特性のある子への対応は、保護者の理解を最優先に

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タバティのLet’sスマイル (レッツスマイル)学校づくり
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前埼玉県公立小学校校長

田畑栄一

みなさんの学校にも恐らく、集団に馴染めない子や、先生や友達との相性が合わなくて苦労している子どもたちがいるのではないでしょうか。個性を認め合うことが大切と教えられながらも、学校は集団を優先する教育が行われています。そのため、個性の強い子どもたちは様々なジレンマを感じていますし、それが時にトラブルに発展します。しかしそれこそが「集団で学ぶ学校の価値」なのだとも思います。
さて、あなたは、特性のある子どもが違和感を覚え、教室に行きたがらなかったらどういった対応をしますか。

【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #11

*次の事例は、事実を基にしたフィクションとしてお読みください。

教室から離れる2つのケース

子どもが教室を離れるケースは大きく2つ考えられます。

1つは子ども自身に特性があり、集団が不得手で発達障害やグレーゾーンに属する個性により、教室を離れるケースです。子どもがどんな特性を持っているかを理解しなくてはなりません。
保護者の中には、学校から特性や個性について指摘されたり、医者から発達障害の可能性を口にされたりしたとき、その確定を先延ばしにして、ゆっくり見ていこうとする人たちがいます。
これは保護者として当然の心理でしょう。発達障害によって子どもが学校でどのような処遇を受けるのかが分からないため不安でしょうし、また、我が子には通常の学級で通常の教育を受けさせたいと願うのが自然だからです。しかし、こうした親の願いから、子どもに登校を無理強いするなどして、問題がどんどん悪化するケースも多いです。
そこで、なるべく早期に学校から子どもと保護者へ手を差し伸べ、保護者と教育センターと学校が繋がって、その子の特性を見極め、最適な対策ができるようにしていくべきだと考えます。

その子の特性を正しく理解することで、今の学校は「個別最適化」ができること、そして、教育機関としてどのような対応ができるのかを保護者に理解してもらいます。
こうして、保護者と教職員が正しい児童理解と正しい対応を行えれば、心の余裕が生まれ、その子の良さや特性を伸ばしやすくなります。

もう1つは、いじめなどで孤立し、教室での居場所を失っているケースです。
こちらは、担任の教職員はもちろん、管理職も常に子どもたちの様子に気を配り、小さな異変を見逃さないようにすること。そして、子どもたちや保護者など、気が付いた人はすぐにでも学校に相談するように周知していきます。
加害者は『からかっただけ』と言うかもしれません。しかし、被害者が苦しいと思ったら『いじめ』です。これは、いじめ防止対策推進法にも、『心身の苦痛を感じているもの』と明記されています。この基準を厳に守り、ブレずに対応していきたいですね。
いじめに関しては、また別の機会でお話ししたいと思います。

特性のある、または疑われる子どもの教室渋り対応

登校渋りや教室渋りが始まったら、最初にやることは、子どもの背景や、その理由を探ることです。
教職員も保護者もしてはいけないのが、「なぜ? 」と質問攻めにしたり、無理やり教室に入れようとしたり、「仲間に入れてもらおうか」などの押しつけをしたりすることです。
子どもからしてみれば、こうした働きかけは、「私のことを分かっていないのに……」と迷惑に感じさせたり、当惑させたりするだけで、信頼関係が崩れてしまう恐れもあります。
大切なのは子どもと対等な目線の高さで向き合って、様子を注意深く観察したり、丁寧に話を聞いてあげたりすることで、まず事態の背景を探ることです。

2年生の男子Aさん。1年生の間は落ち着いて学習をする子で、積極的に授業をリードするタイプでした。しかし2年生の4月、始業式の翌日から教室渋りが始まりました。
なかなか教室に行きたがらず、朝も保護者が送ってくることが多くなりました。ただ、やっとのことで職員室や校長室には出てくるものの、教室には行こうとしません。
担任は、トラブルなど思い当たる節はないと言います。子どもたちは、クラス替えがないので1年生のときと同じです。
とすると、何かクラスでの人間関係に変化があったのか、あるいは、担任の指導にうまく対応できていないのかもしれません。

担任には、しばらくAさんは職員室チームや学生ボランティアで対応するから、安心してクラスづくりに専念してほしいと伝えました。
Aさんが「行く」と言ったら教室に連れていくので、気持ちが動くまで待ちましょう。教室に入った時には笑顔で迎え入れて見守ろう、ということで、Aさんの背景を探ろうとしたのです。

こういうときこそチーム対応が必要です。担任だけでは負担が大きすぎるからです。組織対応でAさんの気持ちをほぐしてから、教室に戻したいと考えました。
事務主任は工作が得意なので、Aさんと一緒に段ボールで作品を作ってくれました。学習支援員とは個別学習や鉄棒をしたり、学生ボランティアは読書や折り紙をしてくれたりしました。
こうした温かな関わりを通して、Aさんに、人間関係による心理的安全性の担保をしていきました。
しかし、しばらくの間、Aさんはときどき教室に行けるものの長く居られず、廊下でウロウロしたり、職員室や保健室、事務室に戻ったりすることが続きました。

Aさんの問題の背景は、いまだ判然としません。そこで教職員で集まり、現在の状況を共有し、今後の見通しについて話し合った上で、校長・教頭の両名で、Aさんのご両親と面談することにしました。そして、以下のような相談をしました。

教室に行きたがらない現状の報告。
その要因として思い当たる節があるか否か。
Aさんの様子をじっくり時間かけて見ていきたい。
周りの子どもたちと比較しないでほしい。
世間体に惑わされないでほしい。
子どものためにできることは何か、常に情報交換していく。
家では、とにかく本人の話をじっくり聞いてほしい。
定期的に面談や相談をする。

そして最後に、ご両親としては学習の遅れが気になるかもしれないが、学校はゆっくりとAさんの気持ちに寄り添いながら学習も進めたいので、理解してほしい旨伝えました。
ご両親からは、「学習面は心配していません。お任せします」という言葉が聞かれて安心しました。その後も、Aさんの学校への見送り時なども使って常に話す機会をもち、信頼関係が作られていきました。

この状況に小さな変化が見えたのは、およそ1か月後の、5月の保護者面談でのこと。
「Bさんのことが苦手だ、とAが言っています」と、保護者が話してくれました。
しかし、保護者自身は、「Bさんは良い子で、Aとも仲良くしている」との認識があったようです。

Aさんは依然、日によって好きな教科(算数)の時には教室に行くくらいで、教室渋りが続いています。
ただ、丹念に様子を伺っていても、AさんがそれほどBさんを苦手に思うような事実が見えません。
さらに、「◯◯があるから行きたくない」等と、別な理由をつけて教室に行きたがらないことも増えてきたのです。
これはもしかして…。
そこで、市の教育センターに連絡してAさんの様子や学校の対応の現状を報告し、特別支援担当の指導主事に観察に来てもらいました。
指導主事曰く、こういったAさんの言動観察から、集団不適合や人との相性など様々な要因があるのではないか、とのこと。そこで保護者と面談をし、互いにAさんを見守ってきた共通理解の上に、Aさんの発達検査を進めました。保護者も学校のていねいな対応と、それに対するAさんの行動を見ていて、何か特性があるかもしれないと感じとっていたのでしょう。すんなり、教育センターでの面談や検査を受ける運びになりました。保護者との信頼関係が築けていなければ、きっとこうはならなかったでしょう。

検査の結果、Aさんはこだわりが強く、特別な支援が必要な特性があることが分かりました。
学習面では大きな凹みはないのですが、集団や人との関わりに凹みがあるため、人との関わりやコミュニケーション力を育んでいくことがテーマとなります。
Aさんは、3年生に進級する次年度から特別支援学級に籍を移し、少人数で落ち着いて学習できる環境を整える方向で話が進みました。
「今まで特に気が付かなかったのですが、実は今回検査をして、Aに特性があることが分かってホッとしました。Aが安心して通えるようにしたいと思います」
と、保護者は笑顔で語ってくれ、我々も胸をなで下ろしました。

また、特別支援学級の担任からのアイデアで、来年度を待たず、今年からAさんを体験的に特別支援学級で学ばせてはどうか、という話が持ち上がりました。
実はこれまでもAさんが教室渋りをしたとき、この担任がAさんに声をかけて、特別支援教室で過ごしたことが多々ありました。そのときの体験が良かったのでしょう。Aさんも保護者も、喜んで特別支援学級の体験に賛成してくれました。
特別支援学級に通う子どもたちの保護者にも承諾を得、Aさんは2年生の2学期、10月から特別支援教室の体験をスタートさせ、翌年4月からは本格的に特別支援教室に籍を移して、笑顔の学校生活をエンジョイしています。

子どもが教室に馴染まず、教室にいられない状態が長くなればなるほど、その子の「転籍」が話題になります。
しかし、これは学校側の都合にすぎません。保護者や子ども自身が、進路を決定することが重要なのです。焦って学校の都合で結論付けず、心情に寄り添って、情報提供と適切なアドバイスを行いましょう。私が大切にするのは、「学校は様々な人と関わり合うことで『ともに生きる価値』を学び合うことができる民主的な場所でありたい」ということです。

おわりに

Aさんのように籍を通常学級から特別支援学級に移した子もいます。逆に特別支援学級から通常級に移った子もいました。強い個性を持ちながらも、通常級で過ごすことを選択し、成長した子もいました。
個性が強く、特性をもった子どもと出会ったとき、基軸にするのは、「子どもにとって本当に良い教育とは何か」ということです。子どもの笑顔に出会うために学校はあると思うからです。

イラスト/坂齊諒一


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<プロフィール>
田畑栄一(タバティ) 前埼玉県公立小学校校長。 
埼玉県公立中学校国語科教諭、指導主事、教頭職、校長職を歴任。校長職は10年間。
著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる ~笑う学校には福来る~』(協同出版)『クラスが笑いに包まれる 小学校 教育漫才テクニック30』(東洋館出版社)『「カウンセリング・テクニック」学級づくりと授業に生かすカウンセリング』(共著・ぎょうせい)。 NHK EテレなどTV出演も多数。
現在は、全国各地での講演や研修を実施/私立学園中学校・高等学校日本語科講師/一般社団法人「Lauqhter」温かい笑い教育アドバイザー/一般社団法人「アルバ・エデュ」参事/こしがやFM86.8 教育パーソナリティー等。


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