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名ファシリテーター阿川佐和子さんインタビュー 「マニュアルを捨てよ、人を見よう」

2019/4/8

「時間通りにやらなきゃ」「みんな平等に活躍させなきゃ」「不用意な発言で傷をつけないようにしなきゃ」・・・「~しなきゃ」で、がんじがらめになってはいませんか?  阿川佐和子流「型にはまらない」ファシリテーションの極意をご紹介します。

阿川佐和子
「先生、型にハマっていませんか?」 撮影/平林直己 

「発想の転換」が名ファシリテーターへの道

新学期を迎えてまだそわそわしている低学年の子どもを、担任としていかにまとめるか――。教師の経験はありませんが、司会などの経験からお話してみたいと思います。

クラスを率いる先生とトーク番組の司会者は、集団を相手に場をまわす役割があるという意味では、似ている部分もありますよね。トークは生ものですから、番組でもついつい話が脱線して、思わぬ方向で盛り上がってしまうことも少なくありません。そこで“私は司会者なんだから、テーマに沿って時間内に議論をまとめなきゃ”とノルマを果たすことに躍起になると、どうしても紋切り型になってしまうというのかな。自分の仕事を阻害しないでほしい、とつい効率優先に走りがちですが、コミュニケーションの基本はやはり会話のキャッチボールです。相手の気持ちを受けて返すのが理想ではないでしょうか。

学校では、授業時間が限られていて焦る気持ちがあると思います。時間制限という点ではトーク番組も同じです。話したい人にも反論したい人にも、それぞれ「話したい」という気持ちがあるもの。「この人の話が長いなぁ」「話題を変えて他の人にも話を振らないとなぁ」と思っている時に、反論する人が出てきて、さらに話が長引きそうだなんて時には、私はもうある程度許容してしまうんです。その上でさりげなく話題を変えます。ただし一刀両断にバシャッと刃物で斬りつけるようなカットインではなく、話している人の言葉や仕草から面白い部分を拾って、転換のタイミングを探るのがポイントです
例えば『ビートたけしのTVタックル』では、議論が沸騰して収集がつかなくなりそうな時に、大竹まことさんが、「あれっ、その腕時計いいですねぇ」なんて、ひょいっと話している人に振ったりするの(笑)。よく見ていれば癖やそぶりや表情の面白みなど、何かしら個性が見付かるもので、そこを丁寧に拾って会話のラリーをつなげています

阿川佐和子イメージ画像
撮影/平林直己

一番弱い立場の人にスポットライトを

目配りは、みんなが議論に参加できるように促す際にも有効です。これは先輩のアナウンサーから学んだのですが、その集団で一番弱い立場の人を探すんです。テレビならいちばん下っ端のAD(アシスタント・ディレクター)さんなどです。彼らは緊張していて、上司の前で声も出せない。そんな時に先輩はすかさず、「ねぇ君、なんて名前だったっけ?いつ入ったの?」なんて話しかけるんです。それまでは存在も気付かれなかった人に視線が集まると、現場の誰もが気軽に声を出せる雰囲気へ変わります。先生ならば、クラスを見渡して、いつも隅っこにいる子や一番地味でおとなしい子に声をかけてみると、ガラッと教室の空気が変わって、みんながしゃべりやすくなることもあるんじゃないかな。今はとにかくマニュアルが重視される風潮があって、教育の現場でも“困った子どもがいたらこう対応しなさい” “みんなの前ではなく、一人の時に叱りなさい”など、山のように縛りがあるんでしょ? もちろんそれを守るのもある程度は大切でしょう。ただそれだけになると、マニュアルどおりに動くロボットと一緒になってしまいませんか。子どもたちに先生の心が見えないと思うんです。

この仕事を始める前に、私立小学校の図書室でアルバイトをしていた時、子どもたちに慕われる素敵な先生がいらしたんです。型破りでふざけたこともおっしゃる“不良先生”で、漢字の書き順なんかよりも大切なことがあるという、確固たるポリシーを持っていらした。「君たちに何が大切かと言うと、優しさだ。困った人に心を寄せられる人間になれよ」って。教科書どおりでなくても、先生が一番大切なことは、「これなんだ」という軸がぶれなければ、その先生のように、時にはお酒臭い日があろうと(笑)、子どもたちは迷わずついていきます。先生の心が見えるから、安心するんですよね。

先生だって人間ですから、クラスがガヤガヤして感情的になってしま日もあれば、弱音を吐きたい日だってあるし、悪さを大目に見てあげた次の日に、カミナリを落とすこともあるでしょう。でも、きっとそれでいいと私は思うんです。先生が授業中に騒がしい子を心ない言葉で叱りつけたら、その子は落ち込むでしょうし、しばらくはビクビクして消極的になってしまうかもしれない。だけど、自分の不用意な言葉が子どもの人生を左右してしまったらどうしよう、と怯えていたら、先生だって生きていけないですよ。失敗を恐れて控えるのではなく、失敗したら子どもの目線に立って素直に謝る。そうやって、先生が、絶対完璧ではないところを見せればいいんです。

愛はマニュアルを超える

担任としてクラス全員に平等に接することは大事だけど、正直、人間だから平等にはならないと思いますよ。だから“いかんいかん、この子ばっかり気を使っている”と気付いたら、調整する心の余裕というのかな、軌道修正をして挽回すればいいじゃないですか。先生が子どもを本気で愛して真摯に向き合えば、その心は伝わって理解してもらえると思います。教育者としてのマニュアルから外れちゃっても、先生も人間なんだと彼らは受け入れてくれると思います。「先生はちゃんと自分たちを見てくれているんだ」と、子どもたちが安心していられたら、きっと大丈夫です。

阿川佐和子イメージ画像
「先生は、もっと自由でいいと私は思います」 撮影/平林直己

私は小四で転校して、最初はクラスになじめなかったんだけど、同じように新しく入ってきた担任の先生が、下校の時にみんなと握手をしようと提案したんです。握手は自由でしたが、私はそれがとってもうれしくて、律儀できまじめな子だったから、下校の時に学校中を探し回って握手していました。先生は「じゃあ、また明日!」と、大きな手でギュッと力強く握ってくれて、これが私には元気の源だった。“先生は私をちゃんと見てくれている、これで明日も学校に来られるぞ”ってね。

以前、対談でうかがったのですが、落語の五代目柳家小さん師匠は、小学生の頃とってもわんぱくだったそうで。それに閉口した担任の先生がある時、「分かった、授業を1回全部あげるから好きに使いなさい。その代わり、他の授業では静かにするのよ」と言ってくれて、小さん少年は大喜び。その頃から物語を話すのが好きだったので、「屁こき名人」というお話を作って披露したんですって。「むかぁしむかし、屁をこくのが上手なじいさんがおった」と始まって、「その噂が殿様の耳まで届いて、ある日、殿様の前で♪ぴっぽぽぽっぽ♪と屁をこいてみたところ・・・」なんて調子で話をしたら、たちまち人気者になって、小さん少年はそれ以降、先生との約束通りに授業中おとなしくなったそうです。
歴史学者の本郷和人さんも歴史が得意で、「本郷、今日は先生の代わりに授業をやって」なんて言われて、何度も歴史の授業をしたそうですよ。それは内気な本郷少年にとって絶対的に活躍できる場所だったでしょう。

どちらも先生が子どもの個性をよく見ていたんでしょうね。その行動で授業計画を一つ潰してしまったかもしれないけど、時にはこんな風に、自由な発想で授業してもいいんじゃないかな。おとなしい子がいたら「元気づけなくちゃ」ではなく、「自ずとその子が元気になる場を見付けよう」と発想転換してみるのはどうでしょう。この子は何が苦手で、何が得意で、どんな時にパッと笑顔になるのか。個々に活躍できたら子どもたちも溌剌(はつらつ)として、それぞれが輝けるクラスになるのではないでしょうか。

なーんて、先生じゃないから分からないけどね!

阿川佐和子イメージ画像
阿川佐和子さん  撮影/平林直己

PROFILE
エッセイスト、作家。ツッコミを入れつつ進行に徹する司会ぶりが小気味よい『ビートたけしのTV タックル』(テレビ朝日系)、ゲストの様々な側面を引き出す冠番組『サワコの朝』(TBS系)他で活躍。『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)はミリオンヒットを記録。

取材・文/渡部美也

『教育技術 小一小二』2019年4月号より

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