青山新吾×南惠介 「インクルーシブな学級をどう実現するかー必要なマインドセットと具体的実践ー」【後編】

特集
発達障害8.8%をどう受け止めるか

ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・インクルーシブ教育研究センター長

青山新吾

岡山県公立小学校教諭

南惠介
左:岡山県公立小学校教諭・南惠介先生/右:ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・青山新吾先生
左:岡山県公立小学校教諭・南惠介先生/右:ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・青山新吾先生

「インクルーシブな学級づくり」に必要なのは、どのようなマインドセットと実践なのでしょうか?
インクルーシブ教育を研究する青山新吾先生(ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授)と、特別支援をベースにした学級経営を追究し続ける実践者・南惠介先生(岡山県公立小学校教諭)の対談、第2回(後編)をお届けします。

後編では、課題のある子どもとのつながり方のポイント、「子どもが主体」の授業づくりの大切さなどについて聞きました。

子どもが好きなマンガや番組を知っていますか?

――学級担任が課題を抱える子どもとつながるためのポイントは何でしょうか?

青山 毎年、春頃に大学の卒業生たちが、「教室に気になる子がいる」と相談にやって来ます。そのときに、課題の分析とは一切無関係な質問、例えば、「その子はどんな漫画を読んでいるの?」とか「どういうテレビ番組が好きなの?」といった、その子の生活についての知識を問う質問をすると、ほとんど答えることができません。

見落とされがちかもしれませんが、担任にとって、「生活視点で子どもとつながれるか」は、とても重要です。時々、その一点突破で1年間を凌ぎきる先生すらいらっしゃいます。いつも課題解決、個別対応しか頭にない教師が近づいてきたら、子どもはたまらないだろうと思います。

もう一点は、学習規律やルールは確かに必要だけど、子どもたちへの指導の仕方は考えなければならないということ。「こうしましょう」と言われても、子どもはできないから困っているのです。現状と目指す先、その間にあるプロセスをきちんと把握し、プロセスに価値を置いて子どもと一緒にやろうとすることが大事です。

「こうなったら、楽しいと感じる人が増えると思うんだ。だから、先生と一緒にそこを目指してやっていこう」と言うのと、「こうしなさい。これがルールです」と言うのでは、同じ内容でも子どもが受ける印象には雲泥の差があります。

 さきほど(前編参照)、担任が注意すべき3つ目のポイントとして挙げた「ルールやマナーは示す」というのは、そういう意味です。教師が目指すべき姿を示さないと、子どもたちは何をすればよいのか分かりません。

インクルーシブな学級づくりに限らず、子どもとつながることは何事においても基本です。生活視点をベースに子どもたちとつながることが、4月、最初にやるべきことではないでしょうか。
昔から言われる「難しい子とはまず遊べ」が、若い先生方にとって、生活視点で子どもとつながる一番簡単な方法なのだと思います。

青山新吾(あおやま・しんご)●1966 年兵庫県生まれ。岡山県内公立小学校教諭、岡山県教育庁指導主事を経て現職。臨床心理士、臨床発達心理士。著書に『自閉症の子どもへのコミュニケーション指導』(明治図書)、『インクルーシブ教育ってどんな教育?』(学事出版)他多数。
青山新吾(あおやま・しんご)●1966 年兵庫県生まれ。岡山県内公立小学校教諭、岡山県教育庁指導主事を経て現職。臨床心理士。『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』『通常学級「自立活動」の発想による指導』(学事出版)、『ゼロから学べる特別支援教育』(明治図書出版)など、著書多数。

青山 はい。生活実感でつながろうというのが基礎中の基礎です。しかしながら一緒に生活していると、生活実感のつながりだけでは、どうにもならない課題に直面します。そんなときは、もう少し踏み込んで、考え方を聞くことです。そして、そうするときのポイントは、「共感と理解は違う」という見地に立つことです。

例えば、ある子が友達を殴りました。その理由が「相手が少しでも悪いことをしたら、やっつけてもよい」と考えていたからだとしたら、どうでしょうか。共感はできないけど、考え方なら努力すれば理解できるはずです。このように、考え方を理解しようとしないと、つながりにくい子たちもいるのです。「相手のことを考えてごらん」と、学校の価値観で迫っても絶対につながることはできません。

「共感と理解は違う」という見地に立って、「どういう考え方なのだろう?」と、プロとしてつながりにいくのです。すると「初めて僕の考えを聞いてくれる大人が現れた」とその子が感じ、そこからつながれる場合があります。

大人たちのインクルーシブとセットでなければ機能しない

 そうですね。共感しようとするときは、子どもとの距離を近づけますが、理解しようとするときには俯瞰してみるといいと思います。「そう考えるんだ。へえ、おもしろい。でも困るけどなあ…」という感じです。

子どもを理解しようとするとき、出来事としてではなく、「ストーリー」として理解することも大切です。ストーリーが理解できないと、例えば、自閉症スペクトラムの子どもの行動は理解しづらい。なぜなら、彼らは完全に自分のストーリーで動いていますから。「テレビを見たい」と言われれば、「見たいよね。じゃあ、いつ見ようか?」と、その子のストーリーに一度乗っかるようにします。

青山 さすが南さん。では、僕からも、若い先生方でもすぐに使えるスキルを1つ紹介しましょう。それは、この刺激に対して、こう反応してしまうなら、刺激自体を変化させる必要性があるのではないかという視点をもつことです。
例えば、教室にボールを置いておくから教室内でボールを投げる子が出てくるわけで、事前に除いておけば、問題は起きません。子どもたちにマイナスの刺激を与えるものは他にもないか、私が刺激となって子どもを興奮させているのではないか、と考えるようにするのです。

だから、環境調整は大切です。朝から教室がゴミだらけだったら、当然子どもたちはゴミに反応します。どんなに辛くても、放課後に頑張って掃除をして、机もきれいに磨いて、黒板に「おはよう」などのメッセージを書いてから帰宅する。多少の時間はかかっても、その刺激は子どもたちに必ずプラスの反応をもたらします。

その際にできれば、他の先生方も手伝って、何人かで笑い合いながら掃除してほしいのです。
孤立させてはいけないのは、子どもだけでなく、教師も保護者も地域の人も同じで、インクルーシブな学級は、大人たちのインクルーシブとセットでなければ機能しないのではないでしょうか。

南惠介(みなみ・けいすけ)●1968 年岡山県生まれ。人権教育、特別支援教育をベースとした学級経営に取り組む。モットーは「一番しんどい子を、絶対に伸ばす!」。著書に『学級を最高のチームにする! 365 日の集団づくり 5年』(明治図書)がある。
南惠介(みなみ・けいすけ)●1968 年岡山県生まれ。人権教育、特別支援教育をベースとした学級経営に取り組む。モットーは「一番しんどい子を、絶対に伸ばす!」。著書に『学級を最高のチームにする! 365 日の集団づくり 5年』『子どもの心をつかむ!指導技術「ほめる」ポイント「叱る」ルール あるがままを「認める」心得』(明治図書出版)などがある。

「子ども主体の授業づくり」の有効性

――インクルーシブな学級を実現するうえで、「子ども主体の学び」がなぜ有効なのでしょうか。

 一斉指導では教師の考えに従って全てが進むのに対して、「子ども主体の学び」では、方向が逆、つまり逆設計になります。「○○しなさい」から発想を換え、「そうくるか。じゃあ、こんなやり方もあるかも」と考え、ディスカッションなどを含めた、逆設計の授業づくりをしてみると、子どもを今まで以上にしっかりと見ることができるようになります。

全授業においてそうする必要はありません。少しでいいので子どもに預けてみると、物理的にも心理的にも子どもから距離を置くことができ、多くのことが見えてきます。「この子にこんないいところがあるんだ!」と発見できたり、これまで見逃していた「困っている子」を発見、理解できるようになります。

青山 若い先生方に代わって、南さんに1つ質問します。「子ども主体の学びづくり」に意識的に取り組んでいくから、子ども同士の関係性がよくなるのでしょうか。それとも、子どもたちの関係性がある程度できているから「子ども主体の学びづくり」ができるのでしょうか。

 「子ども主体」の授業をつくり、指導していくからうまくいくのです。1年間、学習の中で少しずつ活動する機会をつくる中で、少しずつ子ども同士の関係性がよくなり、学びが豊かになっていきます。

グループ活動をさせると、いつもグループに入れない子がいたりして、いじめや疎外の構図を教師の前でライブで見せてくれます。一斉授業だけだと、いつまでもそれが見えない危険性がある。
青山先生は僕にこういう話をさせたかったんですよね?(笑)

青山 はい。少しずつ経験値を上げていくという視点、意図的な指導も必要だという視点、子ども同士の関係性は一斉指導では見えにくいので、活動させて観察するという視点――ベテランの先生方は当たり前だと思われるかもしれませんが、若い先生方にとっては大切なポイントです。

南惠介先生と青山新吾先生

――「子ども主体の学び」づくりにおいて大切なポイントは何でしょうか?

青山 一斉指導型の授業形態において学ぶことに課題を抱えていた子どもたちも、学習形態が変わることで、それまでは難しかった学習課題に取り組めたり、授業で目標とすることができるようになったりする場合があります。

つまり、「子供主体の学び」とインクルーシブには親和性があって、教科学習としての目標達成にコミットしている可能性は十分にあります。

ただし、なぜそれができたのかというと、周囲とうまく関係性がとれたからとか、周囲の教え方が向上していたとか、何か要因があるはずです。でも、それが、当事者の自己理解、自己認知につながっていない場合があるように感じます。教科の目標が達成できても、「先生の教え方は下手だったけど、周りの人たちの教え方がうまくて、その人たちに助けられたから分かったんだ」と自己認識していなければ、課題を抱える子どもたちは、これから社会に出て生きていくことは難しいのです。

今、特別支援教育で議論されている、社会に出たときに必要な力――自己理解、自己認知能力とコミットしていないということです。
そうした力は、一体、「子供主体の学び」のどのプロセスで育つのかという論点が必要だと思います。

 学習を通じて、生活の質を上げていくということですよね? 「子供主体の学び」の本質はまさにそこにあるのだと思います。

苦手な子たちの自己認知能力を上げるために、僕がやっているのは、苦手なことについては「君はここが苦手だよね」と率直に伝えることです。それから、「我慢できる? それともどこかに行く?」と聞いて、その子に選択させることです。

彼らには彼らのストーリーがあり、こちらから押し付けてもやってはくれません。ですから選択肢を提示した上で、「失敗してもいいから、やってみたら?」という声かけをする。大切なのは、必ず自己選択させる、ということです。

青山 今、南さんが話したことは、特別支援の自立活動にあたります。ところが、今の枠組みでは、それを指導するのに別の場所や別のカリキュラムが必要だという整理になっています。南さんが通常学級で実践しているのが特別なのであって、やっていない先生を責めることはできません。フレーム変更が不可欠なのだと思います。

 先生方は、特別支援の勉強は絶対にした方がいいと思います。習得したスキルは、翌日から何となくでも使えますし、多くの場面で役立ちます。コストパフォーマンスが高いんですよ。

【終わり】

「インクルーシブな学級をどう実現するかー必要なマインドセットと具体的実践ー」前編

取材・文/長昌之 撮影/西村智晴

『小六教育技術』2017年2/3月号より

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