入学式は不安や緊張を笑顔に変える「最初の授業」

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木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】
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入学式特集:挨拶文例、式の準備から学級開きまで

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

映画「みんなの学校」で有名な大空小学校では、入学式が「最初の授業」。「校長先生のお話」はナシ! 教員の自己紹介は劇団風のパフォーマンス! これによって、緊張な面持ちの新一年生も、式の終わり頃にはみんなが笑顔へと変わるのだそう。大空小OGの木村泰子先生と塚根洋子先生に、当時(2014年頃)を振り返ってもらいました。

木村先生、塚根先生の2ショット

大空小の入学式の目的は「安心してもらうこと」

木村 大空小の卒業式は、子どもたち自身がすべてをつくる、最後の授業です。でも、入学式はそれとは正反対で、新一年生はただ座っているだけ。六年生と教職員がフル稼働します。

塚根 入学式の目的は、一年生に学校は安心できる場所だと認識してもらうことです。同時に、大空小のリーダーである新六年生がデビューする日でもあります。

一年生と六年生はそれぞれペアになっていて、一年生に何かあれば、リーダーが自分の考えで自由に動きます。じつは、このペアの決め方に秘訣があるんです。

木村 入学式を安心できる場所にするために、大空小では就学前の子どもが初めて学校にやって来る就学時健康診断の案内役を、五年生が担当します。そこでペアを組んだ子ども同士が、入学式で再びペアを組むことになっています。

塚根 そこがポイントなんです。就学時健診の案内役を子どもがやる学校は結構ありますが、たいていはその年度の六年生が担当してしまう。

木村 就学時健診で、五年生が来年度入学してくる園児と、顔と名前が一致する関係をつくって、「入学式、待っているから安心しておいでね」って別れます。入学式では、顔を知っている姉ちゃん兄ちゃんが、「おめでとう」って門で迎えてくれます。

だから、安心するんです。リーダーとしてデビューする新六年生の側も、一度顔合わせをしているから安心できるんですね。

このペア決めにおいては、合理的配慮をしています。サブリーダー(五年生)たちに、「今度、就学時健康診断というのがあって、来年一年生になる子が来る。

初めて学校に来る日だから、この日が一番大事やねん。この日に安心できる学校だと思うか、行きたくないと思うか、それは、あんたらにかかってる」と伝えていました。

□ 一緒に行こうと手をつないでも、しくしく泣き続ける子
□ 一緒に行こうと手をつなごうとすると嫌がって逃げる子
□ 素直に手をつないで一緒に行く子

そして新一年生にはこの3タイプがいるとして、自分はどのタイプの子を担当したい?と、五年生に尋ね、選ばせました。その上で健診前に特別支援教育コーディネーター等が各園を回って、園児の情報を入手し、どういうカップリングにするのかを考えました。

しんどい子は二人の子で担当するとか、そういう配慮を細やかに行います。健診当日は、自分が選んだ相手と出会うわけですから、言い訳や文句は一切出ず、最後まで責任を持ちます。

木村先生

木村泰子
きむら・やすこ。映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子どもの学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』(小学館)ほか。

塚根 だから入学式では、六年生たちはみんな、自尊感情を高めてよい顔をしていますよ。

木村 大空小には、ASD、知的障害、ADHDといった診断をされている子がたくさんやって来ます。だから当然、騒がしい一年生もいます。でもその子には、その子のことを理解しようとするリーダーが寄り添っています。

ある年の入学式、自閉症スペクトラムの一年生が突然、「ぎゃーっ!」と言って席を立ったんです。他の一年生はみんな、「この子は悪い子や」という表情でその子を見ました。

だから私は、「みんな、なんで今、びっくりしてお友達の顔を見たの? あのお友達はきっと困っていると思うよ。それは、長い話をしてる私に原因があるねん。みんなも早くお話が終わったらいいと思って困ってたやろ」って言いました。

その話の途中、その子のバディである六年生がさっと駆け寄って、その子に何か伝えたと思ったら、自分の席に連れて行き、膝の上にちょこんと座らせました。その一年生はその後、身動き一つせずに最後まで話を聞いていました。

塚根 教師が動かなくても、子どもたちが動いて、たいていのことは解決してくれますね。それなのに、多くの学校では、そういう子に教師がぴったりはり付いて邪魔すんねん。

塚根先生

塚根洋子
つかね・ようこ。2006年の大空小学校開校から9年間、同校教諭として過ごし、大空小独自の科目「ふれあい科」の創設にも深く関わった。毎朝、納豆トーストでパワーチャージ!

木村 大空小では先生は誰も動かない。だから子どもが動く。そして、その姿を初めて来た保護者や地域住民たちが見ます。

説明しなくても、子どもの事実ほど、大人の心を動かすものはありません。だから大空小の教育は地域に認められて、根を張っているのだと思います。

―教職員が猛練習して臨む「大空劇団」のパフォーマンスが、素晴らしいそうですね。

木村 音楽が流れる中、教職員が一人ずつフロアに走り出て自己紹介していきます。私の自己紹介は、「てっちり大好きな木村泰子です♪」。

自己紹介が終わったら、教職員による「ザ・コンサート」が、振付とともに始まります。区長が来ていたら、「区長、見てる場合ちゃう、一緒にやり」と舞台に引っ張り出します。

新一年生は、目が点になりますよ。でも、比較対象がないから、学校はこういうものだと思う。そして、教職員がみんな笑っていることに安心します。先生の看板をぶら下げたままでは絶対にできません。全員、笑うしかないんです。

塚根 これが盛り上がるんです! 「式」という空気感ではないからやろうね。

全教職員を代表して校長が行う最初の授業

木村 入学式は初めての授業です。教職員を代表して、校長が授業をします。大空小の入学式では「校長のお話」ではなく、最初の授業なんです。私は校長時代の9年間、毎年同じ「クマさんとウサギさん」の授業をしました。

▼「クマさんとウサギさん」あらすじ

とある森の中。一年生になったウサギさんは、お母さんにおつかいを頼まれる。行先のおばあちゃんの家は川の向こう。ウサギさんが川まで来ると、橋がない。丸太ん棒がかかっていたので渡っていると、真ん中辺りまで来た時、反対から大きなクマさんが渡ってきた……。

木村 「ウサギさんの目の前まで、クマさんが来てんやんか。クマさんは、ウサギさんをどうしたと思う? ウサギさんは、クマさんの前でどうしたと思う?」。

これが授業なんです。一年生の発想は柔軟で面白いですよ。「丸太ん棒の裏側につかまりながら見えないように行った」「川にはまった」「反対を向いて逃げた」など、いろんな意見が出ます。

そして、「ねえ、この話の続きをするね。ウサギさんはすごく怖いと思ってたやろ? そしたら、クマさんがウサギさんを抱っこして、川の向こうまで渡してくれました」。子どもたちはそれを聞いて、ほっとしたような反応をします。

「ウサギは弱者でクマはいじめる側」という先入観を、大人でもみんな持っていますよね。だから、「クマがウサギを助けたよ」という発想はなかなか出てこないのが、今の社会です。

その後、「ねえ、大空小学校にもクマさんたちがいるよ。紹介するね。大空小学校のクマさーん」と呼んだら、六年生が登場するわけです。ここから、六年生が一年生と一緒につくる入学式に変わります。六年生がMCも担当します。

大空小は、低・中・高学年にチーム分けしていて、低学年のリーダーは二年生です。ここで二年生も出てきて、歌を歌ったり呼び掛けたり、メダルを胸に掛けてあげたりします。その目的は、一年生に安心してもらうこと。それ以外ありません。

撮影/西村智晴 構成・文/長昌之

『教育技術 小一小二』2019年4月号より

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