【木村泰子の「学びは楽しい」#22】2023年をふり返って~ある授業で出合った子どもたちの言葉から~

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第22回目。今回は、この1年で一番印象に残った授業を紹介しながら、2023年をふり返っていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

学びは楽しい イラスト
イラスト/石川えりこ

なぜ子どもたちのつらい事実がなくならないのか

2023年も終わりに近づきました。先生たち、学びを楽しんでいますか。

メディアが教員の世界を「ブラック企業」だの「教員のなり手がいない」だのと報道すればするほど、学校現場は窮地に陥っているように感じます。何よりも子どもがその報道をどのように受け止めているかを想像すると、何一ついいことはないでしょう。少し立ち止まって、この機会に2023年の1年をふり返りませんか。

私の学びはこれまでとは大きく違い、全国のみなさんとご一緒に様々な学びをさせていただきました。自分でも驚くほど、毎日のようによく動いています。そして、行くところ行くところで、子どもたちに向き合っている先生たちとつながっています。どこでもみなさん必死で「自殺・不登校・いじめ」過去最多の子どもの事実をなくそうと行動されています。それなのに、なぜ、残念なつらい子どもの事実がなくならないのか、私たちは今ふり返る必要があるでしょう。

「受ける研修」から「求める研修」に

「教える授業」から「学ぶ授業」への転換が求められている今、研修も当然、転換が必要です。このことを私自身が目的にし、ブレないで研修をしようと試みてはいるものの、なかなか目的を達成できていない現実があります。もちろん、私自身の力不足が原因でもあると思いますが、それを棚に上げて語らせてください。

「求める研修」のためには、自分の言葉で語り合う対話が不可欠です。しかし、研修会場で問いを投げかけるのですが、みなさん、自分の言葉で語ることに不慣れというか、発言を躊躇されます。どうしてなのでしょうか。

教員研修も管理職研修も同様の空気が生まれます。みんなの中で、自分の考えを語る経験をもってこなかったのではないでしょうか。自分の言葉をもたない限り、「求める研修」にはなりません。これは子どもの授業でも同様のことが言えます。先生たちが自分の言葉で語るという当たり前を経験してこなかった弊害が子どもとの授業に表れているのではないでしょうか。

小学校からまずは変わらなくては!

今年も様々な学校で授業をさせていただきましたが、一番印象に残った授業を紹介します。ぜひ、共有してください。

県立高校の定時制の生徒たちとの授業です。教室に入ると、みんな伏し目がちに、それぞれに1人で座っていました。(やる気ありません、無気力です……)を態度で表しているように感じました。

今日のテーマ「自分の言葉で語る」を伝え、自分の言葉は自分の中にしかないこと、この授業に正解はない、「パスの権利」も同等にあることを伝えたのですが、誰も語ろうとしませんでした。

しかし、ほんの少しほぐれてきたころに、「『ふつう』の向こう側にある言葉はどんな言葉が出てきますか?」という問いを投げかけると、これまでの生徒たちの表情とは打って変わって、次から次に残念な言葉が飛び出しました。「特別・異常・へん・特殊・気持ち悪い・普通じゃない・変わってる」などです。そうしているうちに90分の授業は終わりました。

授業後に生徒たちが書いた自分の言葉を紹介します。

〈授業を終えた自分の考え〉

・なんだかわからないけど泣けてきた。人にはそれぞれに言葉があることを知れてよかった。

・小中学校でしみ込まれた「人に合わせる」という意識を今から変えていこうと思った。

・生徒に寄り添ってくれる大人が増えたらいい。

・周りを気にして自分が本当に思うことを表に出さないようにしていた昔のことを思い出し、自分の気持ちを尊重し、「積極的にかたっていいんだよ」と思わせてくれた。

・小学校の時にああいう先生がいたらよかった。

・全員の先生に聞いてほしい。威圧的で否定ばかりの先生もいる。個性を個性と認めない先生もいる。「お前頭おかしいんじゃないの」「だからお前嫌われるんだよ」自分が言われなくても言われる子が苦しんでいる様子を見るだけで、言われないようにしようと自分を出さないできたが、今、隣にいる人を尊重できる人になりたいと思った。

・周りに気を遣ってばかりではなく、自分のこともちゃんと考えようと思った。

・自分の言葉と言われて、最悪な言葉しか思いつかない自分にショックを受けた。

・小学校でオタクと言われ、いじめられ、先生もそれを無視だし。人?クソすぎって思っていて、今もそうだがちょっと考えを変えよう。

・自分を大切にしたいと思った。

・今までは言われたとおりにしないと迷惑がかかると思い込んでいたが、時代は変わってきてる、そんな考え捨てろ!と言われた瞬間に楽になった気がした。

・その人の特性をその人らしさや良さととらえることの大切さを改めて感じた。

・人は周りの影響を受けて個人をつくりあげていくものだから、子どもという吸収しやすい時代に影響を大きく与える教師という職業は責任が重い。

・体験が重なり主体的に動けなくなる教育のデメリットと自分で考えさせ行動させる教育のメリットについて考えさせる授業だった。

・ルールを守ることも大切だが、それ以上に主体的に動けない、自律できないのはこれからの社会では言われたことをするより大切だ。

・自分の小学校の時と全く違う考えをもっている人だった。

・人はやり直せるんだ。

どうですか?

読者のみなさん、学校生活の中で、「自分の言葉で語る」子どもが育っていますか。
冬休みにしっかり問い直しませんか?

〇「自殺・不登校・いじめ」過去最多という事実がなぜなくならないのか、1年をふり返って改めて考えてみよう。
〇「受ける研修」から「求める研修」へと転換させるため、先生自身が自分の言葉をもって語り合おう。
〇目の前の子どもたちが「自分の言葉で語れる」子どもに育っているか、自らの授業を問い直してみよう。

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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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