GIGAスクール構想に向けた課題と必要な準備とは?
1人1台端末の環境が整った際には、これをスムーズかつ効率的に活用できるよう、今のうちから各学校で準備や体制づくりを進めておく必要があります。GIGAスクール構想の具現化に向けてクリアすべき課題や必要な準備、校長に求められる意識や考え方などについて、岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授に伺いました。
玉置 崇(たまおき・たかし) 岐阜聖徳学園大学教育学部教授。公立小中学校教諭、国立大学附属中学校教官、中学校教頭・校長、県教委主査、教育事務所長などを経て、現職。教員養成に精力的に取り組み、文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業」の委員長も務める。著書に『先生と先生を目指す人の最強バイブルまるごと教師論』(EDUCOM)など。
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チームをつくって準備体制を整える
まず不安の一つとして挙げられるのは、GIGAスクール構想について、そもそも教員がどこまで知っているかということです。1人1台端末に向けた取組が進められていることは知っていても、それがGIGAスクール構想と結びついていない場合もあります。また、1人1台端末が新型コロナウイルス対策として進められていて、コロナが収束したら必要ないものだと思い込んでいる人もいるようです。
そうした認識の違いは、校長が教職員にどこまで話をしているかによります。ただ、自治体によって進度が異なるので、教員にまだ伝えられないこともあるかもしれません。さらに、今は新型コロナウイルス感染対策が学校の最優先事項になっており、全体に周知徹底するのはなかなか難しい状況です。そのため、このタイミングでGIGAスクール構想の話をするのが適切なのかと悩んでいる校長も多いと思います。その気持ちは十分に理解できます。
もちろん、1人1台端末によってよい授業をしたいと考えている教員は多くいるはずです。しかし、今はそれどころではないというのも本音でしょう。文部科学省をはじめとする行政や世間は1人1台端末に向けて積極的ですが、その熱と、現場の実態とが乖離しているのが現実だといえます。
ただ、間もなく1人1台端末とネットワーク環境が整備されるわけですから、その準備は不可欠です。1人1台端末となってから校内体制を整えるのでは遅いので、スムーズな導入に向け、チームをつくって進めていく必要があります。校長には、その方針を教職員にしっかりと伝えることが望まれます。
新しいことを始めるためには無駄を削ぎ落とす視点も必要
私は、学校経営は一点突破でよいと考えています。経営学に「ハンカチ理論」という理論があります。開いて置かれたハンカチのどこか1か所をつまんで持ち上げると、つられて全体が引き上げられます。これを学校経営にたとえると、校長がリーダーシップを発揮し、一点に重点を置いて突き進めば、チーム全体が底上げされるのです。逆にあれもこれもといっぺんにやろうとすると、失敗する可能性が高くなります。
ただそれも、校長一人の力では実現できません。チームを組んで価値づけすることが必要です。そのためには、同じ視点で価値づけできる人材を一人でも多く育てられるとよいでしょう。校内で何人か育つと、取り組みは一気に進むはずです。
また、1つ増やしたら1つ減らすことも大事だと考えています。何か新しいことを始めれば負担が増えるので、その分、何かを削るということです。「これをやります」「その代わりにこれをなくします」とセットで伝えると、人は受け入れやすいものです。仮に、増やすことが大きくて減らすことが小さくても、受け取る側の感じ方は変わります。教員は「校長は自分たちのことを理解している」と感じるはずです。
私はよくカリキュラム・マネジメントを「思い込み業務の洗い出し」と言い換えます。効果があると“思い込んで”やっていることをやめたらどうかと提案します。たとえば、朝、教員が正門で子どもたちを迎えてあいさつする姿が見られます。では、それにどんな効果があるのでしょうか。教室に行ってからあいさつをするのと、どれだけ効果が変わるのでしょうか。そう聞かれて明確に答えられる人はいないでしょう。もちろんマイナスではありませんが、「正門に立ってあいさつをしたほうがよい」というのは、印象にすぎません。勤務時間前に行う必要はないと思います。
体育大会や合唱祭などの練習も、本当に従来と同じだけの時間をかける必要があるでしょうか。学校には、そういったことが多くあります。カリキュラム・マネジメントを進めるには、ものの本質をとらえて、無駄を削ぎ落とすことが必要です。
校長は自身の言葉で教員に説明できるように
GIGAスクール構想の実現も同様に、本質をとらえたうえで取り組むことが重要です。なぜ1人1台端末が必要なのでしょうか。「時代の流れ」という答えでは不十分です。それも理由としてあるでしょうが、あまりに抽象的です。学びの道具として、コミュニケーションの道具として1人1台もつことが、今後の子どもの学びを支えるうえで外すことができないからです。そういった明確な考え方をもつことが必要です。
校長は、GIGAスクール構想の必要性について勉強し直し、自身の言葉で教員に説明できるようにしておくことが大事です。文部科学省の資料に書いてあることを読むのではなく、自分なりの解釈をもとに説明し、校内全体を巻き込んで「皆で楽しくやっていこう」と促すことが望まれます。
本質をとらえることは、校長にとって常に大事な視点になります。また、人は急に変わるものではありません。ですから、少しのプラスの変化を喜ぶことが大切です。少しずつのプラスがのちに大きなプラスとなるように信じて、できたことを評価することが必要になります。ときにはマイナスになることもありますが、焦ってはいけません。私自身、校長時代にそうしたことを心がけ、教員のできなかったことよりできたことに注視して、「ここがよくなったね」と声をかけていました。
ICTの活用状況を外部へ発信することも必要
ICTを活用することに価値があると考えるのは正しくありません。iPadは単なる道具です。道具が子どもを成長させるわけではありません。大事なのは、その道具をいかに使うか、それを使うことで子どもたちをどのように成長させたいかということです。ICTを使った授業をしたことがなくとも、子どもを成長させるためにどう道具を使うかに関しては、校長には長年の経験とノウハウがあるはずですので、自信をもってください。
一方で、教員に求められる大切な意識は、よりよい授業をしようと思うことです。これも本質の部分になります。そのために校長は、教員に「ICTを使うことがよいこと」「ICTを使う人がすばらしい」などと思わせてはいけません。ICTを活用しなくともよい授業をしている教員は多くいるわけですから、校長はそういった人を大事にしつつ、授業をよく見て、よい実践を価値づけしていく必要があります。
私は授業を見るとき、授業者を見ません。教員は子どもを変えようと思って授業をしているわけですから、必ず教室の前から子どもの姿を見ます。授業者を見ようとすると嫌がる教員もいますが、子どもを見ることを否定する教員はいないでしょう。子どもが楽しそうに授業に参加していたら、よい授業ができているということです。そういう視点をもって価値づけすることが大切です。
また、1人1台端末には多くの人が関心をもっていますから、その活用状況を外部に向けて発信することも大切です。学校ホームページに、端末を使って学習している子どもの写真を掲載するだけでもよいでしょう。「端末を使っています」と文字や言葉で言っても証明にはなりません。ごまかさず、日常的に情報を公開し、事実を知らせる。管理職には、こうしたことを意識することも必要になります。
取材・文/藤沢三毅(カラビナ)
『総合教育技術』2020年12月号より