児童の評価にぜひ導入したい「形成的評価」。その課題と解決策とは?
「形成的評価」は、学習者の学びをより深く理解し、個々のニーズに合わせた指導を行う上でとても大切な評価方法です。しかし、その実施にあたっては様々な課題がある、ということも知っておきたいですね。ここでは現代的な「形成的評価」の課題を4つに絞ってより深く掘り下げ、具体的な解決策を考えていくことで、「形成的評価」の有効性を最大限に引き出していくことにつなげたいです。
【本記事は3回シリーズの第2回です】
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個別最適な学びのために! あなたも「形成的評価」を指導に導入しませんか?
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
<課題1> 教員の負担が増加する
「形成的評価」は、従来のテスト中心の評価と異なり、授業中の観察、学習過程の記録、個別指導など、多角的な視点からの評価が求められます。これらの活動は、教員の既存の業務に加わるため、時間的、精神的な負担が大きくなることがあります。特に、多様な学習者に対応するためには、個々の学習状況を詳細に把握し、適切なフィードバックを提供する必要があり、教員の負担はさらに増大していきます。
解決策
① 評価ツールの積極的な活用を!
後にも述べますが、形成的評価は児童一人一人の個別最適な学びのための評価であるからこそ、それぞれの児童の評価規準が客観的かつ明確である必要があります。観察シートやチェックリスト、自己評価シート、ルーブリックなどの評価を効率化するためのツールを積極的に活用していきましょう。また、デジタルツールを活用することで、データの収集・分析がかなり楽になります。教員の負担を軽減することも可能です。
② 教員間の協働体制をつくろう!
チームティーチングなどで教員同士が協力し合うことで評価の負担を分散させます。これによって、お互いの学びを深めることができます。また、新任教員へのメンタリングや経験豊富な教員による講座などの研修の実施も有効です。
③ 学校全体でサポートしよう!
学校全体で形成的評価の重要性を共有し、教員が安心して取り組める環境を整備することが大切です。例えば、校内研修を充実させることで、評価に関する情報の共有や教員の働き方改革などを推進していきましょう。
<課題2> 評価基準の明確化が難しい
「形成的評価」では、知識・技能だけでなく、思考力や表現力、協働性などの多様な能力を評価する必要があります。児童一人一人を注意深く見るために、ともすれば授業者の主観が入ってしまうおそれがあります。また、評価するときの基準が曖昧だと、評価の客観性や信頼性が損なわれることがあります。そして、学習者や保護者からの不信感につながる可能性もあります。基準の明確化は避けては通れない課題です。
解決策
① 具体的な評価基準の設定をしよう!
各学習目標に対して、具体的な行動や成果を示す評価基準を設定します。例えば、「問題解決能力の育成」という評価目標に対して、「教室全員で考える問題に対して、複数の解決策を考え、その根拠を説明できる」といった具体的な評価基準を設定していきましょう。
② ルーブリックを活用しよう!
ルーブリックは、評価基準を具体的に示す評価表で、学習者の到達度を視覚的に捉えやすくしていきます。ルーブリックを作成する際には、教員間で十分な議論を行い、共通理解を図ることが重要です。
③ ポートフォリオを活用しよう!
ポートフォリオは、学習者の成長過程を記録するものであり、評価基準の明確化に役立ちます。学習者自身が自分の成長を振り返り、自己評価を行うことも促します。生活科や総合的な学習の時間ではよく取り入れる手法ですが、ほかの教科でもやっていきましょう。
<課題3>「形成的評価」の目的と意義の共有化
「形成的評価」の最終的な目的は、学習者の学びを深めることですが、授業者の中には、単なる成績評価の一環と誤解している場合があります。
解決策
① 理解を深める研修をしよう!
「形成的評価」の理論と実践に関する研修を定期的に開催し、教員の理解を深めます。ケーススタディやグループワークを取り入れた校内研究会などを実施することで、教員同士が互いの実践を共有し、より深い学びへとつなげます。
② 学校全体で形成的評価について話し合う機会をもとう!
教員だけでなく、児童や保護者も参加できるワークショップや研究会を開催し、意見交換を行います。授業研究会の事後研究会に児童を招き、授業中の考えや理解度についてインタビューすることで、児童の視点から形成的評価について考える機会をもつことができます。保護者にも参加してもらい、家庭学習との連携についても話し合うことで、学校全体で「形成的評価」の理解を深めていきたいです。
③「形成的評価」について広報しよう!
学校のホームページや広報誌などで、「形成的評価」の重要性や具体的な取組について分かりやすく説明し、保護者の理解を深めていきます。家庭学習においても「形成的評価」の考え方を生かせるような情報を提供することで、家庭と学校との連携を強化します。
<課題4> 多様性への配慮
学習者は、発達段階、学習スタイル、文化的背景、属性、生育歴など、多様な特性をもっています。形成的評価により、個々の学習者のニーズに合わせたきめ細やかな指導が求められます。
解決策
① 個別学習計画の作成を徹底しよう!
対象とする学習者に対して、具体的な目標を設定し、「形成的評価」の基準を明確にした個別学習計画を作成しましょう。この計画は、学習者と教員が一緒に作り上げることで、学習意欲を高め、学習の主体性を育むことができます。また、計画は定期的に見直し、修正することで、学習の進捗状況を把握し、適切な支援を行うことができます。
② 多様な評価方法を活用し、学習者の成長を可視化しよう!
口頭発表、プレゼンテーション、実技、ポートフォリオ、自己評価など、学習者の強みや改善点を多角的に捉えられるような評価方法を組み合わせましょう。数値だけでなく、質的な評価も取り入れることで、学習者の成長過程をより深く理解し、個々の学習者に合ったフィードバックを提供することができます。
③ 支援体制を構築し、専門家の力を借りよう!
特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラー、学習支援員など、専門家のもつ多様な知識とスキルを積極的に活用していきましょう。これらの専門家は、学習者の困難さの原因をつき止め、適切な支援策を提案することができます。また、教員同士で教え合い、学び合う協働的な体制を構築することで、より効果的な指導を行うことができます。
◇
「形成的評価」は、教育の質向上に不可欠な要素です。教育現場においては広く認識されるようになってきたものの、まだまだ十分とは言えません。その効果を最大限に引き出すためには、単に評価を実施するだけではなく、今回の4つの課題と解決策を考えることで、よりよい教育の実践を目指していきたいものですね。
【本記事は3回シリーズの第2回です。次回は8月31日(土)の予定です】
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個別最適な学びのために! あなたも「形成的評価」を指導に導入しませんか?
イラスト/イラストAC
【参考資料】
・・名著復刻 形成的な評価のために/梶田叡一/明治図書出版
◆編集部より◆
以下の記事では、形成的評価に関するより理論的な詳しい情報や、ルーブリックの作成方法など、役立つ情報を提供しています。併せてご活用ください。
形成的評価:https://kyoiku.sho.jp/87113/
ルーブリック:https://kyoiku.sho.jp/75868/
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。