学級会の「3つの柱」と「3段階討議法」とは【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】⑤

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やき先生の学級活動のとっておき基礎・基本
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宮川八岐

宮川八岐・元文部科学省視学官による「やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本」の連載5回目。今回は、学級会の指導法について紹介します。「学級会の指導法」として長く提唱して多くの研究校などで実践されている「3つの柱」と「3段階講義法」について、その誕生秘話と実践の意義や成果などを、みなさんと一緒に考えてみましょう。

執筆/元文部科学省視学官・宮川八岐

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「3つの柱」と「3段階討議法」とは何か

「3つの柱」「3段階討議法」とは、学級会が可能な限り児童の手によって効果的に展開できるようにと考えて、提唱してきた指導法です。まとめると次の図1のようになります。

3つの柱と3段階論技法の図
図1

(1)「3つの柱」とは

「3つの柱」とは、学級会で、例えば「クイズ大会をしよう」という議題で話合いをする場合、「3つの内容」で話し合うということです。多くの議題の場合、この形を問題解決の「基本型」とするということです。この形を1年生から積み重ねることで、問題解決力の向上を目指します。かつては、「柱1(何をするか)」と「柱2(役割分担)」などの2本立てだったり、特段柱立てがなかったりというのが一般的でしたが、研修会や雑誌等で上記「3つの柱」を提唱してから徐々に広がっていったように思います。

ただ、「3つの柱」を特に強調し始めたのは、学習指導要領平成20年改訂の頃からです。その改訂前から、いじめ問題などが多発して大きな教育問題になり、道徳教育の一層の充実が求められ、特別活動では、「決まりを作って守る活動を重視すること」が課題として明記されました。それで、そのことに対応して何ができるかを考えたわけです。

そこで考えついたのが、それまで千葉県八千代市立大和田小学校などでコツコツ実践し、成果が出ていた指導法をこれからの実践課題として声高に提唱していこうと考えました。それが、「柱1(何をするか)」を決めて、「柱2(役割分担)」をして、“さあ、やろう”ではなく、「柱1(何をするか)」の後に、「柱2」として(どうやるか)を、つまり、新たに「柱2(どうやるか)」を挿入すれば「規範意識を高める指導の工夫」になると考えたのです。

柱2は例えば、1年生であれば「どんな約束があったらいいか」、中学年以上であれば「どんな工夫ができるか」や「盛り上げる工夫を考えよう」といった柱になります。

この「3つの柱」は、国立教育政策研究所刊行の「特別活動 指導資料」(平成26年)で例示してから、各種研修会や学校等で取り上げられ、実践が一層全国的な広がりになったように思います。

(2)「3段階討議法」とは

先の図1の通り、柱ごとに(出し合う)→(比べ合う)→(まとめる・決める)の段階で話合いを進めるという形です。いろいろな案を出している途中に反対意見や質問、賛成意見などが入り交じってしまうと、話合いが混乱して生産的な話合いや結論に至らないので、まずは、案を出し切ってから意見交換をし、収束させていって結論に導くという段階を区切って話合いを進めるという方法なのです。

図1では、柱1の②から柱3の⑨までを線で囲っていますが、それは、柱3本を時間内で解決するのは難しいという声に対して、柱1の①(出し合う)を事前に行っているためです。前もって計画委員が案を集めておいて、学級会当日の朝の会で提示し、説明・質問などを済ませておき、学級会の時間になったら、柱1に貼ってある案の短冊について(比べ合う)から話合いを開始するという工夫です。

論点を明確にし、できるだけ多くの児童の思いや願いを出し合って、少数意見を尊重し、折り合いを付けながら、合意点を見いだす話合いを目指させるのです。学級会独自の話合いの特質を「自分もよく、 みんなもよいことを決める話合い」と捉え、これを合い言葉にしてきました。

そうは言っても授業研究会では、常に②から⑨まで時間内に解決できるかと言えば、なかなかそうはいきません。これまでの研究授業のタイプを見ると、<Bを理想型>としながらも、A(①~⑨)は5%以下、B(②~⑨)は70%近くで、C(②~⑦)は15%、D(②から⑥)は10%程度といったところです。      

(3) それは「いつ」「どのように」誕生したか

やき先生は、昭和50年代に2回1年生を担任しましたが、そのときに司会をしていて、その必要性に気付きました。「小鳥かごをどこにおくかきめよう」の議題で話し合ったときに、いわゆる「3段階討議法」の必要性に気付き、「みんなが使ってよいかべの使い方をきめよう」の議題で話し合ったときに、「3つの柱」で話し合うことの必要性に気付いたのです。

前者の議題は、次のようにして生まれました。ある保護者が「先生、インコがたくさん生まれたので教室で飼っていただけませんか、子供たちのためにも……」とインコを持ってきたことから、教室の南窓に沿って置いてあった長テーブルの上に金魚の水槽と並べてかごを置くことにしたのです。するとある日、女子児童が「先生、インコが私のそばでピー、ピーうるさいの。どこかに移してほしいの!」と訴えてきたのです。「どこがいいか」を出し合っていると、ある児童が「先生の机の上が何もないので先生の机の上に……」と発言すると、別の児童から「それじゃあ先生が仕事をするとき邪魔に……」という意見が出て、そこから意見がいろいろ錯綜し始めるわけです。

そこで司会のやき先生は、「今は、気付いたことをまずは出し合い、出し切ったところで賛成や反対など出し合いましょうか」と言いました。このときが「3段階討議法」の始まりでした。

カナリヤイラスト

後者の「みんなが使ってよいかべの使い方をきめよう」は、お楽しみ会系以外の議題にも目を向けさせようと考えたことから生まれた議題でした。「どんなものをはるとよいか」と「やくわりをどうするか」だけでなく、1年生であっても「使い方のやくそく」を話し合うことが大事ではないかと考えて柱2に入れたのです。この議題による「3つの柱立て」の学級会の授業は、当時の勤務校の重点課題(生徒指導)研究における校内授業研究会で提案したものです。

(4)「本実践の成果」と広がり

やき先生が、「3つの柱」と「3段階討議法」の指導法について研修会や授業研究会で強調し始めたのは、しばらく年月がたってからのことでした。特に、文部省(現文部科学省)の調査官になり、当省刊行の「初等教育資料」や各種雑誌等に実践事例を意図的に紹介するなどしながら、様々な講演会でも取り上げるようにしてきました。

話し合うことの板書例

実践者を増やしていきながら、平成7年から大和田小学校の研究の指導に継続的に関わるようになって、上記指導法が学校としての基本型として徐々に成果が出始めた頃から、「大和田小学校の実践研究の成果」として、全国的に広めるよう機会を捉えて紹介するなどしてきました。当校は、学級活動の実践研究を学校重点課題に掲げて今年31年目になります。長い間、1年おきに「自主公開研究会」を行ってきており、参加された多くの教員、出版社、新聞記者等の方々によっても広がっていきました。

やがて平成23年7月には、『やき先生の特別活動講座:学級会で子どもを育てる』(文溪堂)を出版し、学級会の指導「3つの柱」と「3段階討議法」の意義と実践を解説しました。その後、文部科学省において「平成20年改訂学習指導要領の意義に関する検証」の一環として行われた「言語活動の充実に関する意見交換会」においては、栃木県の大荒れの学校の正常化の事例を報告しています。その学校の実践の中心的な取組が、学級会の指導の「3つの柱」と「3段階討議法」でした。

やがて、前述した国立教育政策研究所から「特別活動 指導資料」が平成26年に刊行されました。その中で紹介されているのが学級会の議題「どうぞよろしくの会をしよう」で、「3つの柱」の展開例であり、指導過程として「3つの段階」が例示されたことから、一層全国に広がっていったように思います(現在の改訂版でも同様の扱いとなっています)。

そして、学習指導要領平成29年改訂に関わる中央教育審議会特別活動ワーキンググループの資料として、学級会の指導充実を通して正常化を図った2つの事例「①栃木県の大荒れの小学校の実践と成果(学習状況調査結果、学力テストの成績データ)と、②埼玉県内小学校の増加していた不登校児童数が学級会の指導充実で大幅に改善されたデータ」が配付されました。それらの学級会の指導法の実践の成果を踏まえて、『中学校学習指導要領解説【特別活動編】』の〔学級活動の内容の取扱い〕の(1)に「(略)集団としての意見をまとめる話合い活動など小学校からの積み重ねや経験を生かし、それらを発展させることができるよう工夫すること。」が明記されたのです。

上記①②の学校の取組について加筆しておきます。いずれの学校も平成21年度から学級活動の実践研究に取り組み始めており、特に、ア「年度初めの学級経営・学級活動をどうスタートするか」と、イ「学級会の指導法の基本型」を1年生から一貫した指導に取り組むようにした結果、生まれた実績でした。

ただ、なぜ「3つの柱」と「3段階討議法」なのかやこれらの一連の取組の経緯や成果、中学校の改訂で強調された課題、加えて、これまで紹介している指導法などによる小中一貫の学級活動に取り組んでいる学校の成果などが全国の学校、先生方一人一人に伝わっていないことが至極残念でなりません。

求められる「学級活動の研修の機会」

毎年のように学級活動の研究に取り組もうという学校が生まれますが、「どうして、もっと早くこうした研修の機会に出合わなかったのか」とおっしゃる先生方がいらっしゃいます。教員免許法では教職科目における特別活動論が必修扱いになってこなかったこと、多くの教育委員会の研修計画に特別活動が設定されていないこと、特別活動を学校の重点課題研究に掲げている学校は極めて少ないということなど、「望ましい集団活動としての学級活動の指導法(基本型)」について学ぶ機会がないというのが実態でしょう。個人的に研究会などに参加して勉強することになるわけです。しかし、それでは、学校としての積み上げができず、学級社会における豊かな生活づくりの実践的態度を育てることが難しいのです。

そこで、最近は「次のような研修の機会を検討してはどうですか」と話すようにしています。いずれも実践事例です。

・これまで自校が「学校の重点課題研究」として特別活動を取り上げたことがない場合は、その必要性を学校評価等で提案する。
・学校の重点課題研究は別の教科等であったとしても、「実技研修」の1つとして学級活動の授業研究を研修計画に組み入れる。
・「校務分掌の特別活動部」の取組として学級活動の授業研究会を実施する。
・「学年研修」として学級活動の研究授業を行う。

まとめ

今回の内容で、特別活動指導資料で取り上げられている学級会の指導法がどのような経緯で誕生したか、学校を挙げて取り組むことでどのような成果が上がるかなど、ご理解いただけましたか?

学校で「子供を育てる」という場合、学校として1年生から6年生までの一貫した指導法(基本型)を全教師が共有することが必要です。そのためには、学校内授業研究会を通して共通理解を図るようにすることが欠かせません。個々の教師が独自の指導をしていると、学年が変わるたびに違った指導で児童は混乱するばかりで、問題解決力の積み上げはできないからです。

さて、次回は「係活動の指導」を取り上げますので、お楽しみに。

宮川八岐(ミヤカワ・ヤキ)

宮川先生イラスト

埼玉県公立学校教員、教頭、草加市教育委員会、草加市立氷川小学校長を経て、平成6年から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官(主に特別活動、生徒指導、学校図書館等)に。平成12年から同局視学官。平成16年度国立妙高少年自然の家所長、平成17~20年度まで日本体育大学教授、平成21~27年度まで國學院大學人間開発学部教授を務める。

構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

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