才能と学習困難を併せ持つ、2e(ツー・イー)の子供の「強み」を伸ばす声かけとは?
2023年度から文部科学省が開始した、「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進」事業。このたび、その事業の一環である教員研修用の動画パッケージ(第1弾)が完成しました。その内容をダイジェストで紹介する連続企画です。全4本シリーズの最終回である今回は、主に2e(ツー・イー)と呼ばれる子供たちに関する解説動画のダイジェストです。
シリーズ第1弾 : 監修をされた愛媛大学学長特別補佐・教育学部教授の隅田学先生のインタビューは、コチラ。
目次
才能と学習困難を併せ持つ 2e
2e(ツー・イー)という言葉を、耳にしたことはありますか?
英語のtwice-exceptional(二重に特別な)の略称で、才能と学習困難を併せ持つ子のことを指します。文部科学省の研修用動画パッケージでは、1本をまるごと使って2eについて深掘り解説しています。
今回の研修用YouTube動画へのリンク
才能のある児童生徒は完璧ではない、その凸凹
文部科学省 令和5年度 特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業
才能と学習困難
一言で「才能と学習困難を併せ持つ子供」といっても、さまざまなタイプの子がいます。
- 才能が先に認められると同時に、学習困難の傾向がある子供
- 学習困難が先に認められると同時に、才能が高い傾向がある子供
- 2e傾向の子供の場合、特定の学習困難が才能を隠してしまったり、逆に特定の才能が学習困難を隠してしまったりしていることがある。
全てのギフテッドに学習困難がある訳ではありません。
2eの特徴や強み
2eの特徴や強みには、以下のようなものがあります。
- 時間制限のある課題が苦手である。
- 単純な課題は苦手だが、複雑で高度な活動は得意である。
- 想像力が豊かである。
- 視覚的・空間的な思考に優れている。
- 特定分野に強い専門性を示す。(例えば、虫、恐竜など) など
才能なのか、困難なのか?
ギフテッドの認知や発達の特性として、強い好奇心、豊かで鮮明な想像力、過度の感受性、高い身体的活動性、過敏な五感、機能間の発達水準に偏りがあること、が挙げられます。
また、これらの特性が過度に表れ、環境に馴染めずに困難を抱えていることもあります。ダブロフスキー(ポーランドの精神科医)は、過興奮性を5つの領域に整理しています。
過興奮性(Overexcitability : 略称OE)
OEは、ADHD、ASD等の誤診を生みやすいことで知られています。
2eの思いや強みを見過ごしていませんか?
ここからは、具体的なケースで考えてみましょう。
理科クラブに所属している理科が大好きな子供。クラブでは常に余計な材料を要求し、あきらめず活動しています。本をよく読み、気になることがあれば図書館で1週間くらいかけて調べることもあります。一方で教師や同級生の話を聞けないこともあります。人の行動が気になり、よく注意するので、対人関係でトラブルになることもあります。
あなたなら、こうした子供にどのような声かけをしますか?
対応のポイントは2つ
この場合、対応のポイントは2つあります。
- 子供の得意分野の行動や、能力のスタイルを探してみましょう。
- 通常の授業でも、少しの工夫で2eの子の特性を生かせます。
子供の得意分野の行動や能力のスタイルを探す
今回も、理科の学習を例にとって考えてみます。
才能行動のチェックリストを使いながら子供の学習スタイルを探してみると、学習困難児にも定型発達児にも同程度「科学者型」の子供がいます。また、学習困難児は定型発達児に比べて「ひらめき型」の子供の割合が多く、定型発達児には「勤勉型」が多いことがわかります。
才能行動チェックリストの例
3つの学びの凸凹スタイルから考えるインクルージョン
「ひらめき型」の強みと「勤勉型」の強みは相補的なので、先生がそれぞれの学習スタイルを踏まえて授業を運営できれば、多様な子供たちが教室で一緒に学ぶ意義は大きくなります。
少しの工夫で2eの子の特性を生かせる
1単元計11時間の授業を観察した研究もあります。実験の場面になると、他の子を押しのけて先生の左端にいる子供がいます。周りの子供は押しのけられて迷惑そうです……。
この子は何がしたかったのでしょうか? 何を考えていたのでしょうか?
この子は演示実験をすぐ傍で見たかったし、先生に質問もしたかったのです。
子供の気持ちが理解できれば、先生の見方も変わるのではないでしょうか?
強みを生かした学びの重要性
動画の最後には、米国で2eについて先進的な研究をしているマシュー・フーゲイト(ブリッジズ大学院副学長)からのメッセージがありました。
マシュー・フーゲイト 2eの子供には「強み」を生かした学びが必要です。2eの子供たちは、学習上の困難に併せて非凡な才能を持っています。たとえば……。
- 新進の芸術家でありながら整理整頓に苦労する子
- 優秀な数学者でありながら社会的な交流に困難を感じる子
- 創造的な思考家でありながら伝統的な学習環境に苦労する子
マシュー・フーゲイト 私たちは教育者として、こうした子供のユニークな強みを認め、称賛することが肝要です。
苦手な部分ばかりに目を向けるのではなく、子供の才能、情熱、興味を育むのです。
そうすると、子供の可能性を最大限に引き出すだけでなく、多様性が称賛され、一人一人が大切にされていると感じる環境が作られます。
2eの子供の強みを受け入れることにより、イノベーション、創造性、包摂性(※)への道が開かれます。
※ 包摂性 : 多様性を尊重し、異なる背景やニーズを持つ人々が平等に参加できること。
ギフテッドの子に対して適切な配慮や支援をすることは、学級全体の多様性を引き出すことにつながるのだと筆者は思いました。
よくある質問
最後に、2eについて、研修の際によくある質問が2つ紹介されていました。
自分の好きな分野しか学ぼうとしません。どうすれば関心を広げてくれるでしょうか?
クラスの友達にその子供が才能と学習困難を併せ持つ傾向があることを伝えるべきでしょうか?
よくある質問には、研修用YouTubeの中で隅田先生が回答してくださっています。ぜひ、チェックしてみてくださいね!