……」組織的な早期対応が解決のポイント

2学期は登校渋りが出やすい時期です。
夏休み明けは、①1学期の人間関係 ②生活リズムの崩れ ③夏休みの宿題の未完成などが登校を渋る大きな理由です。(詳しくは「『タバティのlet’s スマイル 学校づくり』#03」をご覧ください)

「子どもが学校に行きたくないと言っている」と保護者から連絡が入ったら、校長・教頭が、即座に保護者と面談します。当日の午前中がベストです。担任任せにはしません。担任は授業開きや授業があり、物理的に動けないからです。
そして何より、私は、この登校渋りの子どもたちこそ、学校経営の状況を評価していると捉えています。それゆえ、ここで管理職自ら動かずして、学校経営の改善も何もあったものではないと思います。

保護者・子どもとの面談を通して、まずは登校渋りの理由を確認します。しかし、多くの場合は、ここが意外と不明確で、言葉にできないケースが多いです。したがって、無理に聞き出すことはしません。
登校渋りになる子どもたちは、集団生活で頑張るだけのエネルギーが欠如している状態です。学校の集団規律を優先する空気や、威圧的な人(先生、児童)が発するオーラが苦手なのです。
そこでまずは、多くの大人が上機嫌で寛容な笑顔で「大人の愛情」を、エネルギーの枯渇した子どもの心に注ぎこみます。「何があっても先生たちが守る」と、学校の姿勢を告げることも忘れずに。
苦虫をかみつぶしたような顔では、子どもはそれを理由に来なくなります。

登校渋り対応は午前中がポイントです。校長、教頭といった学校の幹部が対応すると、子どもは意外と動き始めます。もちろん、保護者の信頼度も高まります。
もし午前中の面談で子どもに会えなかったり、事態の進展に時間を要すると感じられた場合は、放課後に時間に余裕が生まれる担任が、電話や面談、家庭訪問をします。本校では、これを「2段階式の教育相談体制」と呼んでいます。保護者や担任の心理的負担を減少し、組織で対応することが改善に大きく結びつきます。

本校では学校に来た子どもには、まず校長室を開放し、休ませます。ここで校内の居心地の良さを意識させます。次に、本人が教室に行きたくなれば行かせますが、行きたくないなら居場所を選択させ、場所を自己決定させます。本校では校長室、保健室、職員室、相談室、事務室から選択させます。エネルギーが溜まるまで黙って待ちます。繰り返しますが、子どもが行きたくない理由を言えば聞きますが、特に言わなければ、原則何も言わず、本人の選択や決定に任せます。ここが重要ポイントです。

不登校も個性の一つ。学校に行かない選択肢もある、という捉え方が今、社会では広まりつつあります。しかし、本当にそれでいいのか、といつも疑問をもっています。
もし学校が、子どもにとって居心地の良い場所なら、進んで行きたがるはずだからです。

また、これまで登校渋りの子どもの保護者と面談をして、「個性の時代ですから、学校に通わなくていいです」とおっしゃる方は、誰一人いませんでした。必ず「登校渋りを改善し、学校に通わせたい!」と懇願されます。つまり、ほとんどの保護者の願いは、「我が子が笑顔で学校に通う日常を、当たり前に過ごさせたい」ということです。それが保護者の一番の願いです。ここを忘れてはなりません。

登校渋りが始まった初期段階で、学校の「即今着手・一気呵成・組織対応」など、的確な対応によって登校渋りは改善します。また長期化しても、保護者、関係機関、学校・教職員一人一人が、寄り添い続けることで子どもの心のコップにエネルギーが溜まっていきます。学校に行きたくなる安心・安全な雰囲気・空気をつくり上げるため、職員の温かい人間関係の構築と、コミュ二ケーション力の向上をめざすことが大事です。この点が、登校渋り対策には特に欠かせないと考えています。

⑶ 子どもたちが当たり前に発言し合える授業づくりの創造

夏休みの間に、全国学力・学習状況調査や都道府県主催の学力・学習状況調査の結果が学校に届き、その結果に一喜一憂されたのではないかと思います。この結果次第で、教育委員会の対応が大きく違ってくるからです。しかし、ここでぶれてはいけません。この調査の目的は、課題を明確にし、「授業改善」を図ることです。何が子どもたちの強みであり、何が弱点であるかを把握して、2学期からの授業につなげていくことが重要です。

「学力向上」という言葉には違和感を覚えます。子ども側に課題があるような語感がありますし、ともすれば全国学力テストの過去問を繰り返すような、テスト対策の授業が行われることにもつながるからです。
課題は、私たちの授業力です。だから、私は、「授業改善」という言葉を使用します。学校がすべきことは、『主体的・対話的で深い学びの授業づくり』です。

もし、あなたの学校で、教師の喋りを中心とした授業が行われたり、発言力のある一部の子どもたちでつくる授業が相変わらず展開されたりしたら、早々に改善することをお薦めします。

私は、意見をつなぐ学び合い・『全員思考の活用・全員発表・全員完了』の授業を提案しています。
ここで使用する「全員」という言葉には、教師の雄弁な語りによる授業と、表現力のある一部の子どもの発言でつくられる授業を改善したい、という強い願いがあります。
いかに的はずれな意見であったとしても、冷笑せずに受け入れるような、心理的安全性が担保された教室づくりが第一条件です。
そして、発言する権利を一人一人がもっている、という事実を確認し、その大切さをみんなで共有し合います。
発表が苦手な子どもに対して、その特性に応じた表現を認め合うという関係性も教室内につくりましょう。
教師が恣意的に指名したり、座席順で発言を要求しないことも大切です。これが「全員」という言葉の根底にある理念です。この理念が共有されているから、子どもたちは安心して表現することができるのです。

6年間にわたって授業改善のお手伝いをしている某小学校の研修主任は、「意見をつなぐ学び合い」について、「子どもたちの笑顔が増え、自分たちで授業をつくろうと変わってきました」と語ります。

一人一人が、授業の主役として、当たり前に発言し、友達と意見交流をして、終末には話し合った材料を活用して自己内対話をして学習作文を書く授業づくりです。

2学期は先生たちの日々の授業参観から始めていきましょう。

⑷ 子どもたちが主人公と感じる教育活動の創造

学校は、年間指導計画に縛られすぎていないかと危惧しています。皆さんのところはいかがですか? もっと子どもたちの意見や提案を受け入れ活用していいのではないかと考えています。子どもたち自身で提案や企画が実施できたら、「学校の主人公」を実感できると思います。2学期は、児童提案を実施してみませんか。

小学校の学習指導要領に、「児童や学校、地域の実態等に応じて」という文言があります。年間指導計画は前年度の実態を踏まえて作成されています。本年度の実態とは異なります。しかし、現場は、前年度作成した計画に沿って進める傾向があります。ここにはたしてワクワク感やドキドキ感が生まれるでしょうか。目の前の子どもたちの姿や声が実態であり、変更の根拠になるのです。

子どもたちの提案が授業や教育課程に組み込まれることで、学校の懐の深さや寄り添う姿勢が伝わります。その上で、学校を変えられる喜びや文化を創造する価値を体感し、自己肯定感や自己効力感が高まるのです。子どもたちが学ぶ楽しさや魅力を感じたなら、学校離れは減少すると思います。心理的安全性が担保されず、居場所が見付からず、ワクワク感を味わうことができないから離れていくと考えています。

学校が敷いたレールの上を走る教育では、ワクワク感は生まれにくいのです。子どもたちと先生でワクワクドキドキしながら、手づくりの道を共に歩く教育が必要な時に来ています。そこには温かい笑い声が響いています。

おわりに

今回は、4つの観点からテーマ「2学期の学校経営のポイント」に迫ってみました。ぜひあなたらしく、あなたの色で、勇気をもって大胆に学校経営を進めてください。そして、それを実際に遂行してくれるのは、教職員の皆さんです。あなたの上機嫌な笑顔が、一人一人の意欲につながっていきます。
ぜひ、常日頃から職員室を巡っては一人一人に声をかけ、談笑して、関わりの時間を楽しみましょう。様々な情報が手に入り、本音が漏れ聞こえてきます。
さらに朝夕には大きな声で感謝し、上機嫌の笑顔で労を労いましょう。
なぜなら、こうしてつくられる教職員との良好な関係の上にこそ、学校経営は成り立つと考えているからです。推進者は教職員一人一人です。

働きやすい職場は、気楽にコミュニケーションが行われ、困った時はもちろんですが、何気ない今日起きたクラスでの出来事や、授業準備や教材研究などがフランクに話せる、相談できる人間関係こそが重要で、それが大きな成果につながります。決して時間短縮だけが目的ではないのです。ここが働き方改革の中核だと思います。この点を決して忘れないで学校経営を楽しんでください。まずは、あなたの上機嫌の笑顔から2学期スタートです。

イラスト/坂齊諒一


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<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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