すべての児童に最善を!「形成的評価」で叶える個別最適化 ~実際の授業場面での生かし方~

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

教育の現場において、「すべての児童に同じ教育を」という考え方に疑問を感じたことはありませんか? 児童は一人一人、個性も学び方もさまざまです。多様化する社会においては、それぞれの児童に合った最適な教育を提供することが求められています。この考え方を具現化する上で、重要な役割を果たすのが「形成的評価」です。一人ひとりの学びの足跡を的確にとらえるのが、わたしたちの仕事です。

【本記事は3回シリーズの第3回です】
前回の記事はこちら
▶︎個別最適な学びのために! あなたも「形成的評価」を指導に導入しませんか?
▶︎児童の評価にぜひ導入したい「形成的評価」。その課題と解決策とは?

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

授業している先生

1 「形成的評価」と個別最適化の関係

「形成的評価」が個別最適化と深く結びつく理由は、以下の点が挙げられます。

<理由1>一人一人の学びの可視化
形成的評価を通して、児童の強み、弱み、興味関心などを詳細に把握することができます。

<理由2> フィードバックの即時性
授業中の観察や小テストなどの結果を基に、児童一人一人の理解度を把握し、即座にフィードバックを行うことで、より効果的な学習へとつなげます。

理由3> 学習経路の多様化
児童の理解度や学習スタイルに合わせて、多様な学習教材や活動を選択することができます。

理由4> 目標設定の個別化
児童一人一人の目標を設定し、その達成度を評価していくことで、学習意欲を高めます。

このように、「形成的評価」と個別最適化は、深いつながりがあると言えます。

2 実際の授業場面での「形成的評価」の手法の深掘り

① 授業中の丁寧な観察

ア 非言語的なサインに注目する
児童の表情、姿勢、ノートの取り方など、非言語的なサインから、理解度や集中度を把握します。
例えば、児童が問題を解いているとき、顔をしかめていたり、眉根を寄せていることがあるかもしれません。それは、問題が難しいと感じているサインかもしれません。また、授業中に自分の考えを書くところで、鉛筆が止まっている児童がいるかもしれません。それは、その部分が理解できていないサインかもしれません。

イ 質問への反応を観察する
クローズドな質問、回答が限定的なもの(YES,NOや計算問題などが最たる例ですね)だけでなく、思考を深めるオープンな質問(なぜそう思うか等)を投げかけることで、児童の思考過程を可視化します。

ウ 個別指導を充実させる
授業中に、理解が遅れている児童には個別に短時間で指導を行い、自信を持たせるようにします。

エ グループワークでの様子を観察する
他の児童とのやり取りや、課題への取り組み方から、協調性や問題解決能力を把握します。

② 多様な評価方法の活用

ア 口頭発表を聞く
発表内容だけでなく、児童の話し方や聞き方からも、表現力やコミュニケーション能力を評価します。

イ 書き込み式のワークシートをチェックする
思考過程や理解度を可視化し、個別指導に役立てます。

ウ 小テスト・ミニテストをして理解度をみる
選択式だけでなく、記述式や口頭発表など、様々な形式の小テストを実施することで、多角的な評価を行います。小テストの結果をすぐにフィードバックし、誤答の原因を一緒に考え、理解を深めるようにしていきます。

③ ポートフォリオを活用

ア デジタル化する
デジタルポートフォリオを活用することで、児童の成長を可視化し、自己評価を促します。

イ 多様な作品に挑戦させる
図画作品だけでなく、プレゼンテーション資料やプログラミング作品など、多様な作品をポートフォリオに含めます。

④ フィードバックの工夫

ア 具体的な言葉で伝える
「よく頑張りました」ではなく、「この部分の考え方はとても分かりやすかったなあ」など、具体的に伝えることで、児童は自分の成長を実感しやすくなります。

イ 改善点も具体的に伝える
改善点も具体的に伝えることで、児童は次に何をすればよいか明確になり、学習意欲が向上します。

ウ 児童の考えを尊重する
児童の考えを尊重し、共感しながらフィードバックすることで、自己肯定感を高めます。

④ 協働的な学習

ア 役割分担をする
グループワークにおいて、それぞれの児童に役割を分担させ、協働学習の機会を増やしていきます。

イ 相互評価をする
仲間同士で互いの作品を評価し合うことで、多様な視点から自分の作品を見つめることができます。

⑤ ICTツールの活用

ア 学習履歴を可視化する
学習履歴データを分析することで、児童の学習パターンを把握し、個別の学習プランを作成します。

イ アダプティブラーニング(適応型学習)を提供する
児童の学習進捗状況や理解度、弱点に合わせて学習内容や難易度を調整するアダプティブラーニング(適応型学習)システムを導入します。

3 個別最適化を実現するための具体的な事例

勤務校の若手教員の4年生の算数の授業を参観する機会がありました。とても活気にあふれていました。大筋の流れを例として紹介します。

4年生算数実践例

授業が始まると、授業者は児童たちの様子をじっと見つめ、一人一人の表情やノートの書き込みに目を向けました。児童は、授業者の問いかけに手を挙げたり、タブレットで考えをまとめたりと、積極的にそれぞれの方法で学習に取り組んでいました。

特に印象的だったのは、授業の導入部分です。授業者は、前時の復習問題をGoogle Formsで出題し、その場で児童の回答状況を把握していました。つまずいている児童がいたら、短い時間でヒントを与えたり、誘導したりして個別指導を行い、図や具体的な例を用いて説明していました。
その間、他の分かっている児童たちは自分で復習をしていました。
このように、児童たちは、授業者とのやり取りを通して少しずつ理解を深めていく様子が見られました。

グループワークでは、活発な議論が繰り広げられました。児童たちは、ホワイトボードに図を描いたり、タブレットで共同編集したりしながら、自分の考えを積極的に発表し、友だちの意見を尊重しながら、より深い理解へとつなげていきました。授業者は、各グループを巡回しながら、適宜アドバイスをしていました。

授業の最後には、今日の学習内容を振り返る時間を設け、児童たちは自分なりの言葉でまとめたり、疑問点を共有したりしていました。授業者は、これら児童一人一人の振り返りを丁寧に聞き取り、励ましの言葉をかけていました。また、一人一人の成長を丁寧に記録していました。

この授業を通して、児童たちは単に問題を解くだけでなく、自分のできる方法で図形の世界を探求していく楽しさを味わっているようでした。授業者は、児童たちの学びをサポートしながら、一人一人の個性や興味関心を引き出そうとしていました。

このように、本事業では、ありとあらゆる場面において「形成的評価」を意識した工夫をしていました。こういった取り組みが長期間継続することで、児童たちは、算数に対する苦手意識を克服し、積極的に学習に取り組むようになっていくと考えられます。
また同時に、授業者は、児童の一人一人の個性や学び方を把握し、より効果的な指導を行うことができるようになっていくと考えられます。

4 徹底的な教材研究と、効果的な机間指導を

3に示した授業で実践された「形成的評価」は、単に学力を測るだけでなく、児童たちの学びに対する意欲を高め、主体的な学習者を育成するための重要なツールとして位置づけられていました。授業者は、児童たちの様子を注意深く観察し、適切な支援を行うことで、一人一人の成長を促すことができるのです。

ここで重要なのは、言うまでもないことですが、徹底した教材研究です。児童の理解が不足していたらどうするか? どこを評価するか? 軌道にのったら、どう展開するか?
など、単に教材を把握するだけでなく、児童の教材への向き合い方や導き方をしっかりシミュレーションしておきましょう。

そして、デジタル的に児童の学習経過や達成率を把握する方法を取り入れながら、決して黒板の前に立ったままではなく、教室を縦横無尽に動き回って児童の学習実態を把握していきましょう。
つまり机間指導の質が重要です。

また、教員の指示や課題に向かって、全ての児童が学習に取り組んでいるかを細かく確認すること、そしてその学習成果が出ているものなのかを日常的に把握することが大切です。

こういった「形成的評価」の感覚が、「個別最適化」につながっていくものであると考えられます。

形成的評価は、単なる評価にとどまらず、一人一人の児童の成長を促すための重要なツールです。授業者は、様々な評価方法を組み合わせ、一人一人の児童に合った指導を行うことで、学びを最大限に引き出すことができます。これからの教育は、さらに個別化、多様化していくことが予想されます。形成的評価を軸とした教育は、そのような社会で生きる児童たちを育てる上で、不可欠な要素と言えます。

【本記事は3回シリーズの第3回目です】
前回、前々回の記事はこちら
▶︎個別最適な学びのために! あなたも「形成的評価」を指導に導入しませんか?
▶︎児童の評価にぜひ導入したい「形成的評価」。その課題と解決策とは?

イラスト/イラストAC

【参考資料】
名著復刻 形成的な評価のために/梶田叡一/明治図書出版

◆編集部より◆
以下の記事では、形成的評価に関するより理論的な詳しい情報や、ルーブリックの作成方法など、役立つ情報を提供しています。併せてご活用ください。
形成的評価https://kyoiku.sho.jp/87113/
ルーブリックhttps://kyoiku.sho.jp/75868/


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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