メモの達人が伝授!子供の学びを加速する効果的なメモの使い方

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誰でも簡単に生配信できる仮想ライブ空間サービス「SHOWROOM」を生み出した前田裕二氏。自他ともに認める「メモ魔」であり、著書『メモの魔力』(幻冬舎)は大ヒットを記録し話題になっています。今回は教師と子供に有効なメモの使い方を伺いました。

前田裕二
SHOWROOM株式会社代表取締役社長 前田裕二さん

前田裕二●SHOWROOM株式会社代表取締役社長。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入行。13年DeNAに入社。同社でライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。15年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOMを設立し、現職。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。著書に『人生の勝算』『メモの魔力』(ともに幻冬舎)がある。

両親を亡くし絶望していた時、メモの習慣が自分を変えた

小学校二年生の時に母が亡くなり、三~四年生の時は、ずっと暗く沈んだ気持ちを抱えて過ごしていました。心も荒んでしまっていたので、高学年までは勉強もあまり真面目に取り組んでいなかったし、やんちゃをして叱られることばかりでした。

しかし、五年生の終わりごろ、僕のことで兄貴が悲しんで泣いている姿を見て、大変にショックを受けました。10歳年上の兄は、母が亡くなってから、自身の医者になる夢を捨てて、働いて僕を養ってくれていたのです。僕の中で、そんな兄のためにがんばりたい、という気持ちが次第にふつふつと湧き起こりました。それまで「母がいない世界なのに、どうせがんばっても・・・」と擦れていた僕のモチベーションは、「兄を喜ばせたい」に変わり、生活態度も勉強への姿勢も変わっていきました。

すべてを学び換えるメモの底力を伝えたい

メモの習慣も、そのころからです。授業中に自分が気付いたことや、先生や周りのみんなが言っていることを、逐一ノートに書き込むようになりました。シールを貼ったり色分けしたりしたノートを見て、兄も先生もとても喜んでくれました。

特に六年生の時の担任の吉野先生にはとても感謝しています。吉野先生は、わざわざ僕のノートを他のクラスの先生や子供たちに見せて、「前田君がこんなノートを作っているんだよ!」と自慢してくれたのです。それまで自分にあまり価値を見いだせずにいた僕にとって、自己肯定感・自己重要感を初めて感じられた瞬間であり、そのツールがメモだったのです。

例えば「100点とって偉いね」「算数の計算速くてすごいね」というほめ言葉では、僕は自分の存在意義をそれほど強く深く感じることはできなかったと思います。なぜなら、100点をとる子はほかにもいるから。子供の人格形成において、自己肯定感を具体的に子供に感じさせることはとても大切ですが、特に、「その子ならではの固有要素」をちゃんと見付けて注目してあげることが、継続的に自己重要感を感じさせるうえで非常に重要なのではと思います。

僕は日ごろから膨大なメモをとり、昨年『メモの魔力』という本も出版しました。僕にとってのメモは、単なる記録ではありません。内省のためのメモでもあり、アイディアを生み、イノベーションを生み出すためにもメモをフル活用しています。メモの効用は、著書にも記していますが、ここでは先生方や子供たちにとっての効用を考えてみましょう。

先生方にとってのメモは「傾聴力」と「問題解決力」を向上させてくれる

先生方にとってのメリットは、まず「傾聴力の向上」が挙げられます。子供や保護者の話を聞くときにメモをとりながら聞くだけで「この人は本気で自分の言葉に耳を傾けてくれているんだな」と伝わるはずです。中学生以上になると、知識や経験などを先生に求めるようになり、「何をどう教えてくれるのか」によって先生への信頼度が変わりますが、小学生は「自分とちゃんと向き合ってくれる先生」を信頼します。「自分の話を一生懸命にメモして聞いてくれる」という姿勢が見えることで、会話もより実りあるものになり、良好な人間関係が構築されていくはずです。

もう一つのメリットは、「問題解決力の向上」です。例えば、世の中でうまくいっている事例がある場合、何が要因で成功しているのだろうと考えてメモし、分析してみる。そしてそれを自分のクラスにどう転用できるか考えてみる癖をつけることで、問題解決の引き出しも増えていくでしょう。もし、いま深刻な課題を抱えているとすれば、ラッキーです。解決したいことがあればあるほど、メモのモチベーションが上がるからです。

子供にとってのメモは「問いを立てる力」と「言葉の力」を飛躍的に伸ばす

メモは、子供にとっての効用も大きい。その中でも一番重要なのは、「問いを立てる力の向上」だと思います。

僕は、「ファクト」「抽象化」「転用」と三つに分けてメモを書きます。例えば、先生の話したことや教科書に書いてあることなどの具体情報が「ファクト」であり、「なぜこうなんだろう」「実はこういうことなのではないか」と考えることが「抽象化」です。そして「何か別の具体的なものに応用できないか」と考えることが「転用」です。つまり、抽象化とは、「問いを立てる」作業でもあるのです。

世の中に対して常に問題意識をもち、「なぜこれはこうなんだろう」「本当はどうなんだろう」と問いを立てる力は、答えのない変化の時代を生きるうえで非常に重要になるので、ぜひ子供のうちから身に付けたい能力です。

二つ目は、「短期記憶を長期記憶に変える力」です。例えば誰かが言ったことをメモせずに頭の中だけで受け止める場合、情報が脳の短期記憶フォルダに入り、ほとんどのことをすぐに忘れてしまいます。しかし、メモをする行為は人の長期記憶化を促すので、学習のプロセスにおいても大変役に立ちます。必ずしも何度もメモを見返さずとも、メモをして自分の言葉で漆塗りのように情報を上書きすることで、記憶がより長期寄りになり、数日経っても思い出せるようになります。

三つ目は「集中力の向上」です。メモをとるようになると、常に「この空間の中から自分に必要な情報を選ぶ」という意識が働き、ぎゅっと集中力を上げて世の中を見つめる癖がつくのです。実際に僕も学生時代に気付いたのですが、メモをもつだけで、一日の中でボーッとしている時間が大幅に減ります。

「国語力・言葉の力」も飛躍的に向上します。僕たちから出てくる言葉、つまりアウトプットは基本的にインプットの賜物です。メモをしないと絶対に通り過ぎてしまうだけの言葉を、とにかく一度文字に落とし込む。こうしてインプットする言葉の数が多ければ多いほど、語彙や言葉を紡ぐ表現力は豊かになっていくでしょう。

僕は、これからの時代を生き抜くために最も必要な力は、「解釈力」だと思っています。辛いことや大変なことがあったとき、起こった事実は変えられなくても、それに対してポジティブな解釈を加え、「辛かった出来事を逆手に取ってこうしよう」「これは自分にとってはどういう意味があるんだろう」と転用する思想スタイルを身に付けていれば、どんな逆境も乗り越えていけると思うからです。

僕のメモのフォーマットはちょっと特殊ですが、この「解釈力」を身に付けるために非常に有効ですし、先生と子供のコミュニケーションツールにもなると思っています。
例えば、子供たちに、起こったことや感じたことを、ファクトとしてメモの左ページに書かせます。その後、「なぜだと思う? どういうふうに考えることができる?」と伝え、抽象化したことを右ページに書かせるのです。

前田さんのメモ帳
メモ帳は見開きで使う。左ページには客観的な事実「ファクト」を書き、右ページは、ファクトから得た気付きなど一般的な概念=「抽象化」と、そこから生まれるアクション=「転用」に分けて書く。

おそらく、最初は右の欄を埋めることは難しいでしょう。そこで先生が、「こういうふうにも言えるんじゃない?」「〇〇とも考えられるね」とポジティブな解釈をプラスしてあげるのです。すると子供たちは「そうやって思考していけばよいのか」と気付き、前向きな思考スタイルや自分に起きたことの意味付けをする能力も高まるでしょう。

「あの時苦しかったけれど、あの苦しさによって、こんなに学びを得ることができた」という気付きで埋め尽くされたノートは、子供にとっても先生にとっても、貴重な学びの宝庫になっていくはずです。

前田さんの最新著書
『メモの魔力』幻冬舎刊)
「メモで日常をアイデアに変える」「メモで思考を深める」「メモで自分を知る」「メモで夢をかなえる」・・・。8歳で両親を亡くし、路上ライブで生活費を稼いだ小学生時代を経て、いま最も注目される起業家となった前田裕二による、渾身の戦略的メモ術。

取材・文/出浦文絵 撮影/長嶋正光

『教育技術小三小四』2019年11月号より

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