クラスを盛り上げ成長を促す「お楽しみ会」企画のポイント|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
三学期には、クラスを明るく温かい雰囲気で締めくくるために、「お楽しみ会」や「学級集会」の企画を立てる学級も多いでしょう。今回は、独特の実践で子供のやる気を伸ばすカリスマ教師、沼田晶弘先生に、お薦めの 「お楽しみ会」 企画について、企画の立て方のポイントや実践例を教えていただきました。
目次
企画を立てるときは、ゴールを明確に設定する
学級集会の企画を立てるときのポイントは、「ゴールを明確にすること」。
「お楽しみ会をする」「みんなで〇〇パーティをする」ということを決めるだけでなく、何をゴールや目標に設定して「お楽しみ会」をするのかが大事なんだ。もちろん、教師は「お楽しみ会」を通じて、子供たちに何を学んでもらうのか明確な目的をもっていないといけない。
とくに子供主体で企画を立てるなら、何をしたいかを子どもたちに話し合わせるにしても、企画を進めるにせよ、常にゴールを明確に意識させることが重要だ。
もし「お笑い集会」をするなら「本当にこのクラスを笑わせよう」「本気でこのクラス全員で楽しもう」という気持ちをまず固めさせる必要がある。 逆にゴールさえ決まったら、それに向けて進んでいけばいい。やりたいこととゴールが明確なら「学級集会」という形式にこだわらなくてもよいと思っている。
企画には先生のアイデアも入れ、子供の視野を広げる
注意したいのは、「みんなで盛り上がることをしよう」などという、漠然としたゴールを描いて何をやりたいのか子供たちに話し合わせ、子供のアイデアだけで決めてしまうこと。
ゴールを明確にするだけでなく、少しは先生のアイデアを入れてあげないと、子供たちは前にやって楽しかったことの焼き直ししかしなくなる。
子供たちがなぜ同じことばかりやりたがるのかというと、他に楽しいことを知らないからだ。だから「これをやりたい」と子供たちが言ったら、「こういう要素を付けたらもっと面白くなるよ」などと新しい要素や視点を与え、楽しい世界を広げてあげよう。
ちなみにボクのクラスでは「世界一のクラスになる」というクラス目標がある。
そして「ドロケイ(泥棒vs刑事の鬼ごっこ)をみんなで楽しみたい!」と子供たちが言うので、「最高に楽しい、ガチのドロケイをつくる」ということをゴールに設定し、楽しみ方をトコトン追究しながらルールを工夫して作り上げていった。すると、どんどんドロケイが進化して、結局スポーツになってしまった。
ついた名前は「GDRK」。「ガ(G)」チの「ド(D)」「ロ(R)」「ケイ(K)」だ(笑)。 ものすごくハードなドロケイになったけど、子供たちは「ドロケイってこんなに楽しいって知らなかった」と言って喜んでいる。
ドロケイをガチで楽しむ「GDRK」
「GDRK」と普通のドロケイとの違いは何か。
簡単に言うと、「GDRK」では、ドロケイのルールを細分化し、明文化しただけ。
実はドロケイのルールはあいまいで、地域や取り組む年代によっていろんなルールがあったりする。そこで「GDRK」では、
- アジトから宝までの距離は25m。
- 宝からゴールラインまでは25m。
- ドロはこの宝を持って、ゴールラインを越えなくてはいけない。
- 牢屋はゴールとアジトの間(25mライン)につくり、ドロが逮捕されたらケイが連行しなくてはいけない。
- ケイがドロを連行中は、連行中だとわかるようにドロは手をあげていること。
- 牢屋の中のドロは、外から仲間にタッチされたら逃げてもよいけれど、一度アジトに戻ってリセットする。牢屋からアジトに帰るときも手をあげること。
など、ルールを一つ一つ細かく決めていったんだ。
結果、なんとなく逃げたり捕まえたりする鬼ごっこの延長ではなく、ガチのスポーツになってしまった。
スポーツになると、練習量や戦術がより重要になる。
子供たちも単に走りまわるのではなく、どう走れば勝てるのか、チーム全体で走り方を考えるようになったんだ。
例えば、泥棒チームは、最初に足の速い子を宝に向かって走らせ、その子が宝を持ったら、ゴールに向かって走るのではなく、ゴールとまったく違う方向に向かって走らせて、なるべくたくさんケイを引きつける。そしてその隙をついて別の子が宝を取りに行くような策を入れてくる。
警察側も、ドロを逮捕して、牢屋まで連行するとき、いちいち全員を牢屋まで連れていっていると警備が薄くなるので、5メートル以上宝から離れたらあえてドロを逃がすという戦術を出してきた。つまり、走力の強い子やチームが勝つのではなく、チームの戦術が優れているほうが勝つという遊びになったんだ。
とにかくハッキリ言ってうちのクラスは、コロナ禍でもこのGDRKのおかげで走力がものすごく向上している。毎日めっちゃ走っているからね。
「GDRK」はクラスの団結力を高め、心の成長を促す
「GDRK」のような遊びでも、ゴールは何なのかを意識することが大事だ。
子供たちは「ゲームに勝つ」というゴールに向け、一つ一つ「これは何のためにやるのか?」と考え、追究しながら戦術を練っていった。すると足の速い子、遅い子それぞれに役割が生まれてくるし、まさにチーム力で戦おうとするので、クラスの結束力も高まったように思う。
実はもう一つ、ボクの中でのGDRKのゴールは、「子供たちに人との関わり方を学ばせること」だった。
そもそもボクがこのガチのドロケイをしようと思ったきっかけは、昼休みに子供たちがやっているドロケイのルールがあまりにもいい加減で、よく理解できなかったこと。そして、お互いに「違う」「こうだ」と言い合い、 そこから小競り合いや喧嘩に発展してしまうことが多かったからだ。
それぞれがドロケイのルールを自分の都合のいい解釈で捉え、言い合い、喧嘩に発展していた実態を改善するためにルールを決めたり、実践する際には、話し合いの練習をしながら相手を思いやったり、自分を見つめ直したりすることを促した。
つまり、道徳的要素や国語の単元にもあるディスカッション、それに体育的要素を総合したものがGDRKなんだ。
結果、日常生活においても、無駄なワガママのぶつかりあいからの喧嘩はなくなり、子供たちはとても優しくなった。GDRKの最大の効果は、子供たちの心の成長だったと思う。
学年末ならクラス対抗でGDRKをするのもお薦めだ。友達との関わり方を楽しみながら学ぶことができ、クラスの団結力も高まり、とにかく全員で盛り上がるのできっとよい思い出になるだろう。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。
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取材・構成・文/出浦文絵