子どもは未完成な大人? 何でも指示命令するのが正しい学校教育なの? ー伝えたい、私の子ども観ー 

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あなたは、一人の教員として、子どもとはどんな存在だと思っていますか? 経験が少ないから、何でも教えて導くべきでしょうか? 正しい行動をさせるためには、脅しや命令も必要でしょうか? 日々の仕事の中、迷うことも多いのではないかと思います。そんなとき、宮岡愛子先生の言葉に耳を傾けてみませんか? 木村泰子先生に師事し、現在は「みんなの学校マイスター」として講演活動や各校の支援で大活躍中です。 

【連載】大切なあなたへ花束を #06

執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子

もっと指導しなければ、と思うのは…

「めっちゃ、自分らで考えて、やりきることができて、なんか楽しかってん」

これは、私が6年生を担任していたとき、クラスでリーダー的存在だった子どもが伝えてくれた言葉です。それは、卒業前の参観で、自分たちの6年間を振り返る劇を保護者に披露した後のことでした。
この劇は、1年生チーム、2年生チーム…といった感じで子どもたちが6つのチームに分かれ、それぞれのチームが各学年で思い出深かった出来事を選び、劇になるように考えていく、というものでした。
担任である私が一人で、それぞれの学年に分かれたチームを見ていきます。
しかし、子どもたちにとっても私にとっても初めてのことで、どのチームの劇もなかなかうまくいきません。

私は、子どもたちにきっちりとさせることに一生懸命で、色々と口うるさく言ってしまっていたと思います。何とか形にして、やらせきることが自分の役割と思っていました。
しかし、私一人で全チームを見ることは難しく、難航しているチームに時間がかかり、その他は放ったらかしで、子供任せになってしまいました。
私はずいぶんと焦っていたのですが、その反面、子どもたちはどんどん自分たちで考えていくようになりました。
発表の当日、次々に発表していく子どもたちの姿をハラハラして見守っていましたが、どのチームもそれなりに形になっており、次第に安心感を覚えました。
しかし、大人の目から見ると、アラが多いことも確かです。
「もう少し、みんなを見てあげられたら良かったな」
という残念な気持ちも湧き出てきました。
でも、全てが終わったとき、子どもたちの顔は満足した笑みで輝いていました。
そして、最初のリーダーの言葉が聞けたのです。驚きました。

子どもたちは、自分たちで考えて行動することが楽しいのです。
失敗しても、それを生かしていこう、と考えることができるのです。
大人が入らないことで、子ども同士のつながりは一層深まるのです。

私はハッと気づきました。
「もっと指導しなければ」と思うのは、私が私自身の評価を気にしているからであり、保護者の目を気にしているからだったのです。
子どもは、自分たちでやりきったことで100点満点、いやそれ以上の満足感を持っていました。

それから、できるだけ子どもたちに任せるようになったことは言うまでもありません。

みなさんは、どんなふうに子どもたちを捉えていますか?
子どもは一から十まで教えなくてはならない存在なのでしょうか?
子どもには何でも指示をしないと動けないのでしょうか?
校則を細かく決めて、それを守らせないと子どもは悪くなっていくのでしょうか?
授業の前に「起立、礼、気をつけ」とあいさつをしないと子どもは切り替えられないのでしょうか?
授業中に立ち歩いていたら、それは自分勝手なことをしているということでしょうか?
あなたは、どう思いますか?

そしてあなたは、あなた自身のことを、どう捉えていますか?
先生は、子どもに何でも指示をすべきなのでしょうか?
子どもに号令をかけて動かすことは、正しいのでしょうか?
子どもに「それをやったらこうなるよ」などと脅してもいいのでしょうか?
子どもに伝えるためなら、命令口調や高圧的な態度でも良いのでしょうか?

大人は言います。
「指示がなくて動けなくなったら、どうするん?」
「校則を決めてなかって、ルール違反があった時どう答えるん?」
「勝手なことをする子どもが増えたらどうするん?」 
「授業と休み時間は区別しなあかんやろ」
「自由に立ち歩いて意見を求めたら、勝手なことをし始める子どもがいるやろ」
などなど…。
あなたも頭の中でいろいろなことを考えていませんか?
そして悩んだ挙げ句、最後には
「そうなったら、子どもが困るんです!」
と強い態度をとる決断をするかも知れません。
果たしてそれでいいのでしょうか? そんな先生と学校で一緒に過ごす子どもたちは、安心できるでしょうか?

子どもは、自分で考えて、行動できるものすごい力をもっています。子どもには全部指示を出さないと動けないというのは大人の思いこみです。
確かに子どもは大人に比べて知らないことがたくさんあります。
それは、生まれて来て、まだほんの10年程度しか経っていないのだから、当たり前のことです。
だからといって、あらゆることを教え込まないといけない、というのは大きな間違いです。
子どもは、「未完成な大人」ではありません。毎日、その一瞬一瞬で、自分らしく成長を重ねているのです。だからこそ、学校に安心できる自分の居場所があったなら、子どもはどんどん自分で考えて行動していきます。その中で失敗しても、またやり直せばいいのです。いや、子ども時代の失敗は失敗ではなく、「今度は、こんなふうに違う方法でやってみよう」と思える経験が増えるだけです。そこから次に生かせる力が身についていくのです。私たち大人の役目はどんな子どもであっても安心できる場所をつくり、子どもが自分らしく成長する力をつけていくことではないのでしょうか?

振り返ってみると、私たち大人も、みんな昔は子どもだったのです。
あなたも子どもだった頃、自分で何かにチャレンジし、それをやりきることができたら嬉しかったし、もっとやろう、と思いませんでしたか? 自分が、大人に少し認められたら嬉しくなかったですか? 言われたことをやっているだけでは、つまらなくなかったですか?

私たち大人は、もっと子どもを信じ、子どもの持つ力を信じて、任せていけばよいのです。そんな子ども時代を過ごしてこそ、自分に自信がつき、将来に希望が持てるものです。

チャレンジすることを楽しみましょう

保護者から、子どもたちにどんどん指導をして、指示を出してくださいと言われることもあると思います。そんなときは、
「これからの時代はVUCA(ブーカ)の時代だと言われています。これまでの時代には想定できなかったようなことが起こりますし、人々の多様性を認めていくことが求められます。だからこそ、自分たちで考えて行動すること、子ども同士のつながりを深めることが何より大切な学びになります」
と言い切ってよいと思っています。

(※VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉)

私は、子どもたちが安心できるようサポートをする、出す指示や号令はできるだけ少なく、なくせるものはなくしたいと考えてきました。
ですから、整列をするとき「静かにしなさい」という指導や、「気を付け、前にならえ、なおれ」と言う号令をかけませんでした。
授業を始めるときも「一緒に授業を作りましょう」という思いがあったので、「起立、礼」とは言いませんでした。
その一方、校長になった後の私は、教職員に私の考えを無理強いすることなく、「子どもたちへの指示や号令はやめましょう」というような指示は出しませんでした。
そしたら、ある日、教務主任が児童朝会で子どもたちに伝えたのです。
「私は、いっさい前にならえやなおれを言いません。なぜなら、あなたたちはここに話を聞きに来ている、その目的をわかっているから集まっているのです。きちんと並ぶことより話を聞くことが大事」
と言う話をしてくれました。
びっくりしました。でもうれしかったです。
この言葉は、列に入らず、クラスとは別の場所にいた子どもたちも安心感をもつことにつながりました。
私は自分一人でそういう空気を作ろうとする態度を示していましたが、それを言葉に出してくれる教員がいて、そこから児童朝会での空気は変わっていきました。
たまに別の先生が、「前にならえ、気をつけ」と指示を出すこともあります。
そんなとき、子どもたちは口には出しませんが、
「この先生、おれらのこと信じてないんかな」
「そんなん、言われんでもならべるわ」
という空気が講堂中にただよいました。こんな風に学校の空気は変わっていくのです。

学校の空気をつくるのは、誰だと思いますか? それは、自分です。
学校の空気は、学校にいる一人一人がつくっているのです。
自分が行動することで空気は変わっていきます。
自分のクラスから、自分の学年から、指示や号令をなくしてみませんか?
子どもを脅すことにつながる言葉を言うのをやめてみませんか?
子どもが主体的に動けるようになっていく、という目的を達成するために行動しませんか?
子どもたちが失敗したらどうしようと、思うかもしれません。でも大丈夫です。失敗しても経験が増えるだけです。それはあなたも同じことです。チャレンジする自分を楽しみましょう。あなたのやっていることや思いは少しずつ広がっていくでしょうし、そう思っている教職員はあなたの周りにきっとたくさんいると思います。何より子どもが行動できるようになっていきます。

最初に伝えた卒業前の劇の取り組みが、だんだんと楽しくなってきたのでしょう。
意欲的になった子どもたちは、「劇の最後に、流行ってる歌を歌いたい」と言い出しました。
相談の結果、この案が採用されました。メッセージ性のあるとても素敵な曲でした、でもなかなかうまくいかず、「やっぱやめよか?」となったとき、子どもたちは原曲のボーカル入りの曲をかけながら、それと一緒に歌う、という選択をしました。
とっても歌いにくかったのですが、いろいろな方法を子どもなりに考えるものだなと思いました。
その曲を聴くたびにあの頃を思い出します。
あのときの子どもたちも私と同じように、その曲を聞いたら、一生懸命に取り組んだあの頃の自分を思い出してくれたらな、と思います。
この記事を書いているとき(2024年11月)に、不登校の児童生徒が過去最多を更新。いじめの認知件数も過去最多、との報道がありました。
今こそ、大人が子ども観を変える時です。

イラスト/フジコ


宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。


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