職員のモチベーションを高めることにコストをかけていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #47】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第47回は、<職員のモチベーションを高めることにコストをかけていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

コロナ禍に見えた学校の役割と姿

今年度(2020年度)は、子どもが登校しない状態で始まるという前代未聞の事態となりました。

本連載でも何度か断片的にお伝えしてきましたが、私は、感染拡大第一波の最中のゴールデンウィークにインターネットを通じて、全国の教諭職(195人)の先生方にアンケート調査をしました。先生方は、子どもたちが通学できない状況でも、学びとつながりを断ち切らないために何かをしようとは思っていたようですが、実際には、ホームページでの呼びかけや、ポスティングによる課題配布時にメッセージを送るといったことが中心でした。オンラインによる授業や学活を実施し、双方向のやりとりをしていたのは、5%弱の学校でした。子どもたちが通学しないとつながる方法がほとんどないという、学校と子どもの絆の脆弱さが露呈しました。

こうした状況で浮き彫りになったのは、それまであまり意識化されてこなかった学校の役割でした。「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申素案)」(令和2年12月4日)にも、「こうした学校の臨時休業に伴う問題や懸念が生じたことにより、学校は、学習機会と学力を保障するという役割のみならず、全人的な発達・成長を保障する役割や、人と安全・安心につながることができる居場所・セーフティネットとして身体的、精神的な健康を保障するという福祉的な役割をも担っていることが再認識された」と明記され、学校の居場所機能や福祉的な役割が強調されました。

二つ目が、学校という組織のメンタルケアに対する優先順位の低さでした。子どものストレス状況が伝えられているにもかかわらず、メンタルケアに対する準備が何もないとの答えが、約4割ありました。子どももストレスを抱えていますが、それは先生方も同様です。しかし、職員のメンタルヘルスへの取組については、約7割が「なし」という回答でした。もちろん、回答者の所属する学校の多くが休校期間中であったためだと考えられますが、その当時の職員室の関心事は、学習と授業、及び今後の見通しで合計7割でした。メンタルどころじゃないという職員室の空気もわからないわけではありませんが、学校という組織はもともとメンタルのケアに対する配慮が不足し、特に職員に関してはその遅れ、無策すら指摘できると思います。

第三は、コロナ対応において管理職に対する要望や不満をもつ職員が9割近くいたことでした。有事において信頼を高める管理職がいる一方で、信頼を失う管理職もいました。自由記述から窺えたのは緊急事態なのでトップダウンなのは致し方ないと先生方は理解しているものの、「こういう状況だから、やってください」とか、職員がそれなりに努力をしているのに、何の労いもないなど、説明不足、コミュニケーション不足の事例が散見されたことです。

ストレス下のマネジメント

今、さらなる感染拡大が予想される状況です。国立成育医療研究センターでは、今年(2020年)4月末から継続的に「コロナ×こどもアンケート」と称して、子どもや保護者のコロナに関わるストレス状況を調査しています。それによると、感染状況にかかわらず、子どものストレス状況はずっと持続していて、第一回調査から第三回調査にいたるまで、7割以上の子どもがなんらかのストレス反応を示しています。子どもは「ストレス慣れ」などしていません。この傾向は、恐らく大人も同じだと思われます。

ストレスは人のモチベーションを下げます。危惧されることは、先生方がこの危機的状況を乗り切るモチベーションを低下させてしまうことです。学校が再開されてから、後回しになった行事等が怒濤のように襲ってきて悪戦苦闘する教師、GIGAスクールに関わる準備で土日出勤や突然、降って湧いた研修に辟易とする教師、夏休みの短縮によるリフレッシュ不足から休職、退職に追い込まれる教師、様々な教師の姿を本連載では伝えてきました。彼らは、単なる弱者なのでしょうか、わがままで使えない職員なのでしょうか。きっと多くの管理職の皆様は、そうではないと首を振っておられることでしょう。

職員のモチベーションを高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。奈須※1(2002)は、「人は意欲の出ないような環境に置き続けられ、あるいは意欲が出ないようなものの考え方をしてきたから意欲が出ない」と無気力のメカニズムを説明します。変化の大きい状況では、準備したことが無駄に終わる可能性が高まります。また、見通しの持てない中では、意味もわからずやり方だけ指示されることがあります。こうした状況では、何のためにやっているかわからない、やっても無駄だという思いを持ちがちで、モチベーションが下がりやすい環境にあると言えます。

モチベーションを高めるには、自己決定感、有能感、そして、それを支える他者受容感が重要だと言われます(桜井※2、1997)。「コロナ対策をしながら学力やつながりを保障するにはどうしたらいいのか」といった論題を立て、職員全員でアイディアを出し合って解決策を策定し、アクションを起こすプロジェクトを立ち上げてみてはいかがでしょうか。先生方が自分たちで決めて、取り組み、成果を共有することで、職員の関係性もつくられると思われます。怒りは二次感情であり、その根源は「わからないこと」だと言われます。それを放っておくと、職員室の不協和音になるかもしれません。問題解決のプロセスを共有することで、光が見えることでしょう。

※1 奈須正裕『やる気はどこから来るのか 意欲の心理学理論』(北大路書房、2002)
※2 桜井茂男『学習意欲の心理学 自ら学ぶ子どもを育てる』(誠信書房、1997)

『総合教育技術』2021年3月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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