教育YouTuber・葉一インタビュー:YouTubeを多様な学びの選択肢の一つにしたい!

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2012年に開設したYouTubeチャンネル『とある男が 授業をしてみた』は、登録者数146万人、総再生回数 4億2600万回以上(2021年6月1日現在)。小学三年から高校三年までの授業動画が無料で視聴でき、今や多くの子供たちから支持されています。教育の新たな可能性を切り拓く葉一さんに、教育にかける熱い思いをお聞きしました。

葉一さんのポートレート

葉一(はいち)●1985年福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、教材会社の営業職、塾講師を経て独立。登録者数135万人を誇るYouTube屈指の人気チャンネル『とある男が授業をしてみた』を運営。その活躍は、2020年11月放送の『情熱大陸』(TBS系)で取り上げられるほど。近著に『塾へ行かなくても成績が超アップ!自宅学習の強化書』(フォレスト出版)

まずは成功体験を、概念形成は後付けで学んでもよい

ー葉一さんはエンタメが中心だったYouTubeで、教育コンテンツを始めた先駆者ですが、ご自身の授業動画のこだわりはなんですか。

葉一  一番の特徴は、授業動画に編集を入れていないということです。デジタルネイティブ世代の今の子供たちは、編集を入れた動画を見慣れているし、編集を入れたほうが有益な学びにつながりやすいのかもしれません。でも、それよりもライブ感を大切に、学校の授業のような血の通ったものにしたいんです。学校の授業で、先生が失敗したからといって、やり直しなんてしませんよね。

もう一つのこだわりは、板書をきれいに書くことです。子供たちが一目見て分かるよう、ていねいかつシンプルに書くように心がけています。

それから、これは学校現場では生かせない工夫になりますが、僕の授業動画は、「概念形成」の部分をすべて省いています。例えば、分数の割り算は、割る数を逆数にしてかけることで計算できますけど、なんでそうすることで計算できるかについては一切説明しません。

今回の動画で覚えたことがすぐに計算ドリルで活用できたというような、「成功体験」を優先させたいからです。成功体験を積み重ねることで、「どうしてそうなるんだろう?」と興味が出てきたら、概念形成は後付けで学んでもいいのではないかと思うんです。疑問に思ったことは、いくらでも調べられる時代ですから。

ー小学校の子供たちが夢中になって学ぶためにはどんなことが必要ですか?

葉一 子供がその学習のゴールをイメージできるかどうかではないでしょうか。僕の授業動画では、必ず最初に1枚のホワイトボードが映し出されます。そこには、今回の学習内容がすべて書かれています。動画の中では、ブランク部分にポイントを書き込むだけで、その他のことを付け加えたり、書き直したりすることはありません。

つまり、動画が始まった瞬間に、子供はこの1枚が勉強のゴールなんだと、視覚的に分かるような仕組みになっています。ゴールが明確だから、集中力が持続しやすいのではないかと思います。

葉一さんポートレート

無料の教育動画が教育格差の解決に寄与する!?

―低学年のうちから勉強嫌いになっている子には、どんなしかけが有効でしょうか?

葉一 勉強嫌いになっているわけですから、勉強と思わせないようなしかけが有効です。例えば、ゲームでもよいのではないかと思います。僕には小一の息子がいますけど、勉強をさせようとするのではなく、結果的には勉強になるような、ゲーム感覚のアプローチをしています。

今は毎日、漢字を二つ、三つぐらいずつ覚えようとしています。覚えたかどうか確認するのに、「テストをする」と表現すると、子供は減点方式のイメージをもちやすい。だから、「クイズをやろう」と言っています。それだけで、子供の中では、正解すると加点されるというイメージに変換されるんですね。ちょっとした表現や提示のしかたで、低学年の子供のやる気は変わると思いますよ。

ー葉一さんのYouTubeチャンネルは、学校の勉強や塾のサポートとして活用するだけでなく、不登校の子が活用するケースも増えているそうですね。

葉一 はい。学校はとても大事だけれど、苦しくて死にたくなるような思いまでして行く場所ではありません。不登校がもっとポジティブな選択肢として、社会から受け入れられたらいいなあと思います。今は、フリースクールだってありますし、家で勉強したっていいわけです。それぞれに合う合わないがありますから、選択肢は多いほうがいいに決まっています。YouTubeで学ぶことが、多様な学びの選択肢の一つになるようにしなければならないと思っています。

ーYouTubeのような、無料で学習できる動画コンテンツは、日本が抱える教育格差の問題を解決する一助になり得るのではないでしょうか。

葉一 そういう思いでやっています。塾講師時代に、「月謝は払えても、夏期講習代は払えない」という家庭がありましたし、そもそも塾に通えることは当たり前ではないという、教育格差の問題に直面しました。そのことが、無料で見られるYouTubeで教育コンテンツを始めようと思ったきっかけの一つだったんです。

授業づくりをする葉一さん。
授業づくりは、教員同様、教科書を読み込むことから始め、ノートに手書きで指導案をつくっていく。学習指導要領が改訂されれば、一度アップした動画でも制作し直しているという。

教師は子供の伴走者になろう

―いよいよGIGAスクール構想が始まり、公教育が変わろうとしています。これからの教師像について、どんな考えをおもちですか。

葉一 「伴走者」というイメージをもっています。ICTや映像コンテンツなどがこれからもっと充実していったときに、授業の形式が劇的に変わることも起こり得ると思うんです。

それこそ「個別最適化」が実現して、それぞれの子供が場面ごとに自分の学びを選択するようになったとしても、低学年だったらなかなか自分では選べないと思うんですよね。そういうときに、「こんな教材があるけど、どう?」とか、「あなたの課題はここだから、今はこれを学ぶべきじゃないかな」とか、それぞれの子供をしっかり見とりながら、伴走するようなスタイルになるのではないかと思います。

ー保護者として、ご自身のお子さんの教育にはどのように関わられているのですか。

葉一 わが子ってやっぱり心配だし、できれば失敗してほしくないですから、「こうやりなさい」とか、「勉強はこういうものだ」とか、いろいろ口をはさみたくなってしまうものです。だからといって、大人が管理をすると、子供のモチベーションは下がるだけ。この言葉、あまり好きではありませんが、「やる気スイッチ」は、自分でしか入れられません。

これからの教師像としても挙げましたが、「伴走者」のイメージが大切ではないかと思います。だから、あれこれ言いたくなってもできるだけ耐える。でも、待つのは本当に難しいですけどね。

『とある男が授業をしてみた』【小3算数】かけ算のきまり1

取材・文/長 昌之 撮影/西村智晴

『教育技術 小一小二』2021年6/7月号より

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