「アフターコロナの授業対策で子供の心を引きつけよう」保護者を味方にする学級経営術 #9
学級担任なら、一度は保護者対応に悩んだ経験があるのではないでしょうか。しかし、保護者が味方になってくれたら、こんなに心強いことはありません。この連載では、保護者が担任と学級を応援したくなるような学級経営について、その月の学校状況に合わせたアイデアを紹介します。第9回は、授業の側面から学級経営を考えます。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
授業がうまくいけば、学級経営は安定する
前回、保護者からの信頼を得るためには、「子供の学校生活が充実している」ことが保護者に伝わることが大切だと述べました。そして、そのための一番の王道は、楽しく力のつく授業をすることです。そこで今回は、授業を通して保護者を味方にする方法について考えてみたいと思います。
これは学級経営の連載であり、授業は関係ないのではと思う方がいるかもしれません。しかし、授業と学級経営は車の両輪、表裏一体の関係にあります。学級がうまくいくと、授業が充実してきます。逆に授業が充実すると学級がうまくいきます。
授業がうまくいかないのは、学級経営に問題があるからであり、まずは学級をしっかりさせていくという主張もあるかと思いますが、逆もあるのです。
考えてみれば当たり前だと思いますが、よい授業というのは子供たちが自分の考えを自由に発表でき、考えの違いを認め合えないと成り立ちません。優劣を超えてみんなが学び浸ることができる授業ができれば、当然、学級の人間関係もよくなっていくでしょう。
また、学校にいる時間のほとんどは授業時間なのです。この時間が楽しく充実していれば、子供たちは学校生活そのものを楽しいと感じるでしょう。ですので、学級経営を授業が支えるという側面もあるのです。
授業版アフターコロナを考えよう
①ペア対話を充実させる
前回の繰り返しになりますが、私が自校の子供たちを見ていて思うのは、親しい人とは話ができても、さほど関わりがない人とのコミュニケーションが苦手だと言うことです。
例えば、授業で2人組をつくって話し合いをさせようとしても、話がすぐに途切れます。ところが、休み時間になると、うるさいぐらいに話し声が響いています。つまり、プライベートな会話はできても、公的な会話ができないのです。
これはコロナによって、教員が一方的な説明をする授業スタイルが一般的になってしまったことも一因かもしれません。このスタイルで、子供を引きつけるにはかなりの腕前が必要です。多くの場合、あまり面白い授業にはならないでしょう。
そこで、45分の授業で、2回はペアでの対話を取り入れるようにしましょう。
ペアでの対話は、このようなステップで導入します。
〇2人組をつくる(まずは隣同士が基本)
〇話しやすい話題で練習する
例:好きな食べ物、好きなテレビ番組 など
〇ルールを守る
・交互に短く話す
・相手の話を遮らない
・笑顔で頷くなど、肯定的に反応しながら聞く
・話を途切れさせない
(話が止まったら、最初に戻ってもう1回同じ話を繰り返してもよい)
〇まずは1分程度対話を続けさせる
ここでイメージする対話は、相手を論破するのではなく、互いの認識を深めることをねらいとします。ですので、相手を否定するのではなく、「なるほど」「すごい」など肯定しながら聞くことが大切です。
この取組を何回かやってイメージをつかめたら、授業でどんどん取り入れていきます。その際、隣同士でやったら、前後で、さらに様々にペアを変えるなどして、誰とでも対話ができるようにしていきましょう。
②ペア対話からトリオ対話へ
ペア対話に慣れたところで、3人組の話し合い(トリオ対話)も取り入れましょう。2人組に比べ、より複雑な関わり合いになるため、話し合いが深まります。ただし、3人で均等に話し合うのは難しく、ともすると1人だけが話しているような状況になってしまいます。そこで、慣れるまでは次のような形で進めましょう。
〇1人ずつ順番に自分の考えを発表する(30秒程度)
※その間、残りの2人は頷くなど反応するが、口は挟まない。肯定的に聞く。
〇3人の発表が終わったら、それぞれの考えを聞いて感想を簡単にまとめる(2分程度)
〇再び1人ずつ発表する(20秒程度)
〇フリートーク(2~3分程度)
実は大切なのはフリートークで、そこではそれまで話題に上らなかった柔軟な考えが出されることが多いですし、そうした話し合いこそが、子供たちに話し合う楽しさを味わわせることができます。もちろん、その前提として、それぞれが発表する前に、自分の考えをじっくりとまとめる時間をとらなければなりません。
心理学の言葉で、「単純接触効果」というものがあります。人は接触回数の多い人に好意を持つというものです。毎日様々な人と対話することで、自分とは違う考えに触れ、学びを深められるだけでなく、互いに好感をもつ存在にもなるでしょう。その結果、学級の雰囲気は確実によくなっていくでしょう。
授業のネタで勝負する
楽しく力のつく授業をするには、ある程度の腕が必要です。しかし、授業の腕はすぐには上がりません。子供の意外な反応を受け止め、ガイドしていくには、様々な経験を通し、臨機応変に、柔軟に対応できる力を身につけていく必要があります。では、そういう経験の少ない教師はどうすればよいのでしょうか。
お寿司屋さんで考えてみましょう。
ネタは普通でも腕があれば、美味しい寿司に仕上げることができるかもしれません。でも、腕はさほどなくても、最上のネタを用意できれば、それに対抗できる寿司になると思いませんか。
授業にも似たような部分があります。
最高のネタで最高の腕を振るった授業には及ばないとしても、よい授業のネタを示せば、授業者の腕はそこそこでも、子供たちは楽しく、自ら学んでいくものです。
ですので、まずは授業の楽しいネタを探していきましょう。教科書通りでは決して見られない、子供の生き生きとした姿が見られると思います。
私が授業のネタということで思い出すのは、授業名人と言われた有田和正先生です。有田先生の実践で「郵便ポスト」の授業があります。ごく粗くいうと、段ボールで郵便ポストを作ろうと子供たちに呼びかけます。すると、ポストの色や、投函口がいくつかなど、子供たちの意見が分かれます。その他にもポストには回収時刻が書いてあるのではないかなど、どんどん疑問が出てくるのです。その後、子供たちは、学校帰りに進んでポストの観察に向かいます。
こういうネタを示せれば、子供たちは意欲的に学んでいくでしょう。もちろん、そう簡単にネタは見つかりませんので、研修会に参加したり、本を読んだりする必要があります。
でも、自分でネタを探すのも楽しいものです。その際におすすめなのは、ネタを実生活の中から探すということです。
例えば、国語では単に俳句をつくるのではなく、手作り俳句集を作って図書館に置いてもらうのです。つまり本という、実生活に関係した活動を取り入れるのです。
算数だったら、ただ計算するのではなく、AというルートとBというルート、どちらで遠足先に向かったら安いのか、もしくは時間的に早いのかなどを比べるのです。
このように実際の生活にあるような場面を取り上げることで、子供はその学習を自分事として捉え、楽しく進んで学ぶでしょう。
以上、若手でもすぐに取り組めそうなことを述べました。
毎日何時間もある授業が少しでも子供にとって充実したものになれば、子供の表情が変わってきます。その様子をみて、保護者は安心し、教員への信頼を増してくれるでしょう。
※なお、お寿司屋さんを例に、授業におけるネタの大切さを考えるというのは、千葉大学名誉教授 明石要一先生から教えていただいたことです。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
イラスト/イラストAC
【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ! 授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。
まわりの先生から「おっ! クラスまとまったね」と言われる本。