読み書き障害の子への理解とその子たちへの「巻き返し策」

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支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ

読み書き障害があるのに、高学年まで支援を受けることができなかった子は、自己肯定感が著しく落ちています。読み書き障害の子への理解を深めるとともに、その子たちへの「巻き返し策」について、NPO法人えじそんくらぶ代表・高山恵子さんと島根県公立小学校特別支援学級教諭・井上賞子さんにお話を伺いました。

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読み書き障害の子は音韻処理が苦手

教室の中で気になるのは、暴れる子、騒ぐ子、固まる子……。読み書き障害を持っている子(以下、読み書き障害の子)は、授業の妨げにならないことが多いだけに、担任は彼らの辛さを見過ごしがちです。けれども、彼らは「みんなが簡単にできることが、自分はできない」と、ひとりで困っています。

井上先生は言います。

「たとえば、漢字を美しく書けるけれども、読むことはできない子がいます。その子は、絵を模写するように字を書くことはできても、文字と『音』とつなくごとが苦手です。
また、『き』と『つ』と『ね』という字は書けるし、『きつね』と言葉に出して言えるけれども、『きつね』と書けない子もいます。こういった子供たちは、音韻処理に課題があるのかもしれません」

教師の側が子供の困り感に気がつくことから

「1年生の教科書では、き・つ・ねと、3回手を叩くといったことをします。これは、音韻を意識するためです。きつねと書けない子は、『き・つ・ね』と言葉を音の塊として割るのが苦手です。読み書きという行為は、音の分解と合成の操作を常に繰り返しています。
音韻処理に課題がない人にとっては、それがあまりにも自然にできるので、『なんで、できないの』と読み書き障害の子の辛さを想像することが難しいのです。まずは、読み書きに課題がある子の特徴を知り、『もしかしたら、この子は読み書きで困っているのかもしれない』と、教師の側で、気が付いてあげる必要があります」(井上先生)

(国立研究開発法人 国立成育医療研究センターHPより抜粋)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センターHPより抜粋)
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個別の支援ではできたのに

個別の支援はできたのに

個別に支援をして分かった!と言っていたのに
個別に指導をして、あんなに分かっていたのに、なんでテストになると、点数が
とれないの?

個別の支援の時は図や教師の声があった
個別で支援をする時は、その子が分かりやすいよう図を使ったり、教師の「声」があったりします。ペーパーテストではそれがないのです。

着目すべきは読み書きへの「易疲労性」
「さ・く・ら・……」といった逐次読みになる子は、読むことに対して急傾斜の階段を上っているように莫大なエネルギーが必要です。

なにを支援していたのか? 自覚をすることが大切
個別指導の時には、図や声という支援がありました。ペーパーテストの時は、その台がいきなり外されてしまっているのです。

支援策テストで点数が悪い子は本当に分かっていないの?

「読みに困難がある子は、端的に言えば文字から情報をとるのが難しい子です。ここでのポイントは、本人も『自分は文字が読みづらい』と気が付いていないことが多いということです。他の子が、『文字をどう音に変えて読んでいるか』は分からないので、文字が見えているのに意味が入ってこないのは「自分の頭が悪いからだ」と自信をなくしている子がたくさんいます。テストで点数をとるには、内容理解以前に、問題を『読む』力が必要です。ある時、理科のペーパーテストが0点だった子に、口頭試問したら100点だったことがありました」(井上先生)

新学習指導要領では、どの教科にも特別支援の記述が充実しました。「このテストで計っている能力がなんなのか?」を教師が自覚し、それが必要な子には、問題を読み上げる、口頭試問にするといったフレキシブルな合理的配慮が進むことを願います。

個別指導をしても全く改善されず

取り出し支援

どうしたらいいだろう。本当に自信を失う
あの子への指導、どうしてうまくいかないんだろう? 教師としての自信を失ってしまう。

上手くいかない方法を繰り返さないことが大切
教師は、「繰り返し練習することでできるようになる」という成功体験があるので、うまくいかないことを繰り返しがちです。

達成感を与えてあげたい。どうやったらよいのだろう
なんとかして、この子に達成感を与えてあげたいけれど、どうしたらいいだろう?

子供も教師も悪くない方法が探せていないだけ
うまくいかなかったら、その方法を繰り返さずに別の方法にトライしてみてください。方法にミスマッチがあるだけのことがたくさんあります。

支援策方法が見つかると子供も教師も楽になる

教師の毎日は忙しすぎて、気になりながらも、打開策を見つけるまでに至らないこともあります。
井上先生は、こう言います。

「『 困った子は、その子自身が最も困っている』という言葉は、よく聞きます。ある時、授業が全く成立しない子を相手に本当に困ってしまい、方法を探しまくったことがありました。ある支援がピタッとはまり、その子が課題をやれた時に、『この子、本当に困っていたんだ』と初めて腑に落ちた感覚がありました。そうしたら、自分がやるべきことが見えてきたんです。それまでも、『困っているのは子供』と頭では理解しているつもりでしたが、実は『なんでなの』と私自身が困っている状況の中で迷子になっていた気がします。気になるのなら、いろいろな手立てを試してみる。教師が子供と一緒に困り感をイメージしながら学びやすさを模索することで、お互いが楽になります」(井上先生)

支援は実はシンプル

支援は実はシンプル

あの子、またテストができないだろうな
あの子ができないのは、なんとなく予測が付くようになってしまった。これって、どうなんだろう?

「どこで困っているのか?」をまずは観察してみる
「どこで困っているのか?」「なにを困っているか?」。教師の側が、そういった問いをもち、まずはその子をよく観察してみましょう。

「できない」はとても大雑把な言葉
テストで点数がとれないと、「全部ができない」と、子供も教師も思ってしまいます。

「できない」のではなく「ここの助けが必要」なだけ
子供をよく観察してみると、困っている「部分」が見つけられます。それは、「全部」ではなく、「ちょっとの部分」なのです。

支援策困っている「部分」をちょっと支えるだけでよい

「支援というのは、実はシンプルです。『できない』という言葉はとても雑で、テストで点数をとるためにはたくさんの要素が必要ですが、要素の1個か2個が落ちていると、全部が『できない』ように見えてしまいます。私はたくさんの支援が必要な子に出会ってきましたが、必要な要素全てが『できない』子を見たことはありません。
だから、『この子は、ここで困っているんだ』と、教師が落ちている要素を見つけ、そこの部分を支えてあげるだけでよいんです。『分かるのが楽しい』『ちゃんとできるんだ』ということを、本人に経験させてあげてほしいと思います。
自分に合った手立てに出合って自信がもてれば、『これがあればできる』『あれも、やってみたい』と、子供は自分で育っていきます。『高学年の学習が、ちゃんとできる自分』を、本人が自覚できること。そこが巻き返しのスタートラインです」(井上先生)

<監修者プロフィール>
高山恵子さん: NPO法人えじそんくらぶ代表
アメリカの大学院で教育学を学ぶ。1997年に同団体を設立し、日本の特別支援教育を牽引する存在として文部科学省の委員などを長年務める。新著、教育技術MOOK『オールカラーで、まんがでわかる!子どものよさを引き出し、個性を伸ばす「教室支援」』(小学館)が好評発売中。
井上賞子さん:島根県公立小学校特別支援学級教諭
東京大学などがチームで実施するI CT教育の実証研究「魔法のお手伝い」に参加。LDを持つ夫との共著「読めなくてもかけなくても勉強したい」(ぶどう社)などがある。

取材・文/楢戸ひかる イラスト/畠山きょうこ

『教育技術 小五小六』2020年12月号より

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