先生が子どもを「怒鳴る」ということ
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- 大切なあなたへ花束を


学校や学級を経営していく中、みなさんは毎日ままならないことと直面しているのではないかと思います。子どもが言うことを聞いてくれないときや、あなた自身に心の余裕がないとき、思わず声を荒らげたり、大きな声を出してしまうこともあるのではないでしょうか。それで子どもが言うことを聞いたとしても、意味はありません。と宮岡先生は語ります。宮岡先生は木村泰子先生に師事し、現在は「みんなの学校マイスター」として講演活動や各校の支援で大活躍中です。
【連載】大切なあなたへ花束を #15
執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子
学校で、こんな場面を目にしませんか?
それは私がスクールサポーターとしてお手伝いしている、ある小学校での出来事でした。
「おまえら、そこは、上靴で行ったらあかんところやろ!」
校舎の2階から中庭に向かって、大きな怒鳴り声が響きます。声の主は、中年の男性の先生。
中庭にいた4・5人の子どもたちは、あわてて、校舎の中へ入ります。
でも、1人だけ、そんな声などお構いなしに遊んでいる子がいました。特別支援学級に在籍するAさんです。
怒鳴った先生は、それがAさんであると認めると、もう何もすることはありませんでした。
怒鳴った先生からは陰になっていて見えなかったのですが、Aさんのそばにはもう一人、先生がいました。Aさんを受け持つ特別支援学級の担任の、優しい女性の先生です。中庭で遊び回る子どもたちに「そこは上靴で行ったらあかんから、早く教室へもどっておいで」と声をかけていたのです。
でも、子どもたちは、言うことをきかず遊んでいたのです。
そこに大きな声で別の先生から怒鳴られ、子どもたちはスゴスゴと、Aさんを残して教室に戻って行きました。
こんな場面、学校でよく見かけませんか?
言うことを聞かない子どもたちに、いわゆる「怖い」とされる先生が声をかけたら、言うことを聞くということが。
そして、この怖い先生は、自分が「指導力がある」と思い込んでいたりしませんか?
こうした、とんでもない勘違いがまかり通っていたりします。
子どもたちは、恐怖心で従っているだけなのです。
そして、子どもたちは、
「優しい先生の言うことは聞かなくてもまだ大丈夫。怖い先生やったら、怒鳴られるから仕方なしに言うことを聞こか」
となってしまっているのではないでしょうか。
ところが、特別支援級のAさんは、怒鳴り声を全く意に介さず、自分のやりたいことを上靴のまま続けています。
Aさんには、いくら怒鳴っても無駄。
さあ、そうなると、怒鳴る先生はどう思うでしょう?
Aさんが他の子どもたちと一緒にいたら、自分の指導力がないと思われるんじゃないか。
他の子と切り離して、別の教室に行かせるほうが秩序が保てる。
そうして子どもを隔離することを、表向きには「Aさんのため」と言ってはばからない。
まったくもって、おためごかしです。
社会性を学ぶためにも、特別支援学級で個別に学ぶことが必要だと考えてしまう大人が学校にはたくさんいます。
しかし、ソーシャルスキルや社会性を学ぶためには、通常の学級で多様な友達とつながることが何よりの学びだと実感しています。
子どもと子どものつながりの中で、失敗を経験し、どうしたらよかったのかを考えることができるのです。
さて、少し時間を巻き戻しましょう。なぜ、Aさんや他の子どもたちは、上靴のまま外に出て怒鳴られるという事態を引き起こしてしまったのでしょうか。
実は、Aさんはこの事態の少し前、所属する一般級でトラブルがあって、教室にいるのがしんどくなり、運動場へ飛び出していたのです。
そこに特別支援学級の担任が寄り添い、Aさんといろいろな話をしていたのでした。
そして少し落ち着いてきたAさんが教室へ戻ろうとしたとき、校舎の窓を外側から洗っている、管理作業員さんの姿が目に入りました。
折しも、体育の授業を終えた子どもたちが、校舎の廊下を歩いていました。
外側からガラス窓に水がかけられる様子は、校舎の中の子どもたちにとっては見えない壁に水がはじかれているかのよう。みんなはしゃいでいます。
それを見たAさん、管理作業員さんの真似をして、窓を水洗いし始めました。
すばらしいのは、この管理作業員さんです。
なんと、「手伝ってくれて、ありがとう」とまで話してくださったのです。
自分がやった方が早いと感じておられたことでしょう。
「邪魔だからあっち行っとき」と追い払われても仕方のないことです。
でも、作業員さんはモップで拭いたあとには、Aさんにホースでの水かけを促し、こんどはご自分が水をかけ、Aさんに拭き掃除を促し…と、微笑ましい共同作業の姿を見せてくれました。
教員にとって、こんなに嬉しい景色はありません。
受け入れてくれたことをAさんも分かったのでしょう。
やりがいを感じて、嬉しそうに
「高いビルの窓掃除をする人になろうかな? おもしろそうや」
と話をしていました。
身体に似合わぬ大きな業務用のモップをAさん扱うのを見て、何人かの子どもたちも楽しそうに感じ「ぼくもやりたい!」と外に出てきたのです。Aさんが上靴のまま外に出ていたので、みんなも履き替えずに出て来たのでした。
そして、そのあとの2階からの怒鳴り声へと話はつながるのです。
この一声で、せっかくの作業員さんの思いやりが、文字通り水に流れてしまった…。そんな悔しい思いを抱かずにはいられませんでした。
こんな場面ではどうしたらよいのでしょうか。
子どもの、よくない行動を見てしまった。それを即座に正したい気持ちは分かります。
しかし、問題行動をする子どもには、やっぱりその子なりの理由があるのです。
一般の社会に置き換えてみれば、突然怒鳴られるということは、まずありません。
自分の目の前にいるのが子どもだから、学校の中だから怒鳴っているのではないでしょうか?
まずは、その理由を聞いてあげてほしいと思うのです。
「なんで上靴でいってるん?」と。
そして、その理由を理解したうえで、優しい先生の言うことを聞かなかったのは良くないことだと、ぜひとも教えてほしいのです。
「優しく注意されたら聞かへんけど、厳しく注意をしたら聞くというのは違うで」
と。
◇
私が学校で子どもと遊んでいるとき、子どもたちから「怖い」とされている先生が側を通ると、はっきり体をこわばらせてしまう子どもたちの姿を見ることがあります。
学校が子どもたちにとって安心できる場所ではないというのは、私たち教師にとって最も悲しむべきことであり、絶対に改善すべきことだと思います。
来たるべき新年度、皆様の学校は、子どもが安心できる学校になっていくでしょうか。いつもいっしょが当たり前の学校になっていくでしょうか。今こそ問い直したいことです。
イラスト/フジコ

宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。